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160/244

160.新たな勢力に、鑑定士は目をつけられる



 鑑定士アインが、特級魔族キングを討伐してから、数日後。


 そこは人間の世界とも、魔族たちの世界とも異なる場所。


【天界】と呼ばれる、神々の住まう聖なる土地。


 天界の奥にある、【神殿】にて。


 1人の天使が、跪いていた。


 ーー【熾天使セラフィム】よ。面を上げよ。


 脳内に直接響くのは、人のものとは思えない、荘厳さを秘めた声だ。


 セラフィムは立ち上がる。


 神殿の中には、彼女以外に誰の姿もない。

 しかしセラフィムには、神々の気配を感じることができる。


 ーーセラフィム、地上で起きた異変について、報告せよ。


「ハッ……!」


 セラフィムは懐から、映像を記録しておく結晶クリスタルを取り出す。


 結晶に力を流し込むと、立体映像が映し出される。


 そこに写っていたのは、黒髪の少年アインだ。


「どうやらこのものが、地上で【奇跡】を起こしたようです」


 結晶のなかで、先日のキング戦の映像が映し出される。


「個体名【アイン】は、魔神キングを討伐。キングは能力によって地上の生き物を全て殺していた。アインは【完全再生パーフェクト・リバース】の効果で、生物全てを復活させたという次第でありました」


 セラフィムは結晶を仕舞う。


 ーーやはり人間の仕業であったか。


 ーー以前より運命の歯車を狂わす【異分子イレギュラー】の存在は感知していた。


 ーー10人や20人程度の蘇生なら許せるが、さすがに今回の件は看過できぬ。


 ーー我ら神の威信を失墜させる、危険分子である。


 神は1柱のみではない。


 多種多様な神がこの天界には住んでいるのだ。


 その誰もが、アインのことを快く思っていないようだ。


 ーーセラフィムよ。


「ハッ……!」


 再びセラフィムは頭を垂れる。


 ーー固体名アインを、抹消してまいれ。


 セラフィムは目をむいて言う。


「し、しかし主よ……。相手はたかが人間。我々天界のものが直接手を下すことなど、前代未聞ではありませんか……?」 


 ーー我々に口答えするか? 一介の天使ごときが。


「滅相もございません! ただ……人間を相手に、神が干渉する事態など有史以来、あったことはなかったもので……」


 ーーそれほどまでに、固体名アインは危険なのだ。


 ーーアインは人を蘇生させるチカラがある。


 ーーヤツが存在すると、人間どもの我ら天の神々への信仰心が薄れてしまう。


「た、確かに……いるかいないかわからない神に祈りを捧げるよりも、現実に死者蘇生の力を持つアインに頼った方が良い、と考えるものが出てくるやも知れませんね……」


 ーー然り。神々の威信を失墜させかねぬ行い、見過ごすことはできぬ。


 ーーセラフィムよ。なんとしても、アインを殺し、その魂をここまで連れてくるのだ。


「ハッ……! 仰せのままに!」


 セラフィムが深々と頭を下げる。


 そばにいた神々の気配が、完全に消えたタイミングで、大きくため息をついた。


「まいったー……。ちょー厄介じゃん……。だっる~……マジでだるい……」


 ボリボリ……とセラフィムが頭をかく。


「まー、適当にやるポーズくらいは見せるかー。というか、上も何を焦ってるのかしらね。人間なんて、ほっとけば100年くらいで勝手に死ぬのに」


 セラフィムは結晶を取り出し、そこに写るアインに向けて、つぶやく。


「あなた、そんなに危険なわけ?」



    ☆



 天界がアインに目をつけた、一方その頃。


 魔王城の地下に、ダークエルフ・エキドナがいた。


 眼前には、枯れ果てた【世界樹】がある。

 世界樹の幹には、【9つ】のくぼみがある。

 

 くぼみには、すでに3つの宝玉が埋まっていた。


「キング、クィーン、その子4人分の宝玉。ああ、これで……ついにそろうわ」


 エキドナは、今回の件で手に入れた宝玉を、1つ1つ、くぼみにはめ込んでいく。

 

 宝玉をはめるたび、世界樹がドクンッ……! と脈動する。


 そして……ついに、9つの宝玉が枯れ果てた世界樹に埋まった。


 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!


 世界樹が、力強く脈動した……そのときだ。


 ごごごごごごっ…………!!!!!


 しおれ、朽ち果ていた世界樹が、赤黒く光り輝きだしたのだ。


「アハッ! ついに! ついにこのときが来たのね!」


 エキドナは狂喜する。


 普段仮面をかぶり、本性を隠している彼女が、心からの笑みを浮かべる。


 枯れ木にどんどんと生気が満ちていく。


 しおれていた枝は天を向き、枝先にはみずみずしい葉が生える。


 やがて世界樹は、ユーリたちのそれと同様、完全な形を取り戻した。


『……う、うう。ここ……は?』


 世界樹から、男の声が聞こえてきたのだ。

 少し高い、青年と少年の中間と言えるくらいの声。


「【ミクトラン】!」


 エキドナはダッ……! と世界樹に駆け寄り、思い切り抱擁する。


「ミクトラン! ああ……! 気がついたのね!」


『エキドナ……私は……一体……?』


「本当に良かった! ああっ! 無事で何よりよ!」


 エキドナは涙を流す。


 そこにいたのは、魔族たちをいたずらに殺す冷徹なる指導者の姿ではなかった。


 愛しい男を前に歓喜する、ただの【女】の姿だった。


「待ってて、ミクトラン。あとは器を完成させるだけだから。そうすれば、あなたはこの地に完全に復活するから」


 エキドナが世界樹の幹を、愛おしく撫でる。


 世界樹は枝を、上へ上へと伸ばす。


 それは地下を突き破り、地上にある魔王城に絡みつく。


 あっという間に魔王城は、世界樹に取り込まれる。


 それだけで止まらない。

 伸びた枝葉、やがて魔界全土へと伸びていく。


 エキドナは地上へと出て、眼下を見下ろす。


 世界樹から伸びた枝が、魔界に住む有象無象の魔族どもに絡みつき、その命を吸っていた。


「喜びなさい、塵芥ども。あなたたちは彼が完全復活するまでの、栄養源となることができるのですから。さて……と」


 パンパン! とエキドナは手を叩く。


 すると、エキドナの前に、【4人】の【魔神】たちが現れる。


「さぁ、出番よ、【魔王四天王】のみんな」


 4人の強者たちが、こくりとうなずく。


「エキドナ様、おれたちは何をすれば良いんですか?」


 四天王の1人が、エキドナを見て言う。


「準備が調い次第、わたしと一緒に、人間界へ打って出るわ」


 エキドナは魔界を見渡す。


 世界樹の枝は魔界の住人たちを殺す。


 その一方で、次元に穴を開け、そこから人間界へと枝を伸ばす。


「さぁ、人間むしけらどもよ。長き沈黙を破り、いよいよ【魔王】がこの地に復活するわ。絶望の悲鳴を上げ、王の帰還を祝福しなさい」


 エキドナは実に楽しそうに言うのだった。

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