148.鑑定士、壊れた街の復興を手伝う
雷龍を討伐した、数日後。
よく晴れた昼下がり。
俺は最初に訪れた【ニサラキ】の街まで、やってきていた。
『アインよ。壊れた街は残すところここのみじゃが……少し休んではどうだ?』
「問題ない。それより、早く壊れた街を治してやらないとな」
俺は街へと入る。
「アイン様ぁ! おひさしぶりでありますっ!」
出迎えたのは、ドワーフの少女【トト】だ。
「うわさはフクロウ便で、仲間からききました! 巨人どもを駆逐し、巨神すらも倒したのでありますのでしょう!」
キラキラとした目を、トトが俺に向ける。
「やっぱりアイン様はすごいのであります! 巨神のせいで、私たちの国は酷い冷害に困っていました! ですが見てくださいこの青空!」
この国に来たときとは打って変わって、空は快晴だった。
「アイン様のおかげで国は救われました! みんな深く感謝しているのであります!」
ややあって。
俺はトトとともに、街を歩く。
「この街も酷い有様だな」
「ええ。トロールの奴ら、私たちの作り上げた街を片っ端から壊しまくって……楽しんでいたんです……」
壊れた町並みには、暗い顔をしたドワーフたちがとぼとぼと歩いている。
どこの街も、ここと同じような状況だった。
トロールは破壊行為そのものを楽しいと感じるやつらのようだ。
「ところでアイン様、今日は何をしに来たのでありますか?」
「街の復興を手伝いに来たんだよ」
「そんな! いいですよ! すでに国を救ってもらった恩人なのに、これ以上何かを頼むのは厚かましいであります!」
「いいって。気にするな。困ってる人は放っておけないんだよ」
放置すると、ユーリが悲しむからな。
「ああ……! やっぱりアイン様はすばらしい御方だ……! うう……うう……」
「何泣いてるんだよおまえ……」
「あ、アイン様の優しさがぁ……胸に染みてぇ……」
「大げさだって。まずは住宅街まで案内してくれ」
トトに道案内を頼み、俺は壊れた住居が建ち並ぶ区画へとやってきた。
ドワーフたちがテントを張り、たき火をたいて暖を取っている。
「しかしアイン様。復興とは具体的に何をなさるのですか?」
「新しい力を使う。【白猫】」
俺のとなりに、白髪の幼女が出現する。
獣の耳にしっぽ。
白い肌に、あどけない顔つき。
「あ、アイン様? この御方は?」
「うちは白猫やで~。精霊テレジアの守り手で、白虎の娘さんやで~」
テレジアが仲間になった際、彼女の守り手である白猫もまた、俺に付いてくることになったのだ。
「や~。大変やねぇ。街が壊れてかわいそうや」
「ああ。だからおまえの【復元】の力、使わせてもらうぞ」
「はいな~。存分に使ってね~。それと、うちの子といつも仲良くしてくれて、ありがとな~♡」
白猫は笑顔で投げキッスすると、元の場所へと戻る。
俺は壊れた家の前に立ち、手を伸ばす。
そして、能力を発動させた。
かた……かたかたかた……!
散らばっている瓦礫たちが、微細に振動し出す。
かと思いきや、突如としてすごいスピードで宙に浮かび上がった。
「な、なんだ!? 壊れた破片とかが、みるみるうちに集まって、元の形になっていくのであります!」
仰天するトトをよそに、壊れた家はみるみるうちに壊れる前へと戻っていく。
「し、信じられない……壊れた家が、完璧に元通りなのであります……!」
トトが今治ったばかりの家の壁を、ペタペタと触る。
「あ、アイン様はいったいなにをなさったのであります?」
「【復元】。壊れた無生物を元の形に、一瞬で元の状態に戻す能力だ」
「す、すごい! すごいですアイン様!」
トトが家のなかを窓から見て叫ぶ。
「壊れた家具まで元通りです!」
俺は飛翔能力で飛び上がる。
禁術を発動させ、【復元】を使う。
ずぉおおおおおおおおおお……!
「なっなんだぁ!?」「壊れた街の家が、一瞬ですべて元通りになったぞ!?」
通りにいたドワーフたちが、ぺたん……と腰を抜かす。
「よし、問題なく家は、全部直ったな」
俺は地上へと戻る。
「半壊した街がもう元通りです! さすがアイン様!」
俺はトトとともに街を歩く。
家だけでなく、道路や公共施設など。
俺はあらゆる壊れたものを、【復元】スキルで治していった。
ややあって。
「アイン様、街の外までやってきて、何をなさるんですか?」
「家が直ったからな。次はメシだろ?」
やってきたのは、街の外にある農地だ。
「ほとんど手が加わってないな」
「しかたありません。つい最近まで外で農業なんてできる気候ではありませんでしたから。それにここら一帯の土は農地に不向きな、痩せた土地なんです」
外からやってくる商人から、物を買って生き延びていたらしい。
しかし猛吹雪と国中にあふれるトロールたちによって、物流はほぼ途絶えていたそうだ。
「問題ない。腹一杯めしくわしてやるよ」
俺はかつて、レーシック領地の食糧事情を改善した際に使った、【万能菜園】能力を発動。
一瞬にして、肥沃な大地へと変貌する。
「後は【万能種子】をまく。メイ、力を貸してくれ」
『めぇにおまかせっ!』
【創樹】の力を発動。
1本の巨木が生え、そこの枝から万能種子が、雨のようにボトボトと農地に落ちる。
ずぉおおおおおおおおおおお!
種子からは一瞬で芽が出て、そこから野菜、果物、果ては肉までもが生えてきた。
「す、すごい! なんですか、これは!?」
「万能種子は植物だけでなく、肉とかも作れるんだ。万能菜園となった農地では、まけばすぐに実がなる。創樹を使って種を自動でまけば、何もせずとも食料を生み続けるんだ」
凄まじい数の食い物が、農地にあふれる。
召喚スキルを使って、適当にモンスターに食べ物を街まで運ばせる。
「すごい! すごいすごいすごいですアイン様ー!」
トトがキラキラした目を、俺に向けてくる。
「これだけ食料があればみんなが飢えに苦しむことがなくなります!」
その後。
今度は街の外周を取り囲む、街の防壁の上へとやってきた。
創樹で作った防壁に、対トロール用の防御システム(近づくと銃で撃ち殺すヤツ)を組み込んでおく。
また、召喚モンスターを徘徊させておき、トロールが近づいたらすぐに街の人に知らせられるよう配備しておいた。
「こんなもんか」
俺は街のなかへと戻る。
「「「アイン様!」」」
ニサラキに住むドワーフたちが、大勢、俺の前に集まっていた。
バッ……! と彼らが頭を下げる。
「街の復興を手伝ってくださり、ありがとうございました!」
「アイン様のおかげで、固い地面で眠れぬ夜を過ごさずにすみます!」
「ぼくたちおなかいっぱいごはんたべられる! これもアイン様のおかげだよー!」
老若男女、たくさんのドワーフたちが、笑顔で俺に言う。
「「「ありがとう、我らが救世主さま!」」」