143.鑑定士、サクサク街を取り返していく
トロールから街を取り戻すと決意した、数分後。
ニサラキの街にて。
「アイン殿、ありがとう!」
「街を取り戻してくれてありがとう!」
トロールによって殺されていたドワーフたちは、【完全再生】の効果で蘇生した。
すっかり元気になったドワーフたちが、俺の周りを取り囲んでいる。
「俺は街を回ってトロールを倒してくる」
「し、しかし……」
「わしらだけではトロールに対処できないですじゃ……」
「問題ない。メイ。【創樹】を」
『めぇ、だいかつやく! にんきものですなぁ~』
俺の左目が空色に輝く。
地面に手をやり、能力を発動。
ずぉおおおおおおおおおお!
「すごい! 大量の樹が街を囲っていく」
地面から生えた木々が、複雑に絡み合い、街を囲む城壁を作った。
「これならトロールは入ってこれないだろ?」
「す、すごい!」「さすがアイン様だ!」
「万一に備えて分身を残しておく」
能力【偏在】を使い、自分の分身を生み出す。
「アイン殿、なにからなにまで、本当にありがとう!」
ニサラキの町長というドワーフが、俺の手を握って、深々と頭を下げる。
「気にするな。できることしてるだけだから」
「おお! なんと謙虚で素晴らしい御方だろうか!」
「ところで世界樹って知らないか? この国にあるらしいんだが」
「そう言えば【ウフコ】の街に巨大な樹がある、と聞いたことがありますじゃ」
「なるほど、情報感謝する」
俺は飛翔能力を使い、ニサラキの街を出る。
『アインよ。これからどうする?』
「とりあえず各地の街を助けながら、最終的にその【ウフコ】の街を目指す」
ややあって。
『【カイ】の街じゃ。トロールが約100匹ほどいるな』
俺は、上級魔族リザードラからコピーした【爆撃攻撃】を発動。
右手を掲げ、そこから炎の羽が、無数に射出される。
さらにイオアナからコピーした【精密射撃】を使い、上空から爆炎を降らせる。
ズドドドドドドドドドドド…………!
『アインよ。トロールのみを正確に射貫いたようじゃ。建物への被害もゼロ。さすがじゃな』
「よし、次だ」
『【ヤマシナ】の街じゃ。ここは一つ目の巨人【サイクロプス】が占拠しておる。Sランクで、【石化】能力を持つぞ』
眼下には3メートルほどの、一つ目の巨人がうろちょろしている。
「おい! なんだおまえは!?」
サイクロプスの1人が、上空の俺に気付いて言う。
「アイン。訳あってドワーフの味方をしている。抵抗しないなら殺さないでやる」
「はっ! ちびの分際で調子乗るんじゃねえ! おい野郎ども! 石化攻撃だ!」
ぞろぞろとサイクロプスたちが集まり、くわっ、と目を見開く。
目から灰色の光線が射出された。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオ!
「はーっはっは! おれたちの石化光線だ! 当たったら最後! 石になって窒息死よ!」
「そうなのか? 問題ないんだが」
「なにぃいいいいいいいいい!?」
巨人たちが、その一つ目を大きく見開く。
「な、なぜだ!? 石化光線があたったはずなのに!」
『くくく……わが【浄眼】の前に、状態異常は無意味よ!』
精霊マオの能力【浄眼】の光は、状態異常を無効化する能力を持つのだ。
「く、くそ! 撃てぇ! 撃てぇええ!」
サイクロプスたちが、石化光線の雨あられを俺に降らせる。
俺は精霊の剣を取り出し、光線が当たる瞬間【攻撃反射】する。
パリィイイイイイイイイイイン!
「おれたちの光線をはじき返しただと!?」
「ぐわぁああああ!」
はじき返した光線が、サイクロプスたちに命中。
やつらは自分の攻撃で、全員が石化し死亡。
「よし、次だ」
『【ゴーシュー】の街じゃ。【ギガンテス】と呼ばれる氷結能力を持った巨人が占拠しておる』
眼下には10メートルほどの、青い肌をした巨人たちがうろついている。
「なんだ人間! えらそうに上から見下ろすんじゃねえぞ!」
「おい殺せ! 【氷結ブレス】だ!」
ギガンテスたちが胸を反らし、俺めがけてブレスを撃ってくる。
びょぉおおおおおおおおおおおお!
氷の突風が俺に襲いかかる。
「はーはっは! この広範囲攻撃! よけれるものならよけてみろぉ!」
「アリス。敵の位置をロックオンしてくれ。黒姫は結界を張って街を守ってくれ」
俺は上空から、禁術で強化した極大魔法をぶっ放す。
「【煉獄業火球】」
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!
氷雪の風ごと、爆風でギガンテスたちを焼き尽くす。
街が火事にならないように、建物は保護した。
『アインよ。今の一撃で全員が死亡した。魔法をも禁術で強化するとはな。まったく、その発想力にいつも脱帽させられるのじゃ』
「サンキュー。さて、次だ」
その後も俺は、ドワーフ国【カイ・パゴス】の街に住む巨人を、せん滅しまくった。
数時間後。
『アインよ。残るはこの国の王都である【ウフコ】のみじゃ』
「なんだ、あれは?」
最初、俺はそれが【世界樹】だと思った。
だが近づくにつれて、それが世界樹ではなく【巨人】であることに気付いた。
それほどまでに、でかい巨人だった。
『【ダイダラボッチ】じゃ。数百メートルはある超大型の巨人。特級魔族じゃ』
「貴様かぁ? ポーンごときを倒して、調子乗ってるって言うサルは~?」
巨人がぎょろっ、とそのデカすぎる目を俺に向けて言う。
「兵士倒して良いご身分だな。だがおれは違う! おれは【ナイト】! ポーンの上を行く実力の持ち主よ!」
「序列がわからん。懲罰部隊の階級はどうなってるんだ?」
「はっ! 冥途の土産に教えてやろう! 下から順に【ポーン】【ナイト】【ビショップ】【ルーク】【クイーン】そして【キング】」
「なんだ、おまえビリから2番目なのか。大したことないな」
ビキッ……! とダイダラぼっちの額に青筋が立つ。
「死ね! サルがぁああああああ!」
その巨大すぎる腕を、ゆっくりと振り上げて、上空にいる俺めがけて振り下ろす。
俺は禁術で体を強化する。
パシッ……!
「ば、バカなぁ!? この超大型巨人の一撃を、正面からうけとめるだとぉ!?」
俺はダイダラボッチの腕の上に乗り、精霊の剣を取りだす。
禁術強化した剣の一撃を、やつの首めがけて、放つ。
ズバァアアアアアアアアアアアン!
「ば……かな。おれをたおす……なんて……この、バケモノ……め……」
首を失った巨人の死体を、虚無を連続使用して消し飛ばす。
跡形もなく相手は消滅。
ややあって。
トトたちドワーフが、ウコフの街へとやってくる。
「信じられない……ワタシたちが長く苦しめられた巨人たちを、数時間で撃退するなんて……」
ドワーフたちが、俺の前で土下座する。
「ありがとうございます、アイン様!」
「我らがドワーフの救世主!」
「アイン・レーシック様、ばんざーい!」