表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/244

164.鑑定士、第8精霊と契約する



 ピラミッドを攻略した俺は、いよいよ、ユーリの妹【カノン】のもとへやってきた。

 スフィンクスが守護する部屋の向こうに、広大な部屋があった。


 見上げるほどの巨大な光る樹がたっている。


 これは【世界樹】。

 世界に魔力を生み出す不思議な木だ。


 ユーリたち世界樹の精霊は、全部で9人。

 そのうちの1人がここにいる。


「【カノン】、ちゃん! ユーリ、だよ!」


 俺の隣に顕現した金髪美少女ユーリが、笑顔で世界樹に駆け寄る。


 世界樹はぱぁっ! と光ると、一人の女の子の形になった。


「猫耳の……寝間着パジャマ?」


 小柄な女の子だった。


 獣耳フードのついたパジャマにホットパンツ。


「ふぁぁ~~~…………はれ? おねえちゃん……?」


 フードの下には、眠たげな橙色オレンジの瞳があった。


 髪の毛も同じオレンジ色。


 小脇には猫の抱き枕を抱きかかえていた。

「カノン、ちゃん!」


「ふぁぁ~……なんだ夢か。ねまーす……ぐぅ~……」


 ぺたん、とカノンはその場で座ると、抱き枕を持ったまま眠った。


「カノンちゃん、おきて! 夢じゃない、です!」


「ぐぅー……がぁー……むにゃむにゃ……わたしもうたべれないよー……ぐぅー……」


 ユーリはカノンを抱き起こして、かくかくと揺する。


 だがカノンは目を覚まさず、ひたすらに寝ていた。


「マイペースな子だな」

 

 ユーリはその後も、カノンをかくんかくんと揺する。


 すると……。


「あーもう! やめろやユーリ!」


 くわっ! とカノンが目覚めて、しゃー! と歯をむいた。


「あうん」


 ユーリは驚いて尻餅をつく。


「うちのガキが寝てるだろうが! じゃますんじゃねえ。わかったか? あ?」


「は、はひ~……」


 ユーリが涙目になる。


「カノンはどうしたんだ? 急に人が変わったみたいになったけど」


「あん? てめどこのもんだ?」


 カノンは据わった目で俺をにらみつける。

 さっきまでのマイペースさはなりを潜めていた。


 そこで、俺は彼女の目の色が違うことに気づいた。


 カノンの瞳は橙色だったが、今の彼女は灰色の瞳になっている。


「おまえこそ、誰だ? カノンじゃないだろ」


「へぇ……? いい目してんじゃねーか。気に入ったぜ」


 にかっ、と笑うとカノンが俺の背中をバシッとたたく。


「あたしは【カナリア】。カノンの守り手だ。夜露死苦よろしく


「守り手が、どうして精霊のなかに入ってるんだよ」


「ちょっとしくじってよ、死んじまったんだ。けどおれには【憑依】っつー、精神を別の生き物に移す能力があるのよ。ンでカノンの体で生きてるわけ」


「なるほど……。擬似的な二重人格者みたいなものか」


「ま、そんな感じよ。理解が早くて助かるぜ。さすが精霊7人つれてるだけあんなてめえ。やるじゃん。おまえにならカノンを任せられるぜ」


 にかっと! とカノン……いや、カナリアが男らしく笑う。


「渡りに船だった。守り手であるおれは死んじまったからな。カノンを守ってくれる頼れる男を捜してたのよ。つーことで、カノンも頼むわ」


 そう言って、カナリアはお尻のポケットから、精霊核を取り出す。


 精霊の力の源がこめられた、不思議な結晶だ。


「ウルスラ。義眼に加工を頼む」


「心得た」


 俺の隣に、白髪の賢者が転移してきた。


「なんだウルスラじゃねーか。ひしぶりじゃねーかこのやろう~」


「カナリアも久しぶりじゃな。まさか死んでおったとはおもわなんだ」


「ふたりは知り合いなのか?」


 カナリアはうなずいて言う。


「おれもウルスラと同じで上級ハイエルフだったのよ。ンでこいつとおれはダチ公」


「おぬしは昔っから奇っ怪なしゃべり方するの」


 やれやれ、とため息をつく。


 ウルスラはカノンの精霊核を、俺の左目に収まっている義眼に加える。


 ややあって。


「これで8つの精霊核を、おぬしは手に入れたことになるぞ」


「すげーな兄ちゃん。8つも精霊核持っている人間なんて、前代未聞だぜ?」


 おおーと感心したように、カナリアが手をたたく。


「おれの【憑依】と、そんでカノンの【念動力サイコキネシス】が使えるようになったぜ」


「念動力?」


「視界に入っている物体を、自由に操作する能力さ。見えているものなら無条件で動かすことも、動きを止めることも可能」


 相変わらずすさまじい能力だな、精霊の能力って。


「ところで……おい嬢ちゃん」


「ひぅ……! な、なんですか……?」


 ユーリがおびえた表情で、カナリアを見やる。


「さっきは脅かしてすまねえ。悪ぃな」


「い、いえ……」


「カノンは嬢ちゃんらと分かれてから、結構さみしがってた。あんま感情表現が苦手な子だが、仲良くしてやってくれっか?」


「それは、もちろん……です! カノンちゃん、は、わたしの……大事な妹、だから!」


 にかっとカナリアが明るく笑う。


「ンじゃ代わるわ。あと夜露死苦な、兄ちゃん。頼りにしてるぜ?」


 がくん……とカナリアの体から力が抜ける。


「ふぇ……? わたし……ねてた……?」


「カノンちゃん!」


 ユーリがカノンを抱きしめる。


「お姉ちゃん……くるしー……」


「もう、さみしく、ないよ! みんな……いるから!」


 ぱぁ……! と俺の左目が輝くと、ユーリの姉妹たちが出てくる。


「おねえちゃんたち……ピナたちも……」


 わ……! とみんながカノンを囲む。


「カノンおねえちゃんおひさ☆」


「相変わらずノンノンはねむそ~だねぇ~い」


 ぐりぐり、とクルシュがカノンの頭をなでる。


「やめてよぉー……。わたし眠いんだー……ねるぅー……」


「くくく……わが姉よ、今夜は寝れると思うなよ。今宵はみなで血の宴を開くのだ……」


「ふぁー……あいかわらずマオはあたまおかしいねー……」


「ひどい!」


 わいわいと騒ぐ姉妹たちを、俺は遠巻きに見ていた。


「ゆーちゃんゆーちゃん、ちのうたげってなにー?」


「今日はみんな、で、パジャマパーティです!」


「「「いいね!」」」


 ユーリが楽しそうに笑っている。


 それを見て、俺は満足だった。


「アインよ。ありがとうな」


 俺の隣に、ウルスラがやってくる。


「これでユーリの、生存が確認できている姉妹、全員と会うことができた。おぬしのおかげだ」


 ウルスラは自分の子供と、その姉妹とを見てつぶやく。


次女クルシュ三女テレジア四女アリス五女ユーリ六女カノン七女ピナ八女マオ。そして九女メイ


 ふっ……と本当にうれしそうに、ウルスラが笑う。


「あの子の姉妹がそろうことなど、もう二度とないと思っていた。だから……」


 ウルスラが目に涙をためて、俺を見上げる。


「アイン、おぬしのおかげだ。本当に……本当に、ありがとう……」


 深々と頭を下げるウルスラを見て、俺も言う。


「俺の方こそ、おまえたちがいなかったら、奈落に落ちて死んでいた。おまえらのおかげだよ、ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ