181.鑑定士、精霊たちとお花見する
俺が封印を破り、神を討伐してから、2週間ほどが経過した、ある日のこと。
レーシック領内にて、俺は【お花見】をすることになった。
「おお、綺麗だな。なんて花だ?」
俺は1本の大きな木の下に、敷物をしいて座っている。
木には薄紅色の花が咲いており、風が吹くとそれらが青空へと流れていく。
「この木は【ベニザクラ】といってな、この地方の、春にだけ咲く花じゃ」
俺の隣に座る白髪幼女が、コップ片手に言う。
「最近めっきり暖かくなったな。のどかで良いよ」
俺はごろん、と敷物の上に寝転ぶ。
「おぬしのおかげで、最近敵の姿が見えなくなった。さすがアインじゃ」
うんうん、とウルスラがうなずく。
本当に最近は襲撃が減った。
熾天使セラフィムによると、12柱いた神はすべて討伐されたそうだ。
俺が11柱倒したので、最後の神は誰かほかの奴に倒されたのではないかと。
それがエキドナ(仮)の仕業であるようにしか、俺には思えなかった。
「エキドナ捜索はジャスパーがやっておるのだろう? おぬしは来たるべき日に備え、たっぷりと英気を養っておればよい」
と、そのときだった。
「お兄さーん! お待たせー☆」
ピナがほかの姉妹を連れて、俺たちの元へとやってくる。
「なんだ、その格好?」
ピナたちは、黒姫たちが普段着ているような、【和服】とやらを身に纏っていた。
「お花見ってことで、和装してみました☆」
「どうどう、アイちゃ~ん。お姉さんせくし~?」
色鮮やかな和服は、確かに美少女たちに似合っていた。
「ほらほら、ユーリおねえちゃんも!」
ピナに背中を押されて、ユーリが俺の前に来る。
翡翠色の着物を着たユーリが、おずおずと俺の前に来る。
普段伸ばしている金髪をアップにしていた。
真っ白なうなじが見えて、ドキッととした。
「アイン、さん。どう、でしょー? せ、せくしー?」
ユーリは耳を赤く染めながら、ニコッと笑った。
「ええっと……せ、セクシー、です」
えへへ~とユーリが笑う。
「アイン、さん。お花見、なので……お料理、つくりましたっ」
「お、おう……そ、そうっすか……」
ユーリは何重にも積み重なった箱を持っている。
……今までの真っ黒焦げの何かが脳裏をよぎった。
「さっ、みんな座って座って☆」
「では……わたくしはアイン様の隣で」
三女テレジアが、俺にしなだれかかるように座る。
「……なぜ前をはだけてるんだ?」
「いつでも……アイン様に食べていただけるように……♡」
テレジアのふくよかな生の胸に、俺は顔を赤らめて目をそらす。
「ねえさま、えぬじー!」
「……メイたちもいるから、自重してください」
ユーリとアリスが協力プレイで、テレジアを引き剥がす。
ややあって。
「それじゃーお花見始めましょー。かんぱーい☆」
ピナの号令で、精霊たちが手に持ったグラスを付き合わせる。
敷物の上には、色とりどりの料理が並んでいた。
……端っこの方に、黒く焦げたなにがしもあった。
「アリスの着物、似合ってるな」
「……そ、そう」
髪の毛と同じアメジストの着物を、アリスは着ている。
清楚なたたずまいのアリスには、こういう服装が似合っていた。
「ちなみにおねえちゃん、下には何もはいてないよ☆」
ピナが近づいてきて、アリスのスカートのすそをめくろうとする。
「きゃぁっ!」
アリスは考えられないほど大きな声を出す。
「ごめーん☆ でも早くしないとユーリおねえちゃんに取られちゃうぞ☆ っていうアドバイス」
何の話だろうか。
というかなぜ下着を身につけないのだろうか……?
「アインしゃんアインしゃん~♡」
「どうしたユーリ……って、顔真っ赤だぞ」
ユーリが俺にしなだれかかってくる。
いつも以上に、ふにゃふにゃした笑みを浮かべていた。
「わらしのお料理、たべてりゅ~?」
至近距離まで、ユーリが顔を近づける。
め、目が合わせられない……。
というか、酒の匂いがした。
「誰だよユーリに酒飲ましたのは」
「「さぁ~?」」
クルシュとピナだな。とぼけやがって。
「ユーリはまだ未成年だろ?」
「いやぁ、アタシたち精霊めっちゃ長生きだから、大丈夫なんじゃない?」
「そうそう、堅いこと言うなよ~アイちゃん~」
アホ姉妹は酒飲んでゲラゲラ笑っている。
「ねーねーアインしゃーん」
グラス片手に、ユーリが俺に寄りかかる。
なぜか胸元が、はだけていた。
「おりょうりたべてたべて~」
「はいはい。わかったよ」
俺は黒いなにがしを一口食べる。
シャリっとか、ジャリッとかする。
「なんか俺、最近ユーリの手料理がくせになってきた気がするよ」
「えへへっ♡ それってぇ……わらしのお料理、毎日たべたいてきなやつですかぁ?」
「いやまあ……」
ここで肯定すると、隣ですごい悲しそうな顔をしているアリスに申し訳ないので、言葉を濁した。
「よーよー、アイちゃんよ~。結局うちの妹の、いったい誰が好きなんだよぅ~」
酒で顔を真っ赤にしたクルシュが、俺にしがみついてくる。
でかい乳に腕が挟まれて、埋もれていった……だと……?
「だから、前も言ったけど全員好きだってば」
「……はっきりしろ」
え……っと思ってそっちを見る。
「……男ならハッキリしろよ」
「あ、アリス……さん?」
グラス片手に、顔を真っ赤にしたアリスが、俺をにらんでいる。
「お、おまえ酔ってないか?」
「……酔ってねえよ。さっさと答えろよ。誰が好きなんだよ? なぁ?」
据わった目でアリスが俺に問うてくる。
答えに困っていると、アリスがでかいため息をついた。
「……はいはい、わかってますよ。ど~~~~~~~せ、わたしは胸なしぺったんこですよ」
いじいじ……とアリスが地面を指でぐりぐりしながら言う。
「別に胸は関係ないんだけど……」
「……じゃあ私が一番だって言ってよ。ねえ? 胸が関係ないなら私が一番で良いじゃん」
「いや誰が一番ってことはないんだって」
「ほ~~らやっぱり胸だ! ごめんなさいね、無い乳女で!」
ふんだっ、とアリスがそっぽ向く。
「アインしゃん♡ わらし……ねえさまみたいなぺちゃぱいじゃないよ~♡」
「きー! ユーリ! てめえこの乳をよこせー!」
酔ったアリスがユーリを押し倒し、胸をこねくり回す。
その際、ふたりの浴衣が完全にはだけ、美の権化ともいえる裸身が青空の下にさらされる。
俺は目を手で覆って、はぁ……とため息をついた。
「なはは、いやぁ、妹たちが元気になってくれて、よかったよ、ね、アインちゃん」
「そうだな……」
エキドナの件があってから、ユーリ含めて妹たちはショックを受けていたからな。
「お花見開こうっていってくれて、ありがとね、アイちゃん。さすがお姉さんたちの旦那様だ」
ちゅっ、とクルシュが俺のほおにキスをする。
気恥ずかしくなって、俺は目をそらすのだった。