142.鑑定士、ドワーフを助ける
トロールたちを撃退した数十分後。
俺は情報収集をするべく、【ニサラキ】の街を目指していた。
『アインよ。子供がトロールに襲われておる』
吹雪のなか、小さな子供が、数人のトロールに囲まれていた。
「このぉ! くらえぇ!」
子供は手に銃を持っていた。
パンッ……!
「へ、へへきかねえなぁ」
銃弾を受けても、トロールは平然としている。
「死ね! ちびすけぇ!」
俺は【虚無】によるテレポートで、子供の前に出現。
【結界】を張る。
がぎぃいいいいいいいいいいいいん!
「な、なんだおまえ!?」
「子供いじめて楽しいか、うすのろ」
「う、うるさい!」
トロールが腕を振り上げる。
「クルシュ。【虚無】を」
ボシュッ……!
「うがぁあああああ! 腕がぁあああ!」
トロールが俺から距離を取る。
「警告だ。大人しく引くなら見逃す。俺も弱い物イジメは嫌いだからな」
ビギッ……! とトロールたちの額に青筋が浮く。
「ち、ちびのくせに調子にのるなぁ!」
複数のトロールたちが、いっせいに俺に襲いかかる。
俺は禁術を発動。
ゴォオオオオオオオオオオオオオ!
トロールたちが、俺の体から発せられる、莫大な量のオーラに触れる。
パリィイイイイイイイイイン!
トロールたちは凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
後には俺と、そして子供が残された。
「す、すごい……!」
キラキラとした目を、子供が向けてくる。
「今のなんでありますか! 超強かったのでありますー!」
子供が俺の腕にしゃがみ付いてくる。
ふにっ、と腕に軟らかな感触があった。
よく見るとその子は女の子だった。
幼い見た目の割に、胸は大きい。
「ケガはないか?」
「はいっ! ぶじです! もう元気ピンピンです! はっ! そうだ!」
女の子はバッ……! と頭を下げる。
「たすけてくれて、どうもありがとうございました! ワタシは山小人の【トト】と申します!」
トトは俺の手を握ると、ぶんぶんと上下に振る。
「俺はアインだ」
「アイン様! カッコいいお名前! 強き漢にぴったりの名前ですねー!」
ぶんぶん! とトトが手を振る。
「おまえはドワーフか。こんなとこで何してたんだ?」
「【拠点】の周辺に敵がいないかを索敵していたところ、うかつにもトロールに見つかってしまったのであります」
「拠点? ドワーフのか?」
「はい! この近くに我々の生活拠点があるのです」
「ここの近く……ニサラキの街のことか?」
トトは「いえ……」と浮かない顔で言う。
「ニサラキを含め、この国は現在、トロールたちに占拠されているのであります」
トト曰く、かつてここは山小人が治める国だったそうだ。
トロールもいはしたが、やつらに統率力は無く、街の外をうろつくだけだった。
ところがある日、突如としてトロールが徒党を組んで、ドワーフたちの街に襲撃をかけた。
体格差で劣るドワーフは街から逃げた。
現在は国中のあちこちに拠点を作り、そこで生活しながら、トロールから国を取り返すべく戦っているそうだ。
「急に統率が取れるようになるなんて。何があったんだ?」
「詳しくはわかりません。ただ魔族が背後にいるという噂を聞いたのであります」
トトが暗い表情で悔しそうに言う。
「我々はジリジリと戦力が削られてきています。このままでは全滅もありえます……」
バッ……! とトトが頭を下げる。
「その力を見込んで頼みがあります! お願いですアイン様! 故郷を取り戻すべく、我々に力を貸してください!」
トトからの申し出に、俺は答える。
「わかった、力を貸そう」
「本当でありますか!」
ぱぁ……! とトトが表情を明るくする。
「困っている人は放っておいてはいけないって、俺の大事な人から教わったからな」
『アインよ。成長したな。ユーリが頼まずとも人助けするとは。さすが、英雄の資質を持つ男よ』
俺はトトを見やる。
「まずは占拠されているニサラキを取り戻すぞ」
「わかりました! では、いったんドワーフの拠点に戻り、兵を集めて突撃しましょう!」
「いや、問題ない。すぐ終わる」
俺は飛翔能力を使う。
ウルスラにニサラキの街の位置を鑑定してもらい、そこへ急行。
ほどなくして、目的地上空へと到着。
「に、にんげんだ!」
半壊したニサラキの街には、数多くのトロールたちがいた。
「メイ。力貸してくれ」
『わかりました! めぇ、がんばるー!』
俺の左目が、空色に輝く。
さらに俺は禁術を発動。
左目に痣が浮かび上がる。
メイの能力【創樹】。
それを禁術で強化する。
ゴボッ! と街の地面が盛り上がる。
凄まじい数の、太い木の枝が伸びる。
「う、うごけないー!」
木の枝は街にいたトロールたちを正確に捕縛。
俺は街を見下ろす。
そこには、ドワーフの死体が、あちこちに見えた。
『ひ、どい……みんな、死んでる……ひどい、よぉ……』
「……おまえらが、やったんだな?」
俺はトロールたちに問いかける。
「どうしてドワーフを殺した? 彼らがおまえらに、何をしたって言うんだ?」
「ま、まえからきにいらなかったんだ!」
「や、やつら皆殺しにできて、楽しかった!」
俺は死体となったドワーフたちを見て、大きくと息をつく。
「……私利私欲で人の命を奪った以上、おまえらは敵だ。排除する」
創樹の力を再発動。
「樹が! 締まる!」「く、苦しい! た、たすけ……」
グシャッ……!
大樹が万力の力で、トロールたちを握りつぶす。
『アインよ。街にいたトロールたちはあらかた潰した。あとは上級トロールが10体いる』
「ああ。そいつらも消す」
俺は創樹を再発動。
樹を動かし、捕縛した上級トロールたちを、上空へと持って行く。
俺は精霊の剣を手に取る。
上空につるされた上級トロールたちめがけて、禁術で強化された一撃を、お見舞いする。
ズバァアアアアアアアアアアアアアン!
『今の一撃で上級トロールも死亡。これでニサラキにいたトロールはすべて討伐したぞ』
俺はうなずく。
「ユーリ。力貸してくれ」
『はいっ!』
俺は禁術オーラを、極限まで練り上げる。
左目の痣が、翡翠に、より強く染まる。
【完全再生】を発動。
パァアアアアアアアアアアア!
神々しい翡翠の光が、冷たくなって動かない、ドワーフたちに降り注ぐ。
「う……うう……」
「わ、わしたちは……いったい……」
死体だったドワーフたちが、体を起こしたのだ。
「し、信じられないのであります……」
ちょうど、トトが遅れて、ニサラキへとやってきた。
「と、トロールを瞬殺しただけでなく、死んでいった仲間たちまで、蘇生させるなんて……」
トトはその場に跪いて、俺を見上げる。
「ありがとうございますアイン様! すごい! あなたは我々の神様です!」