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191/244

191.鑑定士、平和の象徴となる



 エキドナを討伐してから、一ヶ月が経過した。


 この日、俺は王様に城へ来るよう言われていた。


「アイン、さん。おめかしして、どこ……ゆくの?」


 ジャスパーの屋敷、その玄関先にて。


 ユーリが首をかしげて言う。


「叙勲式に参加するんだ」


「じょくん?」


「王様が勲章くれるんだとさ。魔王を討伐した功績をたたえてだって」


 魔王、すなわちエキドナを自称する、あの女のことだ。


 ユーリにとって【エキドナ】とは、自分の大好きなお姉ちゃんを指すからな。


「姉ちゃんの様子はどうだ?」


「まだ、寝てます。うんとも、すんとも」


 ユーリが胸の前で手でお椀を作る。


 するとユーリの胸の奥から、白く輝く精霊核が出現した。


 これはユーリの姉【長女エキドナ】の精霊核である。


「……ねえさま、死んじゃったのかな」


「大丈夫だって。魔王と戦う前、ウルスラが言ってたろ? 精霊核があればエキドナは復活するって」


 俺はユーリの金髪をなでる。


「しばらくすれば、またお姉ちゃんに会えるさ。いつ起きるかわからないんだ。そんな悲しい顔してたら、起きた姉ちゃんが心配するぞ?」


「……うんっ♡」


 ユーリが俺に笑顔を向ける。

 

 良かった。やはりこの子は笑っている顔が一番似合う。


「ところ、で。アイン、さん。お返事……は?」


「うっ……」


 返事、つまり、前にユーリからされた愛の告白への返答のことだろう。


「わたし、わくわく、お返事、わくわく!」


「ま、まだ早い。ちゃんとおまえがエキドナと再会できてからな」


 まだ心の整理がついていないのだ。


「へたれ、です」


 ユーリがむくれていた、そのときだ。


「やぁ坊や。待たせてすまない」


「ジャスパー。すまんな、付き合わせて」


 赤髪の大商人が、俺の元へとやってくる。

 いつもは彼女の付き添いで王都へ行くが、今日は違う。


「俺に付き添ってもらって、すまん」


「気にするな。勇者の従者として招かれたんだ。こんな名誉はないよ」


 馬車の手配やら、本番での立ち振る舞の練習など、ジャスパーに手伝ってもらったのだ。


「さぁ。いきま、しょー!」


 ユーリが俺の左目に収まる。


 ……ズキンッ!


「……ぐっ」


 俺はその場にうずくまる。


「だ、大丈夫かい?」


「問題ない。ちょっと本番前で緊張してるんだ……」


 俺は立ち上がって首を振る。


「最近よく立ちくらみが多いね。一度医者に診てもらった方がいいと思うよ」


「たいしたことないって。ほら、いこうぜ」


 俺はジャスパーとともに、屋敷を出る。


 ワァアアアアアアアアアアアアアア!


 大歓声があちこちから上がる。


「勇者様だぁ!」「勇者様が出てきたぞぉ!」


 ジャスパーの屋敷の外に、たくさんの人たちがいた。


 人間だけでなく獣人、エルフ、ドワーフ。

 種族のバラバラな彼らがみな、俺に笑顔を向け、手を振っている。


「まだ叙勲式がはじまってないのに。さすが坊や、大人気だね」


 ジャスパーが微笑むと、俺の腕をぎゅっと掴む。


 その大きくふくよかな乳房の中に腕がはさまり、気持ちが良かった。


「さぁいこう。新たな英雄のお披露目にね」


「……ああ」


 俺は胸を押さえる。

 妙に、胸が苦しかった。


 だが緊張で胸が痛いと偽って、俺はジャスパーの後ろをついていく。


 彼女の用意した馬車に乗り込むが、しかしなかなか出発しない。


「すまない、人が集まりすぎて、交通整理に手間取っているようだよ」


『さすがじゃアイン。こんなに多くの人たちから好かれるとは』


 ややあって、ようやく馬車が出発する。


「アイン様ぁ!」「こっちみてー!」「すてきー!」


 ジャスパーの家の前には、長蛇の列がどこまでも伸びている。


「これ、王城までずっと続いてる……なんてことはないよな?」


「そのまさかだよ。というか王都の外まで人でごった返しているよ。みんな君に会いに来てるんだね」


 ガラガラ……と馬車が進んでいく。


「アイン様ばんざぁい!」

「救国の勇者様、ばんざぁい!」


 外の大歓声で馬車が揺れていた。


「さすが【平和の象徴】。大人気だね」


「平和の象徴って……いつ聞いても大げさなあだなだな」


「大げさなものか。君は知らないだろうけど、君が魔王を倒したことで、本当に世界は平和になったんだ」


 ジャスパーは大きな商業ギルドのギルドマスターだ。


 世界の情勢に詳しいのである。


「君のおかげでモンスターはすべて消えた。魔族が襲ってくることもない。悪人たちも君という大英雄がいるおかげで、犯罪に手を出さなくなった。これが平和の象徴でなくてなんだというんだい?」


 あまり外に出ない俺には、実感のないことだった。

 

 だが大商人の彼女が言うんだ。

 本当に、世界は平和になってくれたのだろう。


 ーー本当に、そうか?


「…………」


「どうしたんだい、浮かない顔をして」


「いや……ちょっと気がかりなことがあってな」


「魔王のことかい? 君に言われてあの後も調査しているが、彼女はどこにも見当たらないよ」


「そう……か……」


「もう大丈夫じゃないかい? あの魔王は完全に消滅した。これは絶対だ。私が保証しよう」


 とはいえ、やはり気がかりではある。


 魔王は最後、自ら命を、俺に差し出すように見えた。


 不自然なのはそれだけない。


 やつはわざと各地に出現し、そして【自分が魔王ですべての黒幕だ】と言って回っていたという。

 

 ……不自然な点が多すぎる。


 ……ズキンッ。


「また立ちくらみかい?」


「大丈夫だ。問題ない……」


「城に着くまで少し寝ると良い」


 俺は馬車に揺られながら、目を閉じる。


 ややあって。


 馬車は王城に到着した。


 騎士に護衛されながら、俺は城の中を歩いて行く。


 俺は国王の居る、謁見の間までやってきた。


「おめでとう、アイン・レーシック!」

「ありがとう、我らが救世主よ!」


 城には各国の重鎮たちが集結していた。


 みな拍手して、俺を笑顔で迎えてくれる。

 

 気恥ずかしさを感じながら、俺は赤い絨毯の上を歩く。


 ……ぐらっ。


 とふらつく俺を、隣を歩くジャスパーがこっそりと支えてくれた。


「……後で医者を呼んでおこう。今は頑張ってくれ」


 俺はうなずいて、国王の前で跪く。


 国王ジョルノは、俺に長々と、格式張った感謝の意を伝える。


 俺は事前の練習通り、つつがなく式典をこなしていった。


「では、勲章を授与する」


 俺は立ち上がり、国王に近づいて立つ。


 国王は宰相から勲章を受け取ると、俺の胸につける。


「やはりわしの見込んだとおりだったな」


 国王がこっそりと、楽しそうにウインクする。


「おぬしは英雄になる運命だったのだ」


 国王は俺から離れると、声を張り上げる。

「みな! 新しく誕生した、平和の象徴アイン・レーシックに喝采を!」


 ワァアアアアアアアアアアアアアア!


 万雷の拍手と鳴り止まない歓声を聞きながら、俺は達成感を覚えたのだった。

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― 新着の感想 ―
不自然なのはそれだけない。 →不自然なのはそれだけ『じゃ』ない。 ではなくて? 平和の象徴ってヒロアカですねww
[気になる点] 『自分が魔王ですべての黒幕だ』とか言って回った所で全員ポカーンでしょ? 『魔王ってなに?』『黒幕ってなんの?』 って思ったと思うよ。 まず自分達の国があるし、障壁で囲まれてるから行…
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