155.鑑定士、伝説の聖剣を手に入れる
俺が特級魔族ウーノを撃破した、その日の夜。
山小人の工房にて。
俺の元に、職人のドワーフがやってくる。
「アイン殿。どうだ、この魔剣は?」
「良い感じだが……やっぱりダメだったよ。すまん」
「気にするなアイン殿。別の剣を持ってくる、しばし待たれよ」
職人ドワーフは工房の奥へと引っ込む。
「アイン様!」
「トト、どうした?」
工房に現れたのは、ドワーフの少女トトだった。
「アイン様がここにいると聞いて! 何をしてらっしゃるのですか?」
「剣を新しくしようと思ってな」
「剣を? アイン様には【精霊の剣】という、立派な剣がありますよね?」
「ああ。ウルスラからもらった最高の剣があるんだが、最近ちょっと問題があってな」
俺は精霊の剣を取り出し、トトに手渡す。
「刃こぼれ……してますね」
刃の部分に、でこぼこができている。
「長く使っているから、劣化したのでしょうか?」
「いや、それは違うぞトト」
「お父さん!」
何を隠そうこの工房、トトの父親が経営している鍛冶屋だ。
「その剣がアイン殿の力に、ついていけなくなっているのだ」
巨神トールを倒し、神闘気を手に入れてくらいからだろうか。
精霊の剣を思い切り振ると、刃こぼれするようになったのだ。
最初は些細な違和感だったのだが、魔神キングを取り込んでからは、破損が顕著になった。
「アイン様すごい! このような名刀すら、アイン様の力に適わないなんて!」
「ああ、まこと素晴らしい剣士だ! そのアイン殿にふさわしい剣を用意しているわけだが……」
トトの親父が、俺に別の剣を渡してくる。
禁術を発動させ、剣を軽く握る。
ぱきぃいいいいいいいいいいん!
「握っただけで壊れてしまうか。まったく、凄まじいなおぬしは!」
「すまん……10本も壊しちゃって」
「気にするな。おぬしはわしらドワーフの国を救ってくれたからな。安いものだ」
粉々になった剣を、トトが回収しながら言う。
「けど困ったのであります。お父さん、アイン様にふさわしい武器はないのでありますか?」
「わしらの持つ剣のなかで、最高の名刀となると……残るは、【聖剣】だけだな」
「せいけん?」
「わしらドワーフの所有する、最強にて最古の剣だ。保管場所まで案内する」
トトの親父に連れられ、俺はとある鉱山へとやってきた。
鉱山の入り口には、厳重な警備、そして何重にもなる分厚い扉で守られていた。
最後の扉を抜けると、そこは石造りの地下室だった。
淡い光の柱が立ち上っており、そこには数々の武器が飾られている。
「ここはわしらドワーフが管理する宝物殿。ドワーフの伝説の職人の作った武器が飾られている」
トトの親父に案内され、部屋の最奥までやってきた。
そこに飾られていたのは、1振りの剣だった。
片手剣が、鞘に収まっている状態で浮いている。
トトの親父は剣の前で頭を下げると、鞘を恐る恐る手に取る。
「持ってみてくれ」
樹木を思わせる金細工が施されている。
樹木の根は9本あり、根の先に宝玉が9つ、埋めてあった。
俺はうなずいて、剣を受け取った。
そのときだ。
ゴォオオオオオオオオオオオオオ!
鞘に埋めてある9つの宝玉のうち、【7つ】が、まばゆく光り出したのだ。
「やはり! おぬしが【選ばれし使い手】だったのだ!」
「お、お父さん、どういうことなの?」
「その剣は遥か昔、まだこの地に世界樹があった頃。【いにしえの勇者ミクトラン】が使っていた聖なる剣なのだ」
勇者……ミクトラン?
「だれだ、それは?」
「ミクトラン。世界樹を魔族の手から守っていた、最強の剣士の名だ」
地上にあった世界樹というのは、枯れたというエキドナの世界樹のことだろう。
それを守っていたと言うことは、つまり、ミクトランはエキドナの【守り手】だったってことか……?
「その武器は、世界樹を奪おうとした悪しきものたち、魔族や魔神、そして神すらも切り裂いたという」
「そんなすごい剣なのか」
「ああ。今までその剣を抜けるものは誰もいなかった。しかしアイン殿ならば」
俺は柄を握る。
そして、思い切り、剣を……抜いた。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
凄まじい量の闘気が、刃からあふれている。
「す、すごいです! アイン様! 今まで誰にも抜けなかった剣を、抜くなんて!」
俺が剣を強く握っても、剣は壊れることはなかった。
禁術オーラを込めてみると、オーラを受けた剣がさらにまばゆく輝き出した。
俺は剣を鞘に戻す。
「思った通り! おぬしは聖剣の【使い手】だったのだ! さすがはアイン殿!」
トトと親父が、俺にキラキラした目を向ける。
「アイン殿、その剣をお持ちくだされ」
「い、いや駄目だろ。これ、大事な剣なんだし……」
「いや、おぬしが持ってくれ。言い伝えによると、剣に選ばれしものに渡してくれと、これを託した【女性】がおっしゃっていたそうだ」
「女性……?」
「その方は【精霊】を名乗っておったと伝え聞いている」
精霊、となるとたくさんいる。
しかし世界樹の守り手である勇者ミクトランと関連付けるとするならば、世界樹の精霊ということになる。
「つまり、エキドナがこの剣をドワーフ経由で、俺に持たせようとしている……のか?」
もちろん世界樹とは無関係の精霊が、ドワーフに託した可能性もなくはないが。
「アイン殿。聖剣をお持ち下され。その剣は選ばれしおぬしが持つべきだ」
そうは言っても、他国の国宝をおいそれと貰っていいわけにはいかないだろうし……と迷っていたそのときだ。
カッ……! と俺の左手が光り輝く。
「精霊の剣……どうしたんだ、勝手に出てきて?」
俺が普段使っている精霊の剣が左手に握られている。
右手には、勇者の聖剣。
キィイイイイイイイイイイイン!!!!
ふたつの剣が、ビリビリと震えている。
「おお! 剣が共鳴しあっている!」
トトの親父が、目を輝かせて言う。
「職人であるわしにはわかる! この二つの剣は、もとは1つの剣だったのだ!」
「ふたつが、1つだった?」
「なんらかの手段を使い、1つの剣を二つにわけたのだ。そして、こやつらは元に戻ることを望んでいる!」
バッ! とトトの親父が、俺の前で頭を下げる。
「アイン殿! おぬしの剣をわしに任せてくれぬか! ふたつの剣をもとの形に見事もどしてみせよう!」
「いや、だから勇者の聖剣はおまえらの宝なんだろ……?」
「いいのであります! ドワーフのみんなも、あなたに恩返したいと思っているのであります! 聖剣を使ってくださいなのであります!」
……結局、俺はドワーフ達にうかがいをとったあと、聖剣と精霊の剣とを、トトの親父に任せることにした。
後日、俺は新しい剣を手に入れたのだった。