154.ウーノ、ワープ攻撃が全く通じず敗北
鑑定士アインが、精霊たちと温泉に浸かった、その日の夜。
特級魔族の1人、【ビショップ(序列4位)】の【ウーノ】。
ウーノは魔王城の会議室にて、イスに座っていた。
そこに、ダークエルフのエキドナが、やってくる。
「ウーノ。何をしているのかしら?」
「今からアインを抹殺しようと思っててね」
「魔界にいながら?」
「ぼくの能力【転送】は、どこにいてもワープゲートを作るものだからね。ここから人間界にいるアインを襲うことなんて、簡単さ」
ハッ……! とウーノは鼻で笑う。
「他の魔族たちもバカだよねぇ。敵の前にアホみたいに姿をさらしてさ。だからやられるんだって。学習しない間抜けばかりで困ったもんだよ」
「それで、ウーノはどうアインを処理するのかしら?」
「人間を殺すのに、何も直接攻撃なんて必要ないさ。人間の適応できない環境に放り込むだけで奴らは死ぬ。もろいからね」
「まぁ。なんて賢い子なのかしら。期待しているわね」
エキドナはウーノの隣に座る。
ウーノは眼前に、【ゲート】を広げる。
ゲートと言っても空間に空いた【穴】のようなものだ。
そこから人間界、アインの居場所が見える。
「さぁ、アイン。殺戮ショーの始まりだ」
アインの足元に、ゲートを出現させる。
彼はゲートに落ちる。
「はい勝ち確定~。はいぼくの勝ち~。はいザコ~」
「ウーノ、何をしたの?」
「ゲートでアインを、宇宙空間に放り投げたのさ」
この星の外には、無限に広がる暗黒の世界が広がっている。
そこには酸素も重力もない。
とても、人間が生きていられる環境ではない。
「はいこれでアインは死にましたっと。どうです、エキドナ様? ぼくはキングのアホよりも使えるでしょ?」
「すごいわウーノ。さすが、魔神と【女神】のハーフ。宇宙空間に物体を転送できるなんてね」
「へっへーん。まぁね!」
「あら? けれどウーノ。アインは生きてるみたいよ?」
「なっ!? なんだって!?」
バッ……! とウーノは、眼前に開いたゲートを見やる。
アインの様子を見張るために、彼の近くに開いたゲートだ。
星々が瞬く、暗黒の空間のなか、アインは平然と立っていた。
「ば、ばかな! あり得ない! 人間が生きてられる環境ではないんだぞ!?」
「どうしたの、ウーノ? アインは死んだんじゃなかったの?」
「そ、それは……その……なにかの間違いだ! ヤツは生きてるわけがない! ま、まあでもダメ押しに攻撃しておくよ!」
ウーノは別のゲートを開く。
「アインの元に流星をワープさせる!」
宇宙空間で適当に流星を探し、それを転送させる。
凄まじい速さの、巨大隕石が、宇宙に浮かぶアインの元へ押し寄せる。
「はっはっ! まぁ死んでるだろうけど! これで本当にさよならだ! ばいばい、貧弱なサルめぇ!」
と、そのときだった。
アインは精霊の剣を取り出すと、巨大隕石めがけて、剣を振るったのだ。
「なっ!? ば、バカなぁああああ!?」
隕石を真っ二つにしたことよりも、彼が生きていることに、ウーノは驚愕する。
「バカなバカなありえない! どうしてそこで生きていられるんだぁ!?」
「ああ、そう言えばウーノ。アインには【環境適応】という能力があったわね」
どんな空間でも、生きていられるという凄まじい能力を、彼は持っているという。
「バカな! そんなの聞いてない!」
「イオアナ戦で彼はその能力を手にしていたそうよ。それを使って深海のダンジョンに潜ったことあったようだけれど……ウーノ、そのことを知らないの?」
「そ、そんな……だ、だって相手は非魔族のサルだし、ぼくの能力は最強だし……相手への対策なんて必要ないから、だから……」
「言い訳を言う暇があるのなら、早くアインを殺しなさい」
「い、言い訳じゃない! ……です。わ、わかりました、アインを殺します! 本気で!」
ウーノは殺意を込めて、アインを見やる。
またも彼の足元に、ゲートを出現させる。
「太陽に転送しました! さすがのアインも、太陽に放り込まれて生きてるわけがありません!」
「なにを言っているの、ウーノ。アインは生きてるわ」
「はぁああああああああああああ!?」
バッ……! ウーノは慌ててゲートを見やる。
アインは太陽のなかでも、平然と立っていた。
「う、嘘だ! いくら環境適応があっても太陽の熱で消し炭になっているはずなのに!」
「これは、どういうことかしら、ウーノ? 2度も勝ったと報告したくせに、どうしてアインは生きているの?」
「わ、わかりません……なんで生きてるんだ……? アインはたかが人間のはずなのに……」
するとエキドナは、はぁ、と深々とため息をつく。
「アインの周りをよく見てご覧なさい」
「な、なんだあの莫大な闘気量は!」
アインは禁術を発動させていた。
凄まじい量の闘気が、アインの体を包み込んでいる。
「アインは巨神、そして魔神キングを討伐し、尋常ではない神の闘気をその身に宿している。つまり神に近い存在になっている彼に、今更太陽の熱くらいではダメージが入らないのよ」
「そ、そんな……アインはバケモノ……いや、もはや神じゃないか……」
ウーノはイスからずり落ちて、怯えた目をアインに向ける。
「さて、ウーノ。これからどうするの?」
エキドナがウーノの傍らに立ち、彼を見下ろす。
「アインはまだ生きてるわ」
「い、いやでも……ぼくの能力で使える、最大の攻撃が、たった今使えないことがわかったわけですし……」
「あなたは、言ったわね? アインを抹殺するって。できていないじゃない」
「む、無理ですよぉ……! アインはバケモノです! 戦って勝てる相手ではありません!」
エキドナはしゃがみこみ、ウーノの首をガッ……! と掴む。
「ぐぇえ!」
エキドナはウーノを軽々と持ち上げる。
「もう一度言うわ。アインを抹殺しなさい」
「で、できません……」
「できるできないじゃない。やるのよ。それとも、今ここで、あなたをこのゲートのなかに放り込んでも良いのよ?」
ウーノが開いたゲートは、アインのいる場所。
すなわち、太陽のなかへと繋がっている。
「選びなさい。今わたしに殺されて死ぬか、それとも、死ぬ覚悟でアインを殺すか」
「い、いやだぁ~……。死にたくないよぉ~……」
そのときだ。
ゲートのなかのアインと、目が合ったのだ。
アインの左目が、黄金に輝く。
目の周りの痣も、金色に染まった。
「【死ね】」
「ガッ……! く、くるし……やだ……しにたく……な……」
ガクッ、とウーノは絶命する。
ゲートが閉じ、エキドナだけになる。
「さすがね、アイン。【千里眼】で視力を強化し、ゲート先にいるウーノを捕らえ、【誓約の蛇眼】を使い、殺したのね」
その後アインは、ウーノからコピーしたワープ能力で、地上へと余裕で帰還した。
「素晴らしいわアイン。さすが、魔王の器」