147.鑑定士、特級相手に手も足も出さず勝つ
俺が巨神トールを討伐してから、数日後。
ドワーフ国の郊外にて。
俺の元に、またも特級魔族が襲撃してきた。
『【雷龍】。特級の1人じゃ。階級は【ナイト】。天を覆うほどの巨大な竜で、声を発するだけで落雷を起こす』
神闘気を身に付けてから、鑑定能力もさらに強化された。
特級相手でも階級がわかるようになったのだ。
「貴様かぁ? 久しぶりに骨のある相手が地上にいると聞いてやってくれば、なんだ、ただのサルではないか」
ピシャッ……!
ドゴォオオオオオオオオン!
「ほう、雷を防ぐか。そこそこやるようだな」
ドゴォオオオオオオオン!
ズドォオオオオオオオオオオン!
やつがしゃべるたび、雷が絶え間なく落ちてくる。
だが俺には禁術オーラの鎧があるため、落雷攻撃が通用しない。
「しかしどこまで持つかな? 長期戦になればなるほど貴様は不利になるぞ?」
雨あられと落雷が俺めがけて落ちてくる。
「ほれほれ、防戦一方ではわしに勝てぬぞ? どうする? お得意の瞳術で消し飛ばすか? しかしこの落雷の雨に防がれてわしには通じないぞぉ」
俺は、空を見上げる。
「テレジア。力使うぞ」
「はい……アイン様。どうぞ……わたくしをお好きになさって……」
俺の左目が、金色に変わる。
「多少面白い相手ではあった。しかし残念だな小僧! 貴様はこれでおしまいだ!」
雷龍が大きく口を開く。
そこに雷のエネルギーが溜まる。
『アインよ。高エネルギーの落雷じゃ。国まるごとおぬしを消し飛ばす威力がある』
「ふはは! 死ねぇええええ!」
俺は、雷龍の目を見て、言う。
「【黙れ】」
そのときだ。
攻撃を放つ瞬間、雷龍が口を閉ざしたのだ。
バリバリバリバリバリバリーーー!!
「むぐうぅううううううううううう!」
雷龍は自分の雷で、感電してやがった。
テレジアの能力【誓約の蛇眼】。
見た相手に強制的に言うことを聞かせる能力だ。
「お得意の雷も、しゃべれなきゃ打てないな」
『アインよ。雷龍は上空から尾でたたきつける攻撃をするそうじゃ』
ぐぉおおおおおおおおおおお!
凄まじくデカい竜の尾が、俺の元へ落ちてくる。
「【動くな】」
ピタッ……!
「ぷはっ……! はぁ……はぁ……しゃべれた……」
「なるほど。命令は1つのみか。新しい命令をすると前のはキャンセルされると」
「さすがですわ……アイン様。ご明察……です。ああ、かしこくて素敵な……わたくしの旦那様♡」
テレジアは顕現すると、俺の体にしなだれかかる。
「くそがぁ! だがしゃべれるようになったから今度は雷攻撃が喰らうぞ!」
豪雨のごとく、落雷が俺に降り注ぐ。
テレジアを目のなかに戻し、俺は言う。
「【外せ】」
突如、雷が方向を変え、明後日の方向に落ちる。
「バカな!? なぜ当たらぬ!」
「攻撃を外せって命令をおまえに与えた。自分の意思で攻撃してるんだから、自分の意思で攻撃を外すことは可能だろ?」
「くそっ! だがしかし! 結局のところ貴様は防戦一方ではないか! 所詮天に浮かぶ竜に人間は適わないのだぁ!」
「問題ない。【ひれ伏せ】」
ぐしゃっ……!
雷龍は遥か上空から、地上へと凄まじい速さで落下。
「あり得ぬ! この特級魔族であるこのわしが! まるで体を動かないだと!?」
「すごい威力だな、この蛇眼」
『ふふ……アイン様。それは……あなただからこそです』
『アインよ。どうやら通常蛇眼には1度の使用に莫大な闘気と、目への負担がかかるようじゃ。命令が上位であればあるほど大きくなる。しかしおぬしには神闘気と、そして神眼がある。蛇眼のリスクを無視して能力が使用できるわけじゃな』
雷龍は目を大きくむく。
「なんだそれは!? 強大な力をノーリスクで使えるだと!? そんなの反則ではないか!」
「別におまえと勝負しているわけじゃないからいいだろ」
「勝負では……ない……」
愕然とした表情で、地上に這いつくばる雷龍が言う。
「雷帝と恐れられてきたこのわしを相手に……勝負ではない……だと……?」
バチッ……! バチバチバチ!
雷龍の体に、凄まじいまでのエネルギーが溜まっていく。
『やつは雷を体に溜め、そのエネルギーを一気に放出するみたいじゃ。大陸ごと吹き飛ぶぞ』
「わかった。【攻撃を中止しろ】」
突如、雷龍は帯電をやめる。
「くっ! だ、だがこれで体の自由がきく!」
バッ……! と雷龍が飛び上がろうとする。
「【ねじれろ】」
雷龍の体が、メキメキと嫌な音を立てながら、ねじれていく。
「うぎゃぁああああああああ!」
痛みに耐えられないのか、雷龍は地面に倒れる。
体中の骨という骨がねじれ折れていく。
「や、やめろぉお! やめてくれぇええ!」
ばきばきめきめきぐしゃばきっ!
雷龍は自分の意思で体を動かせないでいた。
『なんということじゃ。特級魔族が完全に翻弄されておる。さすがじゃ、アインよ』
「ありがとう。けどすごいのはテレジアだ。蛇眼が強いんだよ」
『ああ……! もったいないお言葉……好き……♡ 好き好き好き♡ だぁいすき……♡』
テレジアが顕現して、俺にしなだれかかる。
「お強くて素敵な殿方……わたくしと、さぁ子供を作りましょう♡」
「も、【戻ってくれ】」
テレジアは目のなかへと戻っていった。
「精霊にも使えるんだなこれ」
ややあって。
「すっかりボールになったな、おまえ」
雷龍はねじれ続けた結果、巨大な球体となっていた。
「このわしが……こんな無様な姿をさらすとは……こんなガキに……くそっ!」
「実験に付き合ってくれてありがとな。じゃあ死ね」
「まっ、待て! 待つんだ!」
雷龍が慌てていう。
『アインよ。雷龍の体のなかには、長い年月蓄えてきた凄まじいエネルギーがある』
「なるほど、直接攻撃すれば体からそのエネルギーが爆発して周囲を吹っ飛ばすのか」
「良いかよく聞け! わしの体内には凄まじいエネルギーが……って、ぇえええ!? な、なぜ知ってるうぅううううう!」
うちには優秀なブレーンがいるからな。
「し、しかし知ってたからどうした!? 貴様が不利な状況にあることには変わりない!」
にやり、と勝ち誇った笑みを雷龍が浮かべる。
「この雷龍! 貴様に勝てずともしかし負けもしない! どうだ殺してみろ! 直接攻撃をせずわしを殺してみろよぉ! できないだろぉ!」
「いや、できるよ」
「ふざけたことを抜かすな貧弱なガキがぁ!」
俺は禁術を発動させ、能力を向上させる。
左目の痣が、黄金に染まる。
俺は雷龍の目を見て、言う。
「【死ね】」
どさっ……!
突如、雷龍の目から生気が失われ、その場に倒れ、動かなくなった。
「死ねと言えば外部から攻撃を与えずに殺すことができるんだ。その分消費する闘気量は尋常じゃないがな」
『アインよ、やはりおぬしは規格外の存在じゃ。たいした男よ』




