16.鑑定士、ダンジョン突破の報酬を得る
ダンジョンの心臓、迷宮核を守るボスモンスターを、俺は倒した。
これで地上に帰還できる。
しかしやることがある。
そう、鑑定だ。
俺は倒した岩巨人から、以下の能力をコピーした。
『不動要塞(S+)』
『→その場から動けなくなる代わりに、敵からの物理・魔法攻撃の一切を受け付けない』
『重力圧(S+)』
『→一定範囲内に重力場を発生させ、相手を動けなくする。飛んでいる敵を地上に落とすことも可能』
『不意打ち無効化(S+)』
『→不意打ちを受けたときのみ発動。防御力を超向上させダメージを無効にする』
『耐性・地属性(A)』
『→地属性の魔法、モンスターからの攻撃の耐性を得る』
さすがボスモンスター。
多彩な能力を持っていた。
硬いボディを持っていたからか、主に防御面で強化された。
「アイン、さん。かっちかち、です! 無敵、です!」
俺のとなりでユーリが笑う。
コピーの際に伴う頭痛を、彼女に治癒してもらったのだ。
「防御力が弱いのが俺の弱点だったからな。強化できて良かったよ」
能力をコピーしたし、とっとと地上へと帰るか……と思ったそのときだ。
『待て、小僧』
脳内から、賢者ウルスラの声がした。
『まだ鑑定すべきものがあるぞ。あそこの迷宮核じゃ』
部屋の奥、出口のそばに、結晶が浮いている。
これは、迷宮核。迷宮の力の源だという。
俺は迷宮核のそばへとやってくる。
「これを鑑定してどうなるんだ?」
すると……。
俺の右目、賢者の石が……輝いた。
ぱぁ……! と金色に光ると、そこに立っていたのは……。
「う、ウルスラ!? どうして!?」
銀髪のメガネ幼女がそこにいた。
「おまえ……世界樹から離れられないんじゃないのか?」
世界樹の守り手は、そういう掟があるとウルスラが言っていたはず。
「小僧の左目に収まっている物は世界樹の精霊核100%。つまり貴様の目は世界樹と同じ。よって、貴様のそばに限って、わしは外に出ることができるわけじゃ」
な、なんてこったい……。
「ちなみにユーリと違ってわしは貴様の目には住んでいない。賢者の石を座標に、転移してきただけじゃ」
「そ、そっすか……」
「おかー、さん!」
「おおっ、娘よ。久しいな。よしよし」
銀髪幼女と金髪美少女が抱き合っている。
ユーリの方が背が高いから、ウルスラの方が子供に見える。
「転移魔法使えるんだな」
「まあな。じゃが何度も言うが世界樹……つまり貴様の目がある場所へしか転移できないし、貴様の周りにしかいられないからな」
つまり俺を外に転移させる、ということはできなかったわけだ。
「それで、ウルスラ。なんで転移してきたんだ?」
「少し迷宮核というものに興味があってな……」
ウルスラは宙に浮かぶ結晶を、つぶさにみやる。
ややあって「なるほど……」と小さくつぶやいた。
「どうやら迷宮核は、精霊核と同じ物であるらしい」
「同じ……? だから、なんだ?」
「貴様の義眼は精霊核を使って作った。そして、この迷宮核は、精霊核と同じもの。つまり、迷宮核を素材として精霊核を……貴様の目を強化できる、ということだ」
マジか。
ただでさえ高性能の義眼が、さらに進化するというのか。
「わしならすぐに義眼を強化できるぞ。どうする?」
「やってくれ」
「わかった。しばし待て」
ウルスラは迷宮核に触れる。
それはぱぁ……っと紫に輝くと、やがて手のひらサイズの宝石へと変わった。
「小僧、しゃがんで目を閉じよ」
俺は言われたとおりにする。
ややあって。
「もう目を開けて良いぞ」
「相変わらず早いな」
「誰に物を言っておる?」
そう言えば最強賢者様だったわ、この人。
「これで義眼は強くなったのか?」
「鑑定してみれば良いだろう」
「それもそうだな。【鑑定】」
『→精霊神の義眼(LEVEL2)』
『→【攻撃反射のタイミング】を鑑定可能となった』
「……なんか、義眼のレベルが上がって2になっていた」
「ふむ、やはりな。迷宮核を取り込めば取り込むほど、ユーリの精霊核は強化され、鑑定能力がより強力になるようじゃな」
マジかよ。
「これってもしかして、迷宮核を、ボスモンスターを倒せば倒すほど、鑑定能力が強化されていくってことか?」
「まあそういうことじゃな」
「すごい、です! アイン、さん!」
わぁ、とユーリが両手を挙げる。
「いや、すごいのはユーリだろ」
「ふふん、よーやく小僧も話がわかるようになってきたなっ」
ウルスラが上機嫌に言う。
まあ俺自身が強いわけじゃないってことは、嫌でもわかる。
ユーリと出会って、偶然義眼を手にしたから、今の俺があるんだ。
これは俺の実力じゃない。
精霊のおかげであることを、忘れてはいけない。
「しかし【攻撃反射のタイミング】を鑑定……ってどういうことだ?」
「百聞は一見にしかずじゃ。剣を出しておけ」
「わかった……って、なにするんだ?」
ウルスラは俺に手を向ける。
「って、それもしかして!」
もしかしなくても、ウルスラは無詠唱で、火球を俺にぶっ放してきた!
これ久々だ! と思う暇も無く、火球が俺に迫ってくる。
「【超鑑定】!」
『ウルスラの魔法の軌道』
『→』
火球の動きが、ゆっくりになる。
あぶねえ……丸焼けになるところだったわ。
……火球をギリギリで避けようとした、そのときだ。
『!』
と、火球の上に、変なマークがでたのだ。
なんだ、この【!】ってマーク。
おそらく義眼が何かを鑑定した結果だろう。
これが、攻撃反射のタイミングってやつか。
俺はすかさず、剣を振るった。
パリィイイイイイイイイイイイイイン!
ガラスを砕いたような、甲高い音。
剣が火球とぶつかった瞬間、向きを真逆に変えたのだ。
つまり……俺が剣で、魔法を弾いたのだ。
弾かれた魔法は、ウルスラめがけて跳んでいく。
「攻撃反射ってこう言うことか……って、ウルスラ! 危ない!」
ウルスラが指を鳴らす。
すると、火球が消えた。
「魔法は使用者の意思によって消去することができるのじゃ」
「そ、そっすか……良かったぁ」
「よ、かったぁ……」
ほーっ、と安堵の吐息をつく、俺とユーリ。
「すごいな攻撃反射」
「魔法だけじゃなく物理攻撃も反射できるみたいじゃぞ」
マジかよ。
動きを鑑定すれば、反射タイミングを逃すことなく、攻撃を弾き飛ばすことができるじゃん。
「いやぁ……ほんと、ユーリはすごいなぁ」
「そうじゃろうそうじゃろう! 貴様もそう思うじゃろう! ユーリはすごい子なのじゃ!」
「え、えへへ~♡」
……さて。
迷宮で新たなチカラを手に入れた俺は、いよいよ、地上へと脱出するのだった。
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