194.鑑定士、2周目キングを余裕で倒す
地獄犬の群れを討伐した後。
俺はホームタウンにしている街まで戻ってきた。
とりあえず落ち着いて、情報を整理したかったのだ。
冒険者ギルドの酒場にて。
「さて、エキドナ。教えてくれ。なんで俺を過去の世界へ飛ばしたんだ?」
俺が酒場の席について、エキドナから情報を聞き出そうとした……そのときだ。
「な、あ、アイン!? ど、どうして生きてるんだ……!?」
剣士ゾイド、そしてその連れ合いの女ジョリーンが、俺の元へやってきたのだ。
「ちょっとゾイド! なんでアインが生きてるのよ!? おかしいじゃない!」
「し、知らねえよ! おれに聞くなよ!」
まあ向こうからしたら、死んだはずの奴が生きてたんだからな。
「あ、アイン! ねえ聞いて! 全部ゾイドが悪いの!」
ジョリーンが俺の元へやってきて、必死になって弁解する。
「命令されて無理矢理、麻痺をかけたの! 本当はやりたくなかったのにこのクズが脅してきて!」
俺はため息をついて、彼らをにらみつける。
「……失せろ。もう俺に関わるな」
魔力をほんの少し込めて威嚇した。
それだけで、ゾイドたちはガクッ……とその場で気を失った。
『殺気を少し飛ばしただけで、相手を気絶させるなんて。さすがねアイン』
俺はため息をつき、ギルドの受付へ行って、ゾイドたちを引き渡した。
そして戻ってくる。
「話がそれたが、エキドナ。教えてくれ。おまえが俺の意識を過去に飛ばしたのは、いったいどういう理由があったからだ?」
『…………』
「何か言いたくない理由でもあるのか?」
ぐぅ~~~~~~~~………………。
腹の虫が、どこからかなった。
俺のではない。
『私ではありません断じて。精霊。本来は食事を必要としません。決して周りの食事がおいしそうだなどと見とれていたわけではありません断じて』
「……元の世界に戻ったら、いくらでも食事をおごってやるよ。だから早く帰ろう」
するとエキドナが、声を潜めて言う。
『いいえ。あなたは、元の世界に戻ってはいけません』
先ほどとは打って変わって、エキドナは真面目な口調で言う。
「どういうことだよ。俺は戻りたい。元いた世界に」
『いけません。戻ればあなたは【魔王】になってしまいます』
「魔王であるミクトランの魂が、俺の体を乗っ取ってしまうからか?」
するとエキドナが、沈んだ声音で言う。
『……そういう意味ではありません。このままではあなたは、ミクトランと【同じ道】を辿ると言っているのです』
「魔王と……同じ道?」
『……アイン。どうかミクトランのことを、魔王と呼ばないであげてください』
エキドナはミクトランの恋人だったな。
自分の恋人を魔王なんて酷い呼ばれ方をすれば、嫌な気分になるか。
『ミクトランは、決して自ら望んで魔王の道を選んだのではありません。人間たちのせいで魔王に【なってしまった】のです』
「それって……どういうことだよ……?」
と、そのときだった。
ドガァアアアアアアアアアアアアン!
「きゃあ!」「な、なんだ!?」「外ででかい爆発があったみたいだぞ!」
今、外から強烈な闘気を感じる。
「この闘気……これって、もしかして……」
俺は席を立ち、外へ出る。
そして【そいつ】の居る場所まで走って行った。
……あたりは、酷い有様だった。
街の建物は破壊され、近くに居た住民たちは、殺されている。
頭が潰され、腹に穴があいた、無惨な死体の山の上に……そいつはいた。
「【キング】……?」
特級魔族キング。
本来、こいつと戦うのは、先の出来事のはず。
「あぁ? なんでサルごときが俺様の名前を知ってるんだよ?」
それはそうか。この世界では俺とキングはまだ戦っていないのだから。
「まあいい。俺様は遊びに来たんだよ。この町から魔王並みの強者のオーラを感じ取った。骨のある相手とやれると思って、こうしてわざわざ来てやったってわけよ」
キングがニヤニヤと笑いながら、俺に近づいてくる。
「……なぜ無関係の人を殺した? 用事があるのは俺なんだろ?」
「顔はしらねえからよぉ。適当にサルたちを殺しておめーが出てくる間、暇をつぶしてたのよ」
ぐるぐると腕を回しながら、キングがそんな最低なことをのたまう。
「良い闘気をしてやがるなぁおまえ。久々に楽しい戦いができそうでうれしいぜ。5分くらいはもってくれよな?」
キングが闘気で体を強化し、一瞬で距離を詰める。
そして拳を振り上げ、俺の頭めがけて振る。
ガギィイイイイイイイイイイイン!
「なんだぁ1秒も持たなかったなぁ……所詮サルか」
「……どこ見てやがる」
「なっ!? ば、バカな!? 今の一撃を受けて無傷だとぉおおおおおおお!?」
俺はキングの拳を、自分の額で受けた。
『当然です。今のアインでも四天王とほぼ同格の強さを持っています。今更特級魔族ごときに後れを取るわけがありません』
俺は拳を握りしめ、闘気で体を強化し、キングの土手っ腹に一撃を入れた。
ドガァアアアアアアアアアアアアン!
「ば……かな……強すぎる……サルのくせに……化け物……め……」
キングはボディーブローを受け、死亡した。
『特級を一撃とは。さすがの強さね、アイン』
「ああ……けど……街の人たちが……」
俺は倒れている死体を見てつぶやく。
『今のあなたは、ユーリの蘇生能力を持っていない。残念だけど諦める他ありません』
と、そのときである。
「化け物!」
こつん……! と俺の頭に、石が投げつけられた。
街の人たちが、遠巻きに俺を見ている。
その目は……完全に怯えきっていた。
「あ、あんなすごい強い奴を倒すなんて!」
「おまえも化け物の仲間なんだろ!」
みんなが俺に向かって、石を投げてくる。
「違う。俺は化け物なんかじゃ……」
俺は周りを見渡す。
みんな俺を恐怖し、憎んでいた。
「うぇええええええん! お母さん! おかーさーーん!」
死体に寄り添う女の子がいた。
その子は、一周目の世界で、魔族化したゾイドに母親を殺された子だった。
……あのときは、ユーリがいたから蘇生できた。
けれど今、俺に復活させる手段は、ない。
俺が無力さに打ちのめされていた……そのときだ。
パァ……! と周囲が白く輝く。
強い光とともに、俺は意識を失った。
……そして。
「な、あ、アイン!? ど、どうして生きてるんだ……!?」
……気づけば俺は、冒険者ギルドの酒場にいた。
そして驚いたゾイドが居る。
『能力で時間を戻しました。あの惨劇は、無かったこととなります』
「そうか……良かった……」
ほっ、と俺は安堵の吐息をつく。
『しかし少しはわかったでしょう? 魔王になるということが、どういうことか?』
エキドナが静かに語る。
『説明しましょう。あなたが元の世界に戻ってはいけないという、その理由を。魔王となった勇者の、過去とともに』