19.鑑定士、敵に襲われる冒険者を助ける
隠しダンジョンに、俺は再び足を踏み入れている。
ユーリの本体である、世界樹の様子が気になったからだ。
俺は、隠しダンジョンの心臓・迷宮核を吸収した。
迷宮核が消えたら、隠しダンジョン下層部にあった、世界樹はどうなってしまっているのか。
まさか消えたとかないよな?
『わしが生きてる時点で、ダンジョンが消滅したなんてことはないじゃろうが』
「まあそうだけどさ。実際どうなってるのかなって気になってよ」
だからここを訪れ、世界樹の元を目指してる次第だ。
ウルスラに世界樹までのルートを鑑定してもらい、それに従って、俺は歩く。
「結構人来てたみたいだな」
足元を見やると、靴の痕がいくつもあった。
『お宝があるかもとノコノコと足を踏み入れたのじゃろう』
「まあ実際ユーリって言うこの世の宝があったわけだがな」
『おっ、よくわかっておるじゃないか! 褒めてやるぞ!』
『お、おかーさーん……アイン、さんも……は、はずかしいよぅ~……♡』
その割に、まんざらでもなさそうだった。
世界樹の元へと順調に向かっていった……そのときだ。
『敵じゃ。だいぶ近い。じゃがこっちに気付いてないようじゃ。近くのエサに夢中のようじゃな』
「エサって……冒険者か」
どうやらちょっと離れたところで、モンスターと他の冒険者がやりあっているようだ。
「戦況は?」
『モンスターの圧勝じゃ。冒険者パーティは全滅寸前。食事会が開かれるまで、もって数分ってところじゃろうな』
かなり劣勢のようだ。
「……どうするか」
俺が敵を倒す理由は、俺自身に降りかかる火の粉を、払うためだ。
俺はずっと、自分一人のために戦ってきた。
一度だって、誰かを助けたことはない。
しょうがないだろ。
誰かのピンチを助けられるチカラなんて、不遇職の俺には、なかったんだから。
しかし……今、俺には最強の力がある。
人を助けられる、チカラがある。
「……なあ、ユーリ」
『な、んです……か?』
「今、人がやられそうになってるらしい。おまえは……どうしたい?」
俺の意思ではなく、彼女の意思を聞いてみることにした。
この最強のチカラは、俺だけの物じゃなく、精霊から与えられた物だから。
俺の問いかけに、ユーリは答える。
『アイン、さん。助けて、あげ、て』
「見ず知らずのやつらでも?」
『困ってる、人……ほって、おけない、です』
……ああ、この子は優しい子なんだな。
この子は奈落に落ちてくる冒険者たちを、全員、助けていたという。
その結果、自分が痛い思いをするとしても、だ。
優しい性根の子なのだろう。
「わかった。おまえの意思を尊重する」
俺が走って行くと、冒険者パーティがモンスターに囲まれている現場に到着した。
『雷狼じゃ。Cランクのモンスターだな。大きさは普通の狼じゃが【招雷弾】という、当てた相手を一時的に麻痺させる遠隔攻撃を打ってくるぞ』
雷狼の前には、ひげの男が剣を持って立っている。
おそらく職業は【剣士】だろう。
俺は精霊の剣を手に、剣士と、雷狼の間に割って入る。
「きゅ、救援か!? た、助かった!」
彼はよく見るとボロボロだった。
「仲間がおれ以外やられた! おれももういつまで持つかわからない! だからほんと助かった……って、おまえ……アインか?」
剣士の男の顔が、失望に変わる。
「おわった……助けが来たと思ったのに……来たのがゴミ拾いのクズとか……不幸すぎる……」
ひでえ言われようだが、まあしょうがない。
俺は世間的に見れば不遇職。
下級普遍職のなかでも、特にゴミとされる職業の鑑定士だ。
助けかと思ったそいつが、鑑定士だったら……あんなふうに落ち込むのも無理ないだろう。
「アイン、邪魔だ。どっかいってろ。おまえじゃ話にならねえよ」
剣士が俺のえりを、乱暴に引っ張って、後に放り投げる。
『こやつどうしてアインを馬鹿にする? 隠しダンジョンから帰還しレベルが上がったことを知らぬのか?』
「……ギルドの奴らは誰一人として、俺が隠しダンジョンから帰ってきたって信じてないんだよ」
ゾイドもそうだったが、マジで誰も俺の話を信じてくれなかった。
不遇職が、強敵はびこる死地から帰ってこれるわけがないと思い込んでいるわけだ。悲しい。
ちょっぴり凹む俺をよそに、剣士と雷狼との戦いは続いていた。
「ガロォオオオオオオオオオオ!」
雷狼が、口を大きく開ける。
雷が集まっていく。
『あれが雷狼の【招雷弾】のようじゃ』
凄まじい速さで、雷狼から、雷の球が射出される。
「ウルスラ。あれの動きを鑑定してくれ」
周りの動きが、非常にゆっくりになる。
俺は超加速で脚力を強化。
招雷弾が剣士にぶつかる前に、彼の前に割り込む。
攻撃反射のタイミングを鑑定。
俺は剣を振る。
パリィイイイイイイイイイイイン!
招雷弾は俺の剣に弾かれる。
凄まじい速さですっ飛んでいき、雷狼にぶつかる。
「ギャッ……!」
雷狼は、自分の招雷弾を受ける。
だが自分のものだからか、麻痺してないようだ。
「ガロォオオオオオオオオオオ!」
俺めがけて、オオカミが突っ込んでくる。
俺は【斬鉄】を使用。
動きをウルスラに鑑定してもらう。
敵の動きがゆっくりとなっている中、俺は精霊の剣で、雷狼の側面へ移動。
そして、敵の首を剣で撥ねた。
【斬鉄】で強化してるからだろう。
モンスターの首を、まるで溶けたバターのごとく、容易く斬れた。
「………………は?」
剣士の男は、ぽかーんと口を開いて、突っ立っていた。
「終わったぞ」
「う、うそだろ! なんだよ今の! 完全に剣士の! 上級普遍職の動きを越えていた!」
剣士が俺のことを、まるでバケモノを見るような目で見やる。
「アイン……なんなんだよ。おまえ……いったい何もんだよ……?」
「別に。ただの鑑定士だよ」
「な、なにがなんだか……わからんが……助かった!」
剣士は表情を一転させ、俺の腕をがしっと掴む。
「ありがとう! 助けてくれてありがとう! 馬鹿にしてすまなかった! 許してくれ!」
ペコペコと、剣士が、俺を下に見ていた上級普遍職の冒険者が、感謝している。
だが……俺は喜ばなかった。
俺に感謝するのはお門違いだからな。
ユーリにしてくれ、とは言えないし。
「おまえを侮ったおれがバカだった! 視野が狭かった! おまえ、こんなに強かったんだな!」
「いや、俺は強くねえよ……」
「謙遜しなくていい! いやほんとうに強かった! すごい! すごいぞ!」
「いやだから俺はほんとたいしたことなくてだな……」
どうしたものかと、俺はしばし困った後、めんどくさくなって、その場から逃げたのだった。
ちなみに俺が剣士の注意を引いている間、ユーリがこっそりと、負傷者を治療していたのだった。




