157.キング、全力で挑むが全く歯が立たない
鑑定士アインが、クィーンを討伐した、数日後。
魔王城の廊下にて。
「ウーノ! ウーノはどこだぁ!」
特級魔族キングは、自分の息子を探していた。
「どうしたの、キング?」
麗しのダークエルフ、エキドナが、微笑みながらキングへと近づく。
「エキドナぁ! ウーノはどこ行った!」
キングはエキドナの胸ぐらを掴み、血走った目でエキドナをにらみ付ける。
「あなたの息子はアインに殺されたわ。ちなみに奥様も」
「そんなことどうでもいいんだよ!! ウーノがいないなら別のヤツに頼んで、さっさとゲートを開けさせやがれ!!」
息子が死のうと今、キングの頭のなかにあるのは、鑑定士アインへの復讐しかなかった。
「大丈夫、キング? また今回も手ひどく返り討ちになるんじゃない?」
「誰に言ってやがる! 俺様はキング! 一番強いからこそキングなんだ!」
今のキングの目は、本気で獲物を狩る肉食獣のごとく、ギラついていた。
「今回は最初から手加減抜きだ。【鬼神化】を使う」
「【鬼神化】。ふふっ、なるほど。いよいよ本気を出すということね。期待してるわ、キング」
エキドナはパチンと指を鳴らす。
キングの前に、ゲートが開く。
「また負けないことを、ここから祈っているわ」
「誰に言ってやがる! 本気を出した俺様は誰にも負けない! もう2度と! 敗北なんてしない!」
ゲートに向かって、キングは身を投げ出す。
少しの浮遊感がした直後、キングは人間界へと到着した。
ドワーフ国郊外の、雪原にて。
黒髪の少年・アインが立っていた。
「この間はよくも! この俺様に恥をかかせてくれたなぁ!」
意図せず体から、莫大な量の闘気が漏れ出る。
この数日で、失った闘気は完全に回復していた。
常人ならば、キングの出す尋常でないプレッシャーに気圧され、身動きできなくなるところ。
しかしアインは冷静に、キングを見返してくる。
キングは腰を落として、両手を左右に広げる。
「今度はこの間みたいにはいかねえ。全力全開でいく! ぬぅん!」
パンッ……! とキングは胸の前で、柏手を打つ。
合わせた手のひらから、莫大なエネルギーが発生する。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
禁術オーラが発生する。
ただし、普段取り込んでいる量とは、比べものにならなかった。
膨れ上がった禁術オーラは、キングの体に変化をもたらす。
顔を含めて、体中に【痣】が発現。
長い金髪だったそれは、白髪へと変化。
そして両目が真っ赤に染まる。
「これぞ【鬼神化】! 俺様の最終奥義よ!」
グッ……! とキングが体を縮める。
その直後、世界が制止した。
アインすらも動けないでいる。
キングは超高速で、アインめがけて駆ける。
それは魔族の移動速度を超えていた。
音を、そして光を越えて、キングは飛んでいたのだ。
「死ねぇええええええええええええ!」
光速を越えたスピードを乗せて、アインめがけて拳を繰り出した。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
アインの禁術オーラの鎧を突き破り、やつの土手っ腹に、キングの一撃が命中した……手応えがあった。
彼は凄まじいスピードで、遥か遠くへと吹き飛んでいった。
パンチの衝撃で、地表はめくれ、雪雲は吹き飛んだ。
雲一つ無い青空の下、キングは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「はーーーーはっはーーーーー! どーーーーーーだぁーーーーーーーーーーー!」
キングは空を見上げて、高らかに笑う。
「体内の全魔力、全闘気を一気に体の中に入れることで、自分の体を【鬼神】と化す! そうすることで尋常ではないパワー、光を越える移動速度を手に入れる! これが【鬼神化】だぁ!」
勝利を確信したキングは、饒舌に語る。
「このワザは能力を超向上させるがデメリットもある。発動させると肉体が限界を超えて崩壊するんだ。しかぁし! 俺様たち魔族は魔核が壊されぬ限り不死身! すなわち、武を極めた魔族専用の秘奥義といえる!」
キングはにやりと笑って言う。
「アイン! 貴様がいかにコピー能力に優れようと、人間である以上【鬼神化】はマネできなかったということだぁ! ひゃーーーーひゃっひゃっひゃーーーー!」
そのときだ。
「いや、問題ない」
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
遙か彼方で、黄金のオーラが、立ち上った。
空中に浮いている【彼】を見て、キングは思わず腰を抜かす。
「なんでてめえが! 【鬼神化】を会得してるんだよぉおおおおおおおおおお!」
アインは、キングの使った【鬼神化】すらも、コピーしていた。
黒髪は白髪へと変化。
アインの全身を、樹木のような美しい【痣】が覆う。
両目、そして両頬に、まるで隈取りのような【痣】が浮かんでいる。
彼のオッドアイは、両目とも鮮血の色となっていた。
完璧な【鬼神化】状態を、アインは維持していた。
「ば、バカなバカなあり得ない! 俺様だって習得するのに気が遠くなるくらいの修練が必要だった! なのにてめえは! 俺様を見ただけで、一瞬で習得しやがった!」
恐怖、そしてアインへの嫉妬で、キングの頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。
だからこそ、天災を前に、キングは逃亡することを忘れてしまっていたのだ。
「だ、だがバカかおめぇ! そのワザは使うと肉体が崩壊するんだぞぉ! 人間のてめえが使って良いワザじゃないんだ!」
「バカはおまえだ。俺には【完全再生】能力がある。肉体が滅びるそばから再生すれば、鬼神化のデメリットは存在しないと同じだろ」
「!? そ、その手があったか! チクショウ! あり得ない! こんな展開は認めねえぞぉおおお!!!」
キングは拳を握りしめ、アインめがけて、光速で特攻する。
「うぉおおおおおお! 死ねやぁああああああああああ!」
アインは聖剣を手に取ると、フッ……と消える。
「なっ!?」
「遅いな、おまえ」
背後からアインの声がした。
同じ鬼神となったはずなのに、速度はアインの方が上。
「な、なぜだぁ!?」
「俺は巨神、魔神、そして元女神の3人の神を取り込んでいるからな。スペックで言えば、おまえを遥かに超えている」
アインは聖剣を取り出し、鬼神化したことにより、より強力となった一撃を、キングに放つ。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
その一撃は、キングの体を、その直線上にいあった山脈を、さらにその先にあった海を。
……そして、次元を越えた先にあった魔王城すらも、切断した。
「さすがね、アイン。やはりあなたは、素晴らしいわ」
エキドナは満足げに、そうつぶやくのだった。