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165.天使、鑑定士を消し去るため動き出す




 鑑定士アインが、第8精霊カノンを仲間に加えて、数日後。


 人間たちの住む世界とは、異なる次元に存在する、神々の世界【天界】。


 そこに、純白の宮殿がある。


 その廊下を歩く、一人の天使がいた。


 6枚の翼を持つ彼女は【熾天使セラフィム】。


 すべての天使をとりまとめる、天使たちの長ともいえる存在だ。


「くぁー……。あー……だるいわー……」


 こきこき……と首をならしながら、セラフィムは歩く。


「個体名アイン・レーシックを抹消せよ……ね。まったく、どうして上は面倒ごとを次から次へと放り投げてくるのよ」


 実にけだるそうな表情で、セラフィムはため息をつく。


 ややあって。


 会議室の前までやってきた。


 部屋の前には、第1階位の天使が2人、入り口を守護するようにたっている。


 天使はセラフィムに気づくと、頭を垂れる。


【第9階梯・熾天使セラフィム様のご到着!】


 天使は声を張ると、会議室のドアを開ける。


 セラフィムは先ほどまでのだるそうな表情を引き締める。


 こじんまりとした部屋の中には、円卓がひとつぽつんと置かれている。


 椅子は3つ。


 すでに第8階梯、第7階梯天使は着席していた。


智天使ケルビム座天使スローンズ。ごきげんよう」


 第8階梯ケルビムは、眼鏡をかけた神経質そうな男だった。


「……ボクは死者の選別で忙しいんだ。要件があるなら手短に頼む」


 ケルビムは貧乏揺すりをしながら、眉間にしわを寄せて言う。


「ごめんなさい。あなたの仕事は死んだ生物の魂の行方を決めること。ここ最近、特に魔族の死亡数が増えているから、忙しいのは重々承知しているわ」


 死んだ生物の魂は、人間であろうと魔族であろうと、等しく天界に招かれる。


 善良な魂の持ち主ならば、記憶消去し別の肉体の器へ転生させる。


 邪悪な魂は、煉獄や地獄へ連れて行き、魂の浄化処置を済ませてから転生させる。

 

 これらは本来なら、神の仕事だ。


 しかし現状、その使い走りである天使たちにその仕事を丸投げされている。


 ……まあ面倒な仕事をさぼりたいという気持ちは、理解できる。


「スローンズもごめんなさいね、呼びだてして」


 第7階梯・座天使スローンズ。


 金髪縦ロールの、こちらも神経質そうな顔の女天使だ。


「まったくですわ! わたくしも一時天界にとどまっている人間たちの管理で忙しいのに! ツマラナイことでしたら上に報告させていただきますからね!」


 このスローンズという天使は、セラフィムのことを毛嫌いしている。


 何かとセラフィムの行いを、上……つまり、神に報告するのだ。


 理由ははっきりしている。


 同じ女天使であるセラフィムが、自分より上の役職に就いているからだ。


「(あたしだって別に好きで第9階梯についてるんじゃねーつーの! そんなに上へ行きたいならもっと真面目に仕事しろや!)」


 という内心の憤りを、みじんも表に出すことなく、セラフィムは微笑む。


「すぐすむからよく聴いて。ケルビム、最近魔族の死者数が増えていることは知ってるわね?」


「……当たり前だ。こんなにも人が死んだのは魔王が出現して以来だ。しかしあのときと違って、今度は魔族側の死者数が増えている。これは史上初だな」


「その原因を、あなたは把握している?」


「……まさか、その原因の究明をやらせようって言うんじゃあないよな?」


 不愉快そうに、ケルビムが顔をしかめる。


「(うわー、めっちゃやりたくなさそー)」


 はぁ、とまた内心でため息をついて、セラフィムが言う。


「原因は判明している。人間界にすむ【個体名アイン・レーシック】。この子が魔族を狩っているの」


 セラフィムが懐から、結晶を取り出す。


 結晶が輝くと、そこに少年の姿が映る。


「……こんなひ弱そうな人間が原因とでも、本気で言うのか?」


 ケルビムが正気を疑うような目で、セラフィムを見やる。


「ええ。現に上級、特級の魔族。魔神。そして下位の神であるトールを討伐してるわ」


「……ボクは信じられないな。詳細を見ると、職業は鑑定士。最下級の職業じゃあないか」


 議論する二人をよそに、スローンズは興味がないのか、自分のネイルの手入れをしていた。


「上はアインの抹消を下知なされたわ。ふたりのどちらかに、それをお願いしたのだけれど」


「……ボクは無理だ。君がやったらどうだい、セラフィム?」


「わたくしも同意見ですわ。上からはあなたに仕事の依頼が来たのでしょう? なら自分でやるのが筋ではなくて?」


 二人とも露骨に顔をしかめていた。


 やりたくないという気持ちが、ありありと表情からにじみ出ている。


「(あたしだってやりたかねーよ!)」


 セラフィムは憤りながら、しかし冷静に言う。


「ごめんなさい。私はあくまで天使たちの総括だから、ここを動くわけにはいかないの。お願いだから、どちらかやってくれないかしら?」


「……だとしてもボクは無理だ。死者の数が尋常でない今、別の仕事をやれば天界がパンクする」


「ええ。だから、スローンズ。お願い」


「嫌ですわ」


「これは命令よ」


「お断りします。第一、わたくしあなたを上司と認めてないので。あなたの命令なんて、聴きたくありませんわ」


 今すぐに顔面をぶん殴りたい、という気持ちをぐっ……とこらえながら、セラフィムは言う。


「アイン抹消は神から直々に下った命令よ。これを見事にこなせば、上からの評価は上がるわ」


 ピクッ……とスローンズが反応を示す。


「仕方ありませんわね、やってあげてもいいですわ。ただし、きちんと上には、わたくしの功績であると報告してくださいね」


「ええ、もちろん。ありがとう、スローンズ」


 はぁ~~~………………と内心で深々とため息をつくセラフィム。


「では中位天使たちを使わせてもらいますわ」


 第4から第6階梯までの天使のことだ。


「良いでしょう。主天使ドミニオン力天使ヴァーチェース能天使エクスシアの使用権限をあなたに付与します」


 セラフィムはパチンと指を鳴らす。


 3つの結晶が出現し、スローンズの手元へと空中移動する。


「では、さっそく殺して参りますわ」


 スローンズは結晶を懐に入れると、立ち上がって出て行こうとする。


「気をつけてね」


「ハッ! 下等な人間ごとき、いったい何に気をつけるというのですの?」


 スローンズは熾天使を、小馬鹿にするような目で見やる。


「トールもアインに敗北しているわ。万一ということもあるでしょう?」


「あり得ませんわ! わたくしは人間よりも遙かに上位の、選ばれし優れた存在。こんなひ弱な人間、絶対に負けるわけがないですわ」


 ふんっ、とスローンズは鼻を鳴らして、会議室を出る。


「こんな下等生物、一瞬で倒してきますわ。そして昇級し、熾天使となるのはこのわたくしですわ……!」

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― 新着の感想 ―
なんか天使も魔族も同じような低レベルの民度やね。 言葉遣いが変わっただけですやん。 面白いから続きが気になるけどW
[一言] 魔族のコピー感
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