表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/244

140.鑑定士、エルフたちの英雄となる




 特級魔族【ポーン】の【アルファ】を討伐してから、数日が経過した。


 エルフ国の王城。

 国王フランシスの執務室にて。


「アイン君。このたびは本当にありがとう」


 フランシスは立ち上がると、深々と頭を下げる。


「白鯨、裏切った族長たち、異形化したコモノグース。そして特級魔族の襲撃。その全て、君がいてくれたおかげでどうにかなった。本当に……ありがとう」


 フランシスは地面に頭が付くのでは、と思うほど頭を下げていた。


「頭を上げてください。俺は、俺にできることをしただけです」


 国王は顔を上げると、深く感じ入ったようにうなずく。


「本当に君は素晴らしい人だ。君がこの国に来てくれたことを、女神様に心から感謝するよ」


「大げさですって」


「大げさなものか。君はこの国が抱えていた問題をいくつも解決してくれた。特に部族が1つにまとまることができたのは、君のおかげだよ」


 コモノグースを討伐した後。


 俺はヤツが、生け贄にした部下たちを蘇生させた。


 悪いのはあの男であり、部下に罪はないからな。


 すると残されたコモノグースの部下たちは、俺に族長になってくれと懇願してきた。


 残り3部族のエルフたちも同様に、俺に彼らのリーダーになってくれと頼まれた。


 俺はそれを固辞し、代わりにフランシスが彼ら全員の族長となることを提案。


 こうしてバラバラだった5つの部族は、1つにまとまった次第。


「ぼくとしては、君がぼくの代わりに国を治めてほしかったんだけどね」


「やめてください。俺は国王の器じゃないです」


「そんなことはないよ。君ほどの優れた人間は他にいない。君はぼくよりずっとうまく、みんなを導いてくれたはずだよ」


「いいえ、俺は結局よそ者です。この国のことを一番に考えているあなたが、エルフのみんなをまとめるべきですよ」


「……そう、かな」


 フランシスは浮かない顔をする。


「ぼくはね、アイン君。今回の件で特に、国王に向かないって痛感したんだ」


 ぎゅっ、とフランシスが悔しそうに唇をかみしめる。


「この国存亡の危機を前に、ぼくは無力だった……ぼくは、国王に向いてないんだ」


 ……ウルスラ。


『……なんじゃ』


 落ち込んでいる弟、励ましてやれ。


 この人には、おまえの言葉が必要だ。


『…………わかった』


 俺の右目が光り、隣にウルスラが転移してくる。


「泣くでない、フランシス」


「……姉さん」


 ウルスラは国王に近づくと、ぎゅっ、と正面からハグをする。


「おぬしは立派に国王をやっておるよ」


「……そんなことないよ。本当なら、ぼくより何倍も強いあなたが国王になるべきだったんだ」


「そんなことはない。この国の民を、誰よりも愛しているおぬしでなければ、王は務まらぬよ」


 ウルスラはよしよし、と弟の頭を撫でる。


「わしは、結局国民よりも女神様からの使命を優先してしまった。だがおぬしは違う。おぬしは何よりも国人の命を大事にした」


「そうですよ。あなたはコモノグースが国民を襲おうとしたとき、身を挺してかばおうとしたじゃないですか」


 ウルスラは弟であるフランシスに微笑みかける。


「おぬしは王として皆の前に立つ資質を、ちゃんと持っているよ。立派になったな、フランシス」


「姉さん……ぐす……うわぁあああん!」


 国王フランシスは、姉の胸で、まるで子供のように泣きじゃくる。


「今まで1人でよく頑張ったね。ごめんね、長い間、1人にして……」


「そんなこといいんだって! 姉さんとまた会えた! それだけでぼくは十分だよ! 姉さん! 姉さぁあああああああん!」


 ふたりのエルフは、抱き合ったまま、うれし涙を流した。


 姉弟が仲直りできたみたいで、本当に良かった。


 ややあって。


 執務室のあった、ソファに、俺たちは座っている。


「アインよ。本当に、ありがとう。おぬしが後押ししてくれたおかげで、弟と和解できた」


 ウルスラが弟とともに、頭を下げる。


「おぬしにはいつも助けられているのに、今回も助けてもらって、本当に申し訳ない」


「何言ってるんだよ。助けられてるのは俺の方じゃないか。おまえから受けている恩に比べれば、これくら恩返しにすらならないよ」


 ウルスラはふふっ、と微笑む。


「さすがじゃアインよ。本当に、謙虚なヤツよ」


「本当にアイン君は素晴らしい人だね、姉さん! これなら姉さんを安心して任せられるよ!」


「任せる?」


「ば、ばかぁ……! ばかこの! へ、変なことを申すなフランシス!」


 ウルスラが顔を真っ赤にして、弟を叱りつける。


「姉さん、アイン君は魅力あふれる素晴らしいひとだ。周りが彼を放っておかないだろう。ぐずぐずしてたら取られちゃうよ?」


「わ、わかっておる……アインは強いだけでなく優しいし、謙虚だ。正直、わしが出会ったなかで最高の男だと思っておる。……しかし、しかしなぁ」


 もにょもにょ、とウルスラが顔を赤らめて、口ごもる。


「なあ、2人ともなんの話してるんだ?」


「アイン君。実は姉さんは」

「わっ、わっ、わーーー!」


 ウルスラが顔を真っ赤にして、弟の口をふさぐ。


「妙なことを口走るなアホ!」


「じゃあちゃんと約束して。ちゃんとアイン君に思いを告げるって」


「……わ、わかったよぉ」


 泣きそうな顔のウルスラ。


「あのな……アインよ。わしはな、実は……」


「実は?」


「…………なんでもない」


「姉さん! このヘタレ!」


 フランシスが犬歯をむく。


「き、きちんと思いは告げる。じゃが、心の準備をさせてくれ……」


「まったく。じゃあ近いうちにちゃんと思いを伝えること。いいね?」


「は、はい……」


 姉弟の微笑ましいやりとりを、俺はそばで見ていた。


 ややあって。

 

「アイン君。実は部族のみんなが、君にお礼を言いたいって、城の外に集まっているらしいんだ。顔を見せてあげてくれないか?」


「いや、いいですってほんと。たいしたことしてませんし」


 それに目立つのも好きじゃないしな。


「さすがアイン君だ。しかし国民はみな君に会いたがっている。姉さん」


 ウルスラが転移魔法を使う。


 一瞬で、俺は建物の外へと転移させられた。


「ここは城の、城壁の上か……?」


「アイン様だ!」「われらが救世主さまがお見えになったぞー!」


 見下ろすと、そこには数多くのエルフたちが集まっていた。


「アイン様ー!」「私たちを救ってくださり、ありがとうー!」


 みんな笑顔で、俺のことを見上げている。

「我らがエルフの英雄、アイン・レーシック様……ばんざーい!」


「「「ばんざーい!」」」


 ワァアアアアアアアアアアアアア!


 俺はエルフたちの喝采をあびながら、気恥ずかしい思いをした。


「さすがじゃ、アインよ。おぬしはどこへ行っても英雄となる。本当にたいしたヤツよ」


 かくして、エルフ国での騒動は終結したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
後100話か ・・・
[一言] 継続することの大変さを知ってる分、執筆活動ほんとにご苦労様です!体調に気をつけて無理のないようにがんばってくださいね
[一言] このままアインが成長したら女神が敵として出てきそうだな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ