158.キング、家族の力を取り込んで暴走する
鑑定士アインが、キングに圧勝した数日後。
人間界、ドワーフ国郊外の森のなか。
残る特級魔族たち、長女クワトロ、次女トレス、次男ドースが集っていた。
「ドース。話ってなに? アタシあのアインってサルをぶちのめしたいんだけど」
「……アインの元へゆき、おれたちの身柄を保護してもらおう」
ビギッ! と姉二人の額に、青筋が浮かぶ。
「何を言ってるの、ドース! ふざけないで!」
「……ふざけてない。客観的に見て、今のおれたちではアインに、束になってもかなわないからだ」
「やってみないとわからないでしょ!?」
「……アインは神を3柱も取り込んだ。攻撃吸収・無効化の聖剣、さらに鬼神化を携えている。相手は侮っていい人間じゃない……いや、もはや人間じゃない化け物だ」
ドースは映像を記録する水晶を、姉たちに見せる。
そのなかには、直近のアインの戦闘が映し出された。
父、母、そして弟を、いともたやすく倒すアインの姿を見て、姉二人の顔色が変わる。
「……今のアインは理不尽な強さを保有している。やつに戦いを挑むのは天災に裸で特攻することと同義。けれど噴火や落雷とちがって、話の通じる相手だ」
「つまり……アインには戦いを挑んじゃだめってこと?」
「……その通りだ。アインに頭を下げ、もう二度と逆らわないこと、そして可能ならアインの傘下に加えてもらうことが、おれたちの生き残る唯一の道だ」
「あいん。たたかい。さける。わかった。けど。さんか。はいる。なぜ?」
「……アインの軍門に下るということは、魔族を裏切ることになる。エキドナがそれを許すとは思えない。エキドナも強い。やつに太刀打ちできない以上、アインに保護を求めるほかない」
「ドースの言ってることは、わかるよ……けど! やっぱり納得できないよ! アタシたちは家族をめちゃくちゃにされたんだよ!?」
クワトロが弟の胸ぐらをつかんで叫ぶ。
「……アインが何もしなくても、親父は最初から、おれたちを家族とみてなかった。おふくろも親父以外どうでもいい感じのヒス女だった。最初からおれたち家族は、めちゃくちゃだったよ」
「うるさい! そんなひどいこと言うドースなんて!」
ぐわっ! とクワトロが弟に殴りかかろうとした、そのときだ。
「ねえさま。やめて!」
「トレス……」
妹が必死になって、クワトロの腕を引き留める。
「もうやめよ。ねえさま。わたし。どーす。ぶじ。そのほうが。いい」
「……頼む、クワトロ姉さん。腹に据えかねる気持ちは理解できる。けどおれもトレス姉さんと同じ気持ちだ。あなたに死んでほしくない」
クワトロはギリっと歯噛みする。
だがあきらめたように、ふっ、と力なく微笑んだ。
「そうね。……パパママより、あんたたちのほうが大事だわ」
弟をつかんでいた手を、放す。
「……ありがとう、姉さんたち。よし、アインの元へ行こう」
と、そのときだった。
「そんなことさせるかよ、クソガキどもがぁああああああああ!」
突如、上空から何かが落下してきた。
どがぁああああああああああああああああああああああああああん!
隕石が落ちたかと思うほどの衝撃。
トレスはとっさに氷で防壁を貼って身を守った。
「……!? くそ親父!」
そこにいたのは、トレス達の父親、キングだった。
「クワトロねえさま!」
トレスが青ざめた顔で、キングの足元を見やる。
キングの攻撃を受け、ぐちゃぐちゃに潰れた姉がいた。
父はクワトロの遺体の首に、咬みつく。
じゅるじゅる……じゅるじゅる……。
血を、肉を、魂を……そして姉の魔核さえも、キングはその身に吸収したのだ。
「ひどい。ねえさま。ころすなんて……」
「……何しやがるくそ親父!!!!」
激昂したドースが、氷の力を発動させる。
無数の氷柱が、地面から生え、父の体を貫こうとする。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
キングの体から噴き出した、莫大な量の闘気に、氷柱が吹き飛ばされる。
「おめえたちガキは、父親である俺様の血を分けた存在。つまり俺様のもの! どうしようが俺様の勝手だろうがよぉ!」
「……ふざけたことぬかしやがって! 家族を殺しておいて何が父親だ! この人殺し!」
トレスが腕を振る。
絶対零度の霧氷が、キングめがけて吹き荒れる。
触れただけで体を一瞬で凍らせ、粉々に砕く冷気だ。
「……やったか!?」
「通じねえぞ、ドースぅ……」
そこにいたのは、姉であるトレスの首に咬みついている、凶暴化しした父の姿だった。
「……トレス姉さん!」
「どーす。にげ……て」
ふたりの姉が、父によって殺害され、吸収された。
「どうしたぁドースぅ……逃げろよ。強ええものに挑むのは無謀なんだろぉ?」
「……ああ、そうだな。勝つ見込みもないのに、復讐心にとらわれ、強者にケンカをふっかけるのは愚の骨頂だ」
ドースは両手を広げる。
ぱき……ぱき……と地面が凍り出す。
「俺様と戦うつもりかぁ! 言ってることやってることがちぐはぐだぞぉ!」
「……まったく、てめえの言うとおりだよ。クソ親父。おれは、何やってるんだろうな」
闘気をドースは高め、キングをにらみ付けていう。
「……だが、ここでてめえに一発入れないと、姉さんたちに顔向けできねえんだよ!」
「ははっ! かかってこいクソガキ! 所詮子供は親に勝てねえんだよぉ!」
ダッ……! とふたりが走り出す。
父と子は、拳を交わす。
ガギィイイイイイイイイイイン!
……ややあって。
「ひゃーーーーーひゃっひゃーーーー!」
「……ごめん、姉さん」
キングの拳が、ドースの土手っ腹を貫いていた。
ドースの首筋に噛みつき、キングは息子の力を吸収する。
「さすがね、キング」
「エキドナぁ……!」
美貌のダークエルフが、キングの背後に立っていた。
「すでに取り込んでいたウーノとクィーンの力と合わせて、これであなたの体には、5人分の特級魔族の力が集まった」
そして……とエキドナが胸の谷間から、赤い宝玉を取り出す。
手のひらには、【5つ】の宝玉が。
「親子5人分の力、あなたに授けるわ」
エキドナが言うと、宝玉は浮かび上がり、キングの体を打ち抜いた。
キングの両手足、そして額に、宝玉が埋まる。
【うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!】
キングの肌が、浅黒く、そして髪の毛と目は真っ白に変化する。
【はーーーはっはっはーーー! 俺様は、最強となった! ミクトランも、アインも俺様の敵じゃあない!】
5つの宝玉を埋められても、キングは完全に理性を残していた。
体から噴出する、莫大なエネルギーを肌で感じ、キングは歓喜する。
【これでもう、俺様は誰にも負けない! あのアインにだって、絶対に負けない!】
「ええ。そうねキング。さぁ、家族の絆の力で、アインを討伐してきなさい」