166.鑑定士、中位天使を殲滅する
俺が第8精霊カノンを仲間にしてから、数日がたったある日のこと。
砂漠の国【フォティアトゥーヤ】に滞在中。
町の郊外の砂漠にて。
「あなたがアイン・レーシックかしら?」
4枚の翼をはやした女が、中空から俺を見下ろしている。
『座天使スローンズ。第7階梯の天使じゃ。階梯が高いほど強い天使じゃな』
「あなた、とてつもなく貧弱そうね。本当にトールを倒した人間なのかしら?」
「要件はなんだ?」
「黙りなさい、下等生物」
はんっ! とスローンズが俺を見下して言う。
「あなたのような下等生物が、わたくしの許可なく会話するんじゃないわよ」
俺を見る天使の目は、路傍の石を見るかのごとくだった。
スローンズは懐から結晶を取り出す。
「おいでなさい、能天使!」
結晶が輝くと、そこから巨大な天使が召喚された。
大剣を携え、背中に月輪を背負っていた。
『第4階梯・能天使エクスシアじゃ。剣術を得意とする天使らしい』
「喜びなさい、下等生物。天使の力で死ねることを。殺しなさい!」
能天使が手に持った大剣を振りかぶる。
すさまじい早さで俺に接近すると、巨大な剣を俺めがけて振り下ろした。
ズバァアアアアアアアアアン!
「まったく、この程度の雑魚を、どうして上は警戒したのかしら?」
「上……ね。ほかにもいるのか」
「なっ!? なんですってぇえええええええええええええええ!?」
スローンズが目をむいて叫ぶ。
俺は能天使の剣を、受け止めていた。
「あ、あり得ませんわ! 能天使の剣は【絶対切断】の能力がある! いかになる防御も無効化する最強の剣を持つのに!」
「クルシュ。消すぞ」
俺は虚無を発動させる。
ボシュッ……!
スローンズの大剣を消失させた。
「くっ! 能天使よ! 【神器】の使用を許可するわ!」
『神器とは神の持つ強力な武器のことじゃ。能天使エクスシアの神器は【万剣】。1万の剣を自在に操る神器じゃな』
能天使は上空へと上がる。
背中の月輪が、光の剣へと変化する。
一万もの光の剣が、円上となって、背後を回っている。
「カノン、起きてるか?」
『ふぁー……ねてるー……』
起きているみたいなので、力を使わせてもらおう。
「串刺しにしなさい!」
スローンズの命令で、能天使の光の剣が展開する。
剣先が俺を向くと、速射砲のごとく、俺めがけて剣が射出された。
ズドドドドドドドドッ…………!!!
「光の剣は1本1本に絶対切断の能力が付与されていますわ! さっきみたいに受け止められるならやってみなさい!」
「その必要はない」
俺の目が、橙色に輝く。
その瞬間……。
ビタッ……!
「なっ!? そ、そんな馬鹿な!? 一万の剣の動きを、すべて止めているですって!?」
剣は空中で身動きできていなかった。
「いっ、一体何が起きてるのですの!?」
「下等生物の能力もわからないのか、おまえ?」
「くっ……!」
ぎりっ、とスローンズが歯がみする。
『ふぁー……すごいね、アインちゃん。わたしの【念動力】、ここまで上手に扱えるなんて……ふぁー……』
『さすがじゃアイン。カノンの【念動力】には繊細な魔力操作が必要とされるのにな』
「禁術を作るのに、毎回精密な魔力操作しているからな。なれたもんだよ」
俺は【念動力】で光の剣たちを一カ所に集めると、【虚無】ですべてを消し去る。
「あ、あり得ませんわ……第4階級とはいえ中級天使なのですよ……。この世界でかなうものはいないはず……」
「どうした、もう終わりか?」
「くっ! この……下等生物が! 調子に乗るんじゃありませんわ!」
ばっ……! とスローンズが懐から、2つの新しい結晶を取り出す。
「いでよ! 主天使! 力天使!」
主天使は手に錫杖を持っていた。
力天使は背中に4つの球体を背負っている。
『主天使は【天槌】というすべてを破壊する光の魔法を使う。力天使は【天災】を自在に起こせるようじゃな』
「人間風情が! 天使に楯をついたらどうなるか思い知らせてあげましょう! やれ!」
主天使が錫杖を俺に向ける。
その瞬間空が暗くなり、俺めがけて、莫大な量の光が降り注ぐ。
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
一瞬の出来事だった。
瞬きする間に、俺のたっていた周囲50キロメートルにあるもの、すべてが消し飛んでいた。
「なんで! なんでなんで天槌を受けて無事なのよぉおおおおおおおおおお!」
俺は空中にたっている。
【念動力】を応用し、自分を浮かせているのだ。
飛翔よりも安定して空を飛べるな、これ。
「念動力で攻撃の起動をそらしただけだよ」
「そ、そんなことできるわけがないでしょう!? 天槌の発動時間は刹那! 攻撃を認識するいとまもなかったでしょう!?」
「俺には千里眼がある。相手が攻撃してくる未来は見えていた。待ち構える時間は十分にある」
「くっ! や、やりなさい能天使! 力天使!」
能天使が、万の剣を俺めがけて射出する。
力天使は背負っている4つの球体から、竜巻、雷、地震、噴火を起こす。
「問題ない」
俺は天使たちの攻撃を、【念動力】を使ってすべて受け止めた。
力の向きを変えて、そっくりそのまま、攻撃を天使たちに返す。
ズドドドドドドドドドッ…………!
天使たちは自分たちの攻撃によって、体を穴あきにされる。
「ちゅ、中級天使すらも、まるで赤子の手をひねるがごとく蹂躙するなんて……」
スローンズはその場にへたり込み、俺をおびえた目で見てくる。
「もう終わりか?」
「く、くそぉ! 天使たちよ! 集え! 【三位一体】!」
ボロボロの天使たちが宙に浮く。
3体の天使たちは一度バラバラになり、各体のパーツとなって、【合体】した。
見上げるほどの、巨大な天使へと変貌した。
「これを使うと世界は吹き飛びますが、かまいやしない! 天使が……いや、わたくしが負けるなんて、あり得てはいけないのですからぁ!」
血走った目でスローンズが叫ぶ。
巨大天使は、すさまじい大きさの光の剣を携えて、それを俺めがけて振り下ろそうとする。
「そうはさせるか」
俺は【鬼神化】する。
体に莫大な量の禁術オーラを発生させる。
俺の髪が黒から白へ、体中に【痣】が浮かぶ。
聖剣を出現させ、俺は天使めがけて、剣を振るった。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
極光の輝きを放つ斬撃は、巨大天使をまるごと飲み込んで、消し飛ばした。
スローンズはその場にへたり込む。
「あ……あはは! そうかわかった! アインは【死神】なんだぁ! 人間じゃないんだよぉ! あはははははは!」
狂ったように、スローンズは笑うのだった。




