145.鑑定士、巨神と戦う
俺がトロールたちをせん滅してから、数日がたったある日のこと。
王都【ウフコ】にほど近い、山にて。
「ここか、隠しダンジョンのある【城】って言うのは」
見上げるとそこには、分厚い氷でできた美しい城がある。
『もとは小さい山だったのじゃが、【巨神】が占拠し、氷の城となったらしいな』
「ここの地下に精霊がいるんだよな?」
『ああ。しかし彼女の元へ行くには、この分厚い氷をなんとかしなければならぬ』
元々ドワーフ国はただの寒冷地帯だった。
ここまで年中猛吹雪に覆われるようになったのは、【氷の巨神】がここに住み着いたせいらしい。
『アインよ。相手は末席とは言え【神】じゃ。気をつけるのじゃ』
「神……か。女神様以外にも神っているんだな」
『ああ。【天界】には数多くの神々が住む。地上にも天界から派遣された神が数多くいる。巨神もそのひとりじゃ』
まあ、天使とか悪魔がいるんだ。
神がいてもおかしくないな。
「アイン、さん。ひきかえし、ましょ……」
ユーリが隣に顕現して言う。
「神様、強いん、でしょう? アインさん、ケガしたら……いやです」
「でもそうすると、お姉ちゃんに会えないぞ?」
「……わたしの、わがままのせい、で、アインさん、傷つくの……いや、です」
まったく、この子は本当に優しいな。
「心配するな。何も問題ない」
俺はユーリの金髪を撫でる。
「俺にはみんながいる。それにユーリがいる。だから誰があろうと負けないよ」
みんなの力が、そして大切な人に恩を返したいという気持ちが、俺を強くする。
相手が神だからなんだっていうのだ。
「アイン、さん……ありが、とー」
むぎゅっ、とユーリが俺の体に抱きつく。
かくして、俺は【神】に挑むべく、氷の城のなかへと侵入した。
ややあって。
そこは氷でできた巨大なホールだった。
その最奥にドデカい玉座。
座っていたのは、青い体の、巨大すぎる男だった。
【なんだ、貴様は……?】
ぎょろっ、と巨神が俺を見やる。
「俺はアイン。地下にいる世界樹に用があるんだ。悪いけど氷をどかしてくれ」
【くっ……くくくっ、はーーーはっはっはーーーーーーーーー!】
凄まじい声量で、巨神が笑い出す。
【こ、これは面白い冗談だ……ひっ、ひっ、たかが人間ごとき命令を、神であるわしが聞くとでも思うのか?】
「知らん。どうなんだよ。いやなら力尽くでどいてもらうぞ」
【はーーーーはっは! 面白い! 虫けらの分際で! 神にかなうと本気で思っているのか?】
「ああ。俺に仲間たちからもらった、強力なチカラがあるからな」
【ぷくくく……良かろう。無聊の慰めに、特別に相手をしてやろう】
巨神が体を持ち上げる。
ダイダラボッチほどの大きさはないが、体から感じる圧はヤツ以上だ。
【わしの名前は【トール】。氷と雷の神よ。貴様を殺す神の名前、知れたことを喜びながら死ぬが良い】
巨神トールは、その手に黄金の槌を持って、立ち上がる。
『アインよ。やつの槌は【雷槌ニョルニル】。万物を砕く最強のハンマーじゃ。雷が付与されており、打撃を避けたとしてもその雷に当たれば即死する。注意せよ』
【我が必殺のニョルニルによる一撃! 受けて死ねること光栄に思うが良い!】
トールは思い切り、地面にハンマーをたたきつける。
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!
地表に隕石が落下したかのごとく、強烈な一撃。
千里眼で来るとわかっていた俺は、飛翔能力でそれを避ける。
だがハンマーから極太の雷が発生し、俺に襲いかかる。
バリバリバリバリバリーーー!!!!
【ふっ……死んだか。この程度でやられるとは、人間とはまことに脆弱な虫けらよ】
ザシュッ……!
【な、なにぃ!?】
巨神の指を、俺は切断する。
ずずぅーん……! と5つの指が激しい音をたてて落ちた。
【き、貴様どうして!? わがニョルニルの雷を受けて、生身の人間が無事なはずがなかろうが!】
「生身じゃねえよ」
俺は禁術で体を強化していた。
禁術オーラの鎧は、トールの雷を防いだのだ。
【に、人間の分際でやるではないか。だが! わがニョルニルによる必殺の打撃、【雷神ノ槌】うけてみよ!】
ぐぉっ……! と黄金のハンマーが、俺めがけて振り下ろされる。
その威力、そしてスピードは、さっき見た。
俺は精霊の剣を取り出し、ハンマーを攻撃反射する。
パリィイイイイイイイイン!
【なぁ……!? 弾いただとぉ!?】
トールはそのまま、尻餅をつく。
【ば、バカな!? 星を砕くとさえいわれる、ニョルニルの一撃をパリィするだと!?】
巨神の表情に焦りが浮かぶ。
「この程度か? 神も大したことないな」
【だ、黙れぇえええい!】
トールは立ち上がろうとする。
「クルシュ。消し飛ばすぞ」
俺の左目の痣が、真っ赤に染まる。
禁術で強化した【虚無の邪眼】で、トールの片足首を消失させる。
ボシュッ……!
【なっ!? 何をしたぁ!?】
「答える義理はない。……しかし強化した虚無で片足の一部だけか。出力をもっと上げる必要があるな」
チラッと俺はハンマーを見やる。
「まあ問題ない」
俺は禁術で強化し、トールめがけて走り出す。
精霊の剣で、逆側の足を切りつける。
ズバァアアアアアアアアアン!
【うぎゃぁああ! 足がぁああああ!】
トールは両足を失う。
俺はそのまま、やつの体を昇りながら、剣で滅多斬りにする。
ずばばばばばばばばばっ……!
【く、くそぉ! このわしが! こんな虫けら程度にぃいい!】
トールが雷槌を、俺めがけて降る。
だがそれを俺は神眼で見極め、回避する。
雷槌がトールの体に当たり、激しい電流が走る。
【あばばばばばばっ!】
トールは自分の攻撃を受けて、感電していた。
パッ……! とトールは手に持っていた雷槌ニョルニルを、離す。
俺は禁術強化した斬撃を、ニョルニルめがけて振る。
ズバンッ……!
黄金の槌は破壊されると、光の粒子となって、精霊の剣に取り込まれる。
どくんっ……!
その突如、すさまじいエネルギーが、精霊の剣を通して、俺の体に入ってくる。
『そうか! 精霊の剣は、切りつけた相手の闘気を吸収する。神の莫大なエネルギーを手にした今なら!』
俺はニョルニルから吸収した力を、剣に込める。
【う、うわぁああ! やめろぉ! わしは神だぞ! たかが人間に負けて良いはずがないんだぞぉ!】
「たかが人間を侮ったのが、おまえの敗因だ」
俺は禁術とニョルニルから吸収したエネルギーを、剣に乗せて、トールめがけて振るった。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
その一撃は、まさにトールが見せた雷槌の一撃に酷似していた。
莫大なエネルギーの斬撃を受け、トールは絶命。
『さすがじゃアインよ。神すらも討伐するとは』




