176.鑑定士、戦女神の最強の盾を破壊する
俺が、ナーガとガルーダを討伐した、その日の夜。
王都の郊外に、新たな神が出現した。
「わが名は【アテナ】。オリュンポス12神が一人だ」
アテナは【オリーブの葉】と【フクロウ】の意匠が施された鎧を身に纏う女神だった。
その手には槍と、そして巨大な大盾を装備している。
「なるほど、君が噂の死神か。思ったよりも大したことなさそうだな」
また死神と呼ばれてる……。
ちょっと凹むな。
罪のない人の命を奪う、無差別殺人鬼みたいでさ。
『アインさんは、そんなひどいひとじゃあないもん! あやまれー!』
『そうだそうだー! めーのおにーちゃんはいーひとだもん! あやまれー!』
ユーリとメイが、俺のために怒ってくれていた。
ありがたい。
「仕方あるまい。君は多くの敵の命を奪ってきたのだからな。もっとも、それはレベルの低い相手ばかりだけれどね」
ふぅー、とアテナが俺を小馬鹿にするようにため息をついて、首を振る。
『ちょっとおばはん、聞き捨てならないんですけどぉ~? お兄さんはあんたの同僚、3柱も倒してるんですけど。馬鹿にしないでよね』
「アポロン、アルテミス、アレス。どの神も神として若輩者だ。つまりまだ、我と比べると実力が不足ものばかり。そいつらを倒しただけで、自分が強者になったと勘違いしてもらっちゃ困る」
アテナは俺に槍を向ける。
「死神、おとなしく降伏するんだ。そうすれば今なら楽に死ねるよ」
「断る。俺はまだ、恩人に恩を返し切れていない」
俺のなすべきこと、それは力を与えてくれた恩人。
ユーリに彼女の姉妹全員に、会わせることだ。
現在、8人の姉妹がそろっている。
あと一人で、目的が達成できるのだ。
「ここで立ち止まるわけにはいかない。邪魔をするというのなら、俺はおまえを排除する」
「ハッ! たいした自信だね君。けど……残念だ。それはかなわないよ。見て、この大盾」
ガシャッ、とアテナが盾を構える。
装飾品等ない、シンプルな盾だ。
表面が銀ぴかでつるりとしている。
一見すると鏡のようにも見えた。
「これは【神盾】。われらが父君から与えられた、最強無敵の盾だよ」
アテナが自信たっぷりに、胸を張って言う。
「この盾の効果は【絶対防御】。この世に存在するどんな攻撃を受けても壊れない、最強の盾だ。どうだい、すごいだろ?」
鑑定してみたところ、神盾の能力は、アテナの言っているとおりだった。
「いくら君が強い攻撃をするといっても、攻撃の通らぬ盾を相手にどうやって攻略すると言うんだい? 君の負ける確率は100パーセント」
「そうか。問題ないがな」
「ハッ! 頭の悪い子供だ。死神とはいえやはり未熟な下等生物だね」
アテナが盾の後ろに完全に隠れる。
右手に持った槍の先を、俺に向けた。
「じゃあ死んでいいよ。わが【戦女神の短槍】に串刺しになるがいい!」
アテナの持っていた短槍が俺めがけて伸びてくる。
早いが、よけられないスピードではない。
俺は槍の攻撃を躱すと、アテナめがけて疾走する。
「攻撃は無駄だというのに、馬鹿な子供だね君は」
「それはどうかな」
俺は間合いに入ると、聖剣を取り出す。
極光の輝きを放つ聖剣を、アテナの神盾めがけて振る。
ガギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
金属同士が強くぶつかり合う音。
盾の表面には、傷一つついてなかった。
「見たかい? 君ご自慢の一撃をほら防いだよ」
「そうか」
「強がらなくて良いよ? 剣が通じなくて焦ってるんでしょう?」
「そんなことはない」
「まったく、人間ってそういう意地っ張りなところがあるから、気持ち悪いよね」
言いたい放題だな。
まあ、言わせておけば良い。
「よし……いくぞ」
俺は聖剣を構え、また思い切り斬りかかる。
ガギンッ!
「無駄だってば。まったく」
俺は聖剣を手に、神盾を滅多打ちにする。
キンキンキンキンキン!
「何やってるの? 無駄だっていったでしょ?」
キンキンキンキンキン!
「だから攻撃無効だって言ってるじゃないか。頭悪いなぁ」
キンキンキンキンびきっ……!
「はっ? えっ? ちょっ? い、今変な音しなかった?」
びきっ! びきびきっ! びきっ!
「う、うそ!? な、なに!? ひびは入ってる!?」
神盾表面に、小さなひびが入っていた。
それは連続して斬りかかることで、徐々に亀裂が入り出す。
『くくく……わが眷属よ。進化した【浄化】の力が、ここに来て威力を発揮しているようだな』
俺の脳裏で八女マオの声が響く。
彼女の持っていた能力は【浄眼】。
あらゆる呪いを見ただけで解く等の能力を持っていた。
俺は今、マオを霊装として身に纏っている。
霊装することで、元々精霊が持っていた能力が向上したり、進化したりすることがわかった。
『わが浄眼は霊装することにより、相手のもつ能力値を弱体化させる能力へと進化したのだっ! たとえ、相手が神であろうとな……! くくく……やるではないかわが眷属よ』
つまりマオ霊装状態で攻撃すればするほど、相手は弱くなっていく。
神盾がいかに優れた性能であろうと、弱体化してしまえばただの大きな盾と同じだ。
「ば、ばかな!? 神の力を弱体化させるなんて! できるはずがない!」
アテナは声に焦りがにじみ出ていた。
その間も、俺の攻撃は続いている。
弱体化はどんどんと進行していく。
「盾を捨てて逃げないと死ぬぞ」
「そ、そんなことできるか! 神は逃げない!」
強気なアテナであったが、神盾はどんどんともろくなっていく。
ややあって。
俺は距離をとって、聖剣を構える。
「マオ。それに……ユーリ、いくぞ」
『はいっ!』『くくく……任せるがよい!』
俺は一度霊装を解く。
俺の両隣にユーリとマオが出現し、俺と一体化する。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「な、なんだ!? さっきとは比べものにならない力!」
「【二重霊装】だ」
「にじゅうれいそう……だと!?」
「文字通り二人の精霊を身に宿したんだ。単純に俺の力はさっきの倍になった」
俺の髪の毛は金髪に赤いメッシュが入った髪へと変化している。
「ひぇっ……!」
アテナが怯えた声を漏らす。
「や、やめろ! やめてくれ! 今の状態でさっきより強い攻撃受けたら死ぬ! 死んじゃう!」
「終わりだ」
俺は二重霊装によってさらに強化された聖剣で、神盾めがけて振るった。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
盾は粉々に砕け、そしてアテナは消滅。
『さすがじゃアイン。絶対に破れぬ盾を破壊するとは』
『くくく……われら二人をその身に宿すとは、すごいではないかわが眷属よ』
『アインさんは、ほんとにすごいです!』