表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/244

144.特級魔族、鑑定士の作り上げた要塞に敗北



 鑑定士アインが、占拠した巨人たちを討伐してから、数日後。


 ここは魔界。

 人間たちの住む世界とは、また別の次元に存在する異界。


 魔界の最奥にある魔王城。

 その大会議場にて。


 かつて上級魔族たちが座っていたイスは、撤去された。


 新たにイスが用意されていた。

 その数は、【16】。


 チェスの駒と同じ数分そろえられたイスには、エキドナの親衛隊【懲罰部隊ちょうばつぶたい】の面々が座っていた。


 そこに、麗しい見た目のダークエルフが入ってくる。


 流れるような銀髪。

 小麦色をした肌。


 彼女の名前はエキドナ。


「皆の者、敬愛すべきエキドナ様に、敬礼!」


 バッ……! と懲罰部隊の面々が敬礼のポーズを取る。


「けっ……! キングである俺様はそんなことしねーからな」


「貴様、不敬であるぞ!」


 兵士ポーンのひとりが、金髪の大男キングに詰め寄ろうとする。


「俺様は別にこの女に従うわけじゃねえ。こいつが【ミクトラン】を復活させるっつーから、仕方なく力を貸してやってるだけだ」


「なんだと!? 貴様ぁ!」


「キング。それに【ベータ】。その辺にして」


 ポーンの1人、ベータは不服そうな顔をしながら、しかしうなずいた。


「なんでてめえなんぞの命令に聞かなきゃいけねーんだよ。俺様は帰るぞ」


 ガタッ、とキングが立ち上がり、会議室から出て行こうとする。


「おいエキドナ」


「あら、どうしたのキング?」


「おまえがご執心のあのサルの名前、なんつったか?」


「アインよ。顔はこれ」


 エキドナは胸の谷間から水晶を取り出す。

 映像を切り取る水晶だ。


 それを放り投げると、キングは受け取って、なかに写っているアインを見やる。


「なんだぁ……? こんなひ弱そうなガキに、みんな負けてやがるのかぁ?」


 ハッ……! とキングが鼻を鳴らす。


「どいつもこいつもこんなサルに足をすくわれやがって。アホどもが」


 キングは水晶を投げ捨て、その場を後にしようとする。


「キング。私の言うことを聞かなくても良いけれど、いずれあなたにも出動し、アインと戦ってもらうわよ」


「ハッ……! こんなザコそうなサルの相手、このキングである俺様がするわけねーだろ。馬鹿馬鹿しい」


「そうね。けど、もしアインが、ミクトラン様に匹敵する力の持ち主だったとしたら……?」


「あり得ねーな」


「けれど現にアインは数多くの魔族を倒してるわよ?」


「そんなの負けたアホどもがザコだっただけだっつーの。俺様はそこらの雑種と違う。絶対に誰にも負けねえ。なにせ俺様は……【魔神】だからな」


 ふんっ、と鼻を鳴らしキングが出て行く。

「さて、では今日は誰に出動してもらいましょうか?」


 エキドナが悠然とイスに座り、部下たちを見渡す。


「エキドナ様! アインの討伐はこの私、【ポーン】の【ベータ】にお任せあれ!」


 ベータはエキドナに前に跪く。


「そうね、ベータ。巨人どもの指揮権をあなたに与えるわ。【ウフコ】の街にいるアインを殺してきて頂戴」


「かしこまりました!」


 かくして、特級魔族ベータが、魔界を出てドワーフ国へと向かった。


 ややあって。


 ウフコの街郊外にて。


「トロールども、よく聞け! 今からアインの元へ襲撃をかける!」


 ベータの周りにはトロールたちが集結している。

 

 だが巨人たちの顔には、恐怖の表情が浮かんでいた。


「む、むりだ……」

「あ、あいんになかま、み、みなごろしにされた……」


 トロールたちはなにも、全滅したわけではない。


 街から逃げた者、そもそも街にいなかった者たちは、アインの襲撃から免れたのだ。


 しかし彼の恐怖は、トロールの脳裏にしっかりとこびりついている。


「あ、あれは悪魔だ……人間じゃ、ない」


「安心しろ。君らにはこの最高の【錬金術師】が作った、【狂騒薬】がある」


 ベータが懐から、赤い液体の入った瓶を取り出す。


 それをトロールの大群たちに持たせ、飲ませる。


「うぉおおおおおおおおおおお!」


 メキメキメキ……!


 薬を飲んだトロールたちの体が、3倍に膨れ上がる。


 彼らの目は真っ赤に染まり、そこに先ほどまでの怯えた表情はなかった。


「飲んだものを強化し、死ぬまで立ち止まらない【狂戦士】を作り出すポーションよ!」


 ベータはウフコの街を指さす。


「さぁゆけトロールの狂戦士たちよ! 街を破壊し、アインを殺せ!」


「「「ぐぉおおおおおおお!」」」


 狂気の表情を浮かべながら、トロールたちがいっせいに駆け出す。


 ウフコの街は、アインの作った樹木の防壁に囲まれている。


「だがしかし! 強化されたトロールたちを前に、あんな壁など紙にひとしい! やれぇ! 破壊しろぉ!」


 と、そのときだった。


 ドパァアアアアアアアアアアアア!


 突如、防壁上部から、無数の大型の弾丸が射出されたのだ。


「ガッ!」「ぐぎっ!」「ぎゃっ!」


 弾丸は正確に、トロールの脳天を貫いていた。


「なんだ!? アインか!? いや違う……なんだあの数の大砲は!?」


 防壁上部だけでない、防壁にもうけられた凄まじい数の窓からは、大砲が覗いていた。


 ドバァアアアアアアアアアア!


 砲台から射出される弾丸は、強化されたトロールの頭蓋骨すらも容易く打ち抜いた。

「くそっ! 何がどうなってやがる!」

「ドワーフ特製の大砲だよ」


 防壁から1人の少年が降りてきた。


「アイン……レーシック!」


 ベータは憎々しげに、アインをにらみ付ける。


「トロールが全滅してないのはわかっていた。俺の不在時にまた襲われても困る。だからドワーフたちに迎撃手段を持たせた」


「ただの大砲でトロールがやられるわけがない! それにあの数! 尋常ではない!」


「俺は【複製】で大砲の数を増やし、さらに【闘気オーラ付与エンチャント】によって強化した大砲を無数に作り出したのだ。ここだけでない、他の街の守りにも使われている」


「くそ! ばけものめぇ!」


 あっという間に、トロールたちはせん滅された。


「かくなる上は……!」


 ベータは懐から小瓶を取り出し、アインに向かって投げる。


 カッ……!


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「はーっはっは! 錬金術で作り出した、高性能の爆薬よ! 空気に触れるだけで国を、大地を滅ぼすほどの一撃よぉ!」


 余波で周囲の大地が完全にえぐられていた。


 そこに巨大隕石が落ちたと錯覚するほどのクレーターができている。


 だが……その中心に、アインがたっていた。


「なぜ今ので生きているんだアインぅううううううう!」


 だっ……! とアインが駆け出す。


 剣を取り出し、素早い動きで、ベータを切りつけた。


 ズバンッ……!


「禁術で強化された俺に、あんなものは効かない」


 体を完全に破壊されたベータは、薄れゆく意識のなかつぶやく。


「……なんて、やつだ。アインは、もはや、人間じゃ……ない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ