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173.イオアナ、戦う前から戦意喪失する



 鑑定士アインが、軍神アレンを討伐した、一方その頃。


 魔界にて。


 魔族イオアナは、魔界の街を歩いていた。

「なにこれ……いったい……どうなってるの……?」


 街の至る所に、奇妙な【木】が生えているのだ。


「地面から生えている……これは……樹木の枝?」


 黒々とした枝がいたるところから伸び、その先に、節くれ立った奇妙な木が佇立している。


 イオアナは【黒木こくぼく】に近づいてみる。


 節くれ立った幹と枝。


 時折赤黒く発光している。


「なにこれ……気色悪い……こんなのがあちこちにあるとか。いったい……なんなのこれ?」


 そのときだった。


『た、たすけ……たすけて……』


 声は黒木から聞こえてきた。


 と、そのときである。


 ボゴッ!


 地面が隆起し、そこから黒い木の枝が生えたのだ。


「な、なんだこれは!?」


 枝がすさまじいスピードで、イオアナめがけて動き出す。


 まるで地を這う蛇のごとく、俊敏かつなめらかな動きだ。


 しゅるり……とすばやく枝がイオアナの足に巻き付く。


 それはあっという間にイオアナの体を締め上げた。


 がくん……とイオアナの体から力が抜ける。


 ドバァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 突如、黒木となったイオアナが、赤黒く発光したのだ。


 そこに立っていたのは……白髪のイオアナだった。


「ハッ! 【鬼神化】を習得したボクに……こんなもの通じるかよぉ!」


 鬼神化。

 禁術の先にある、さらなる強化の術だ。


「あら、やるじゃない、イオアナ」


「! エキドナ!」


 上空から、美貌のダークエルフが降りてくる。


 浅黒い肌。

 銀のつややかな長い髪。


 彼女は【エキドナ】。

 世界樹9姉妹の、長女にして、最後の精霊だ。


「誰にも教わらず鬼神化に到達するなんて、たいした子ね」


「ハッ……! 当たり前だよ。ボクを誰だと思ってるんだ? 特級魔族イオアナ様だぜ?」


 にやり……と邪悪にイオアナが笑う。


「どうだアイン……鬼神化を身につけたぞ……! これで……ボクらは対等だ! これでもう負けない!」


「それは良いことね。けどイオアナ、アインの元へ行くのは、もう少し待ってちょうだい」


「は……? 何でさ」


「準備にもう少し、時間がかかるからね」


「準備?」


 エキドナがうなずく。


 どくん……どくん……と黒木が脈動する。

 それらの赤黒い光は、地下深くへと送られていく。


「こちらもあちらも、まだ力をため込む時期なのよ」


「は……? ど、どういうこと?」


「いずれ、アインと我々とで、全面戦争が起きる。そのときまでイオアナ、あなたには死なれては困るのよ」


「全面戦争……なるほど。人間と魔族との最終決戦だね。いいよ、ボクも力を貸してあげるさ」


 エキドナは微笑むと、首を振るった。


「いいえ。魔王四天王。わたし。そして魔王様。対アイン一人という図式よ」


「は……? な、なんだよそれ……。ボクら魔族が数に入ってないんだけど」


「ええ。魔族はもう、不要だから」


 いつも通りの、微笑みを浮かべるエキドナ。


 冷たい目が周囲を見渡たす。


 その目は、ゴミを見る目と同じだった。


「ま、まさか……!」


 イオアナのなかで、すべてがつながった。

 魔族の気配がなくなった街。


 そして、先ほど枝は、イオアナを取り込もうとした……。


「ボクら魔族を……樹木にしたのか!?」


「ええ。魔王様復活の栄養として、彼らには供物くもつになってもらったのよ」


「どうしてそんなことするんだよ! ボクら魔族は、仲間じゃなかったのかよ!?」


 イオアナはエキドナに詰め寄る。


魔族あなたたちは、所詮は駒なのよ」


「駒……だと……?」


「魔族に限ったことじゃないわ。この世に存在するすべては、わたしにとって、ミクトラン復活のためにある……道具に過ぎないの」


 この女は、自分とミクトラン以外、本気でどうでも良いようであった。


「すべてはこの日のため。計画は最終段階に来ているわ。……あなたに勝手に動かれて、計画が潰されては困るのよ」


「ふざ……ふざけるなぁあああああ!」


 イオアナは、エキドナに殴りかかる。


 鬼神化して手に入れた超スピードの拳が、エキドナの顔面に突き刺さる。


 パチンッ……!


「なっ!? ど、どこ行った!?」


 エキドナが目の前から消えたのだ。


「アインとの全面戦争まであなたに動かれては困るわ。あなたも大事な駒だからね」


「ふざっけんな!」


 イオアナはあたりを見渡す。


「ボクはボクの意思で生きている! おまえなんかの駒じゃない!」


 ちゃき……とイオアナが拳銃を取り出す。

「おまえの命令なんて聞くもんか! ボクはアインを殺してくる!」


「そう……。まあ良いわ。ゲートを開いてあげましょう」


 あっさりと、エキドナがゲートを開く。


 依然として姿を見せないこと、そして何より、あっさりイオアナの言うことを聞いたことが……不気味だった。


「けど……勝てるかしらね?」


「はっ! 勝てるに決まってるだろ! 鬼神化を身につけたボクは今や神に近い存在だ! これでアインと対等に戦える! 絶対に負けるわけがないんだ!」


「そう……対等……ね。それを見ても、そう思うかしら?」


 ゲートをくぐろうとした、そのときだ。


「なっ!? あ、アイン!?」


 ゲートはアインのすぐ上空に開かれていた。


 アインは一人突っ立っている。


 いや、眼前に【誰かがいる】。


「な、なんだ……すさまじいプレッシャーを感じる……見えないけど、何かいる!」


「そう、アインは今、神と相対しているの」


「神だって!?」


 エキドナが魔法か何かを使ったのだろう。

 アインの目の前に、何か異質な存在が立っていた。


「これが、神なのか?」


 アインもまた、白装束へと変化する。


 彼は剣を取り出し、極光の輝きをまとう一撃を、お見舞いした。


 その一撃は神を消し飛ばし、山を切断し、雲を切り裂き、次元すら切り裂いた。


 そう……アインの一撃は、魔界にいるイオアナの左腕をも吹っ飛ばしたのである。


「あ……ああ……あ……」


 へたり込むイオアナ。


「あ、あいつ……な、なんて強さを手に入れてるんだ……」


「残念ながらアインは霊装といって、神の力を手にしているわ。鬼神化程度じゃ、今みたいに消されるだけよ」


 体が震えていた。


 細胞が、アインから逃げろと叫んでいる。

 極寒の地に放り込まれたように、体が震えて、言うことをきかなかった。


「けど……大丈夫よ、イオアナ」


 隣に現れたエキドナが微笑む。


「ちゃんとあなたも、アインと戦えるよう……改造してあげるわ」


 地面から黒木の枝が生える。


 茫然自失とするイオアナの体に巻き付いて、地の底へと引きずりこんだ。


「さすがね……アイン。本当に強く成長したわ。ミクトランも、さぞ喜ぶことでしょうね」


 実に愉快そうにエキドナは笑うと、その場から消えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告 エキドナのセリフ「魔族は」のルビが「あたたたち」になっている。
[一言] アインみたいにチートのオンパレードを与えられることもなく誰にも頼ることなく力を吸収することもなく自力でここまで強くなったイオアナの方が好感が持てる
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