14.鑑定士、サクサク魔物を倒して能力コピーする
人狼を撃破した俺は、先へと進む。
迷宮内は、文字通り、迷路になっている。
道が無数に分岐している。
何も知らなければ、数分もたたず、道に迷って途方に暮れていたことだろう。
しかし、俺の視界には、正解の道が、表示されている。
左目・精霊神の義眼は、出口までの最適解すらも鑑定してくれる。
『ほれこの先にモンスターがおるぞ。火蜥蜴じゃ。Sランクで火に耐性がある皮を持っておる。火は使うな。水魔法で倒せ』
右目・賢者の石は、索敵と、敵の情報と、そして倒し方を鑑定くれる。
……これ、マジで敵無しなのでは?
「水……水の魔法……【水刃】」
俺の手から、水の刃が射出される。
ウルスラが魔法を当てるための、最適なルートを鑑定してくれのだ。
『魔法が命中した。即死じゃ』
「ほんと、すげえわ……」
俺は通路を進む。
地面には、巨大な赤いトカゲが倒れていた。
胴体としっぽが分断されていた。
水刃が当たったのだろう。
『火蜥蜴は水に弱い。そしてしっぽの炎が弱点じゃ。水の刃でしっぽを切ればこのように容易く倒せる』
「弱点まで鑑定しててくれたのか。ありがとうな」
『じゃから! ユーリに感謝せよ!』
火蜥蜴を倒して、俺は【耐性・火属性】を手に入れた。
『火の魔法やモンスターの攻撃を軽減する能力じゃな』
能力の鑑定も、ユーリが世界樹の雫でいやしてくれるため、まったく痛みを感じずに行える。
しかも能力の解説は、ウルスラが自動でやってくる。
楽チンだ。
「よし、進むか」
外へ続くルートを、俺は歩いて行く。
『今度は地竜が待ち受けておる。文字通りドラゴン型のSランクモンスターじゃ。羽が退化して空は飛べぬが、足踏みするだけで【地割れ】を起こすことができるみたいじゃぞ』
俺は遠隔で水刃を打つ。
超加速で強化し、走る。
「グボロォオオオオオオオオオオ!!」
地竜はすでに、右前足を大きくあげていた。
【地割れ】攻撃の動作に入っているらしい。
させるか!
俺は素早く相手の懐に入る。
地竜のぶっとい前足が、地面に当たる前に、受け止める。
「死熊からコピーした【金剛力】だ! いくらてめえが図体デカくても関係ねえ!」
そして同時に、人狼からコピーした【麻痺毒】を発動させる。
触れた相手を麻痺させる、強力な毒を相手にあびせる。
「グボ、グボォオオオオオオオオオ……!」
麻痺毒は、Sランクモンスターであっても、容易く麻痺させるようだ。
「【斬鉄】! くらえぇえええ!!」
俺は右手に精霊の剣を出現させ、斬鉄で強化した刃で、地竜に斬りかかる。
ザシュッ……!
地竜の前足が取れる。
俺は風裂刃を無詠唱で使用。
ビョォオオオオオオオオオオオ!
風魔法によって、地竜は木の葉のよう吹き飛ぶ。
地竜がダンジョンの壁に、びたーん! とぶつかる。
俺は超加速した状態で、斬鉄のきいた刃で、地竜の心臓をひとつきする。
『倒したみたいじゃぞ』
『すごい、です! アイン、さん、すごい!』
ふたりの声が、脳内からするのも、もう慣れたな。
『地竜からは【地割れ】を鑑定したぞ。拳や足で地面を強く叩くことで、地割れを起こす。それと【耐性・水属性】を持っていた。水属性魔法とモンスターの攻撃に耐性を得たぞ』
なるほど、地竜は水の攻撃が効きにくいのか。
水刃がきかなかったのはそういうことか。
「次行くか」
ダンジョンを進む。
『風蟷螂じゃ。Sランクの、人間サイズのカマキリ型モンスター。【蟷螂流し】という、相手の攻撃を受け流す能力があるそうじゃ。直接攻撃でなく魔法で攻めよ。火に弱いそうじゃ』
風蟷螂は、遠隔からひたすら火球をぶち込んで倒した。
能力【蟷螂流し】、ゲット。
ついでに持っていた【耐性・風属性】ゲット。
「次」
『毒大蛇じゃ。巨大な蛇でもちろんSランク。あらゆる状態異常に対する耐性を持ち、触れたものをドロドロに溶かす【溶解毒】を使うそうじゃ』
毒大蛇は、地割れを使ってまず穴に落とし、上からひたすら水刃をぶっぱなしてズタズタにした。
【耐性・全状態異常】、ゲット。
【溶解毒】、ゲット。
「ふぅー……」
毒大蛇を倒した俺は、一息つくことにした。
洞窟内にあった大岩に腰掛ける。
「お疲れ、さま、です♡ アイン、さん♡」
すかさずユーリが顕現し、俺の横にちょこんと座る。
いつの間に取り出したコップを、俺に手渡す。
「サンキュー」
「♡」
ユーリは、俺がお礼を言うたびに、うれしそうに笑う。
コップには世界樹の雫が入っていた。
飲めば体力が全快する。
「しっかしほんと……ユーリ様々だ」
ユーリとで会わなければ、ここでとっくにくたばっていた。
巨大鼠しかでないはずのダンジョン。
ここを訪れるのは、低ランクの冒険者だ。
俺もそうだが、そんなレベルの低いやつが、Sランクの強力なモンスターたちに太刀打ちできるわけがない。
奈落に落ちたら、死ぬ定めが待っているだけだった。
俺は、運が良かった。
たまたま、ユーリに気に入られただけ。
ここに落ちた奴らは俺の他にもいると聞いた。
だがおそらく、誰も地上へ帰れなかっただろう。
ユーリの、そしてウルスラの助力がなければ、ここを抜けることはできないからな。
「ありがとな、ユーリ」
俺はなんとはなしに、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
ボッ……! とユーリは顔を真っ赤にすると、俺の目の中に戻っていった。
「精霊って……実体あるんだな」
髪の毛サラッサラだった。
『おい小僧……』
地獄の底からわきあがってくるような、ウルスラの、ドスのきいた声がした。
『ユーリを傷物にしたら殺すからな』
「わかってるって。しないってば……」
『しょんぼり……』
『おいユーリを落ち込ませるな!』
「ああもうどうしろっていうんだよ! 理不尽すぎるだろ!」
とまあ、こんなふうに心に余裕を持ちながらも、俺はダンジョンをサクサク進んでいったわけだ。
そして……。
「……やばそうな扉。ここ、通らないとダメなのか?」
行き止まりだと思ったそこには、見上げるほどの、巨大な石の扉があった。
『ああ。ここを抜ければ地上までもう少しだ。そして……この奥には、今までの比じゃない、強いモンスターが待ち構えておる』
……俺は、難敵に、挑まないとイケナイみたいだった。




