151.鑑定士、キングと戦う
イオアナ襲撃から、数日後。
ドワーフ国郊外にある、雪原。
「よぉ。てめえか、鑑定士アインって言うサルは」
金髪の大男が、俺を見下ろしていう。
筋骨隆々。
厳つい顔つき。
両腕、顔など、露出している肌には、禁術の痣が見られた。
『やつは【キング】。懲罰部隊のリーダーで特級魔族。そして魔神じゃ』
「魔神?」
『魔を極め、神となった存在。魔王もその1人じゃ』
つまりキングは、魔王と同等の存在というわけだ。
俺はキングを見やる。
凄まじい量の禁術オーラが、体から噴出している。
「はっ! 見れば見るほど貧弱なサルじゃねえか。他の奴らは、こんなのに負けてやがったのかぁ?」
「用件は何だ?」
ポキポキ……と指を鳴らしながら、キングが俺に近づいてくる。
「俺様は強すぎてなぁ。まともに戦える相手が魔王くらいしかいねえで退屈してたのよ。けど……久々に少しは骨のある相手が現れたってことで、ちょっと暇つぶしに、調子乗ったサルをボコりに来たってわけ」
キングはヒュッ……! と軽く拳を繰り出す。
ドゴォオオオオオオオオオオオン!
凄まじい音がして、背後を振り返る。
そこには、かつて雪山があった。
だが強力な隕石が落ちたかのように、山の一部分だけに穴が空いている。
『キングは禁術をマスターしているようじゃ。身体能力は並ではない。それに能力【加速拳】【魔神拳】を持ち、さらに【神属性】を持つ』
俺はウルスラから、キングの能力の詳細を聞き出す。
……厄介な相手そうだった。
「おい小僧。おまえにチャンスをやろう」
「チャンス?」
「ハンデくらいやらないと、サルと神とじゃ、まともに勝負にならねーだろ?」
キングが余裕の表情で、両手を広げる。
「一撃だ。一撃だけ、ノーガードで撃たせてやるよ」
くいくい、と指を曲げて言う。
「いいのか、そんな余裕な態度で?」
「ああ。いいぜぇ。ほら、全力でかかって来いよ。この一撃で倒さねえと、もう2度と倒すチャンスはおまえにねーけどなぁ」
どうやらキングは、最初の一撃を相手に譲っても、勝てる自信があるのだろう。
「そうか。なら、遠慮無く行かせてもらう」
俺は禁術を発動する。
「クルシュ。全力でいくぞ」
『はいよ~。おっけ~』
左目が真っ赤に染まる。
目の周りの痣も、より強く、より濃く……鮮血の色となる。
「っ!? な、なんだその莫大な闘気量は!? それにこの異様なプレッシャーは!?」
キングの顔色が、青くなる。
「くっ……!」
額に大汗をかき、バッ! と両腕を顔の前でクロスさせた。
俺は禁術で強化した、最大出力の【虚無】を、キングに発動させた。
ボシュゥウウウウ…………!!!!
その瞬間、キングの立っていた周囲1キロメートルにあったものが、消し飛んだ。
地面が半球状にえぐれている。
その中心に、【魔核】が宙に浮いていた。
おそらくはキングの魔核だろう。
「仕留め損なったか」
攻撃が当たる瞬間、キングは防御していた。
そのせいで、虚無で全て消し飛ばせなかったのだろう。
「まあ問題ない」
俺は精霊の剣を取り出し、魔核めがけて、剣を振るった……そのときだ。
「くっ、くそがぁあああああああ!」
魔核を中心に、一瞬でキングの肉体が再生。
俺の斬撃を、キングは紙一重で避けた。
「カハッ……! はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
キングは脂汗を額に浮かべながら、荒い呼吸を繰り返す。
「ば、バカな……! なんだったんだ、さっきの一撃は……!?」
「おいキング。ノーガードで一撃をあてさせてくれるんじゃなかったのか?」
「う、うるさい!」
キングはギリッ、と歯がみする。
「調子に乗るのはこれまでだ、サルめ! 地獄を見せてやる!」
拳を構える、キング。
『アインよ。キングは【加速拳】を使っておぬしに接近し、1000発の連打を喰らわせてくるぞ』
その瞬間、凄まじいスピードで、俺に肉薄した。
「おらぁ! 死ねぇやぁ!」
キングの繰り出す拳は、あまりに早く、常人では目で追えない速度だった。
……そう、常人では、な。
俺はキングの拳を、すべて神眼で見切ってかわす。
スカッ……! スカスカッ……!
「ば、バカな!? 加速拳を使っている俺様の拳を、どうして避けられる!?」
拳を全て見切った後、俺はがら空きの胴めがけて剣を振るう。
ザシュッ……!
「ぐぅうう……!」
キングがその場に膝をつく。
腹部からは大量の出血が見られた。
「加速拳。相手の10倍の速さで動けるようになる能力か。便利だな、これ」
俺は剣を収納し、キングに肉薄して、拳を繰り出す。
ズガガガガガガがガガガガガガガッ!
「ぐぇえええええええええええ!」
1000発もの連打を受け、キングが吹っ飛ぶ。
ぐしゃっ……!
「ば、バカな……俺の加速拳だと!?」
戦闘が始まる前に、キングの能力はあらかた鑑定ずみだ。
「それに、おかしいぞてめえ! 俺様は魔神だぞ! 神属性がある! 攻撃が通るのはおかしい!」
「たしか、神属性を持つ相手に、人間の攻撃は一切通じないだったか? あいにくと、俺は神を殺して手に入れた、対神属性があるんだよ」
「ば、バカな!? それは神殺しを成さない限り、人間が手に入れられるわけがないんだぞ!?」
「神なら先日殺したよ」
「なん……だとぉ!?」
キングが驚愕の表情を浮かべる。
どうやらこいつ、自分が強いからって、戦う相手のことをろくに調べないとみた。
「侮っていた相手に膝を付かされるとか、神として恥ずかしくないのか?」
「くそっ! 調子乗るんじゃねえぞ、サルの分際でぇえええええええ!」
キングは立ち上がると、拳を固く握りしめる。
ゴォオオオオオオオオオオオオ!
凄まじいプレッシャーを、キングから感じる。
『キングの使おうとしているのは【魔神拳】。一時的に攻撃力を10倍にする能力じゃ』
「わかった。テレジア。力貸してくれ」
『仰せのままに……ですわ』
俺の左目が金色に染まる。
禁術で強化した【誓約の蛇眼】を発動させる。
「【能力を解け】」
フッ……!
「ば、バカな!? 魔神拳が解除されただと!?」
隙を見せたキングの間合いに、俺は【虚無】のテレポートを使って、一瞬で移動する。
「なっ、なんだおまえ!? 本当に人間か!? 俺様は……俺様はキングなんだ! 負けるわけがないんだぞぉお!」
俺は精霊の剣を取り出し、禁術で身体能力を強化。
さらに【魔神拳】を使い出力を最大までに底上げした一撃を、キングに放つ。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
強烈な一撃をまともに受け、キングは消滅する。
「キングだからと侮ったから、おまえは負けたんだよ」