139.鑑定士、懲罰部隊の【ポーン】と戦う
俺が異形化したコモノグースを倒し、その後2体の上級魔族を討伐した、その直後。
俺の前に開いたゲートから、フードをかぶった、小柄な人物が現れた。
『アインよ。気をつけよ。上級魔族以上の力を、あのフード男から感じる』
「……ごきげんよう、アイン」
フード男が、ペコッと頭を下げる。
「わたしは【懲罰部隊】、階級【ポーン】。【アルファ】と申します」
「ちょうばつぶたい? なんだそれは……?」
「……【あの御方】直属の戦闘部隊。いわば、親衛隊のようなものです」
おそらくあのダークエルフのことを言っているのだろう。
「何しに来た?」
「……ザコ相手に連勝し、調子に乗っているサルを倒しに参りました」
アルファもまた、魔族なのだろう。
魔族特有の、人間を見下す感じがした。
「おまえも上級魔族なのか?」
「……あんなのと一緒にしないでもらいたい。わたしたちは上級を越える魔族……【特級魔族】ですよ?」
どうやら上級魔族は、懲罰部隊からしたら、格下になるようだ。
「……さぁ始めましょう。殺戮という名のショーを!」
バッ……! とアルファが両手を広げる。
袖の下から、無数のナイフが、俺めがけて射出される。
『アインよ。あのナイフ、どうやら実体がない。じゃが体にぶつかる瞬間実体化するようじゃ』
俺は神眼で攻撃を見極め、回避する。
「……1本避けたくらいで図に載るなよサルが!」
ババッ……! とアルファが両手を広げる。
無数のナイフが宙に浮く。
ナイフの雨が、俺に向かって降り注ぐ。
ずどどどどどどどどどどど!
「……ははっ! たいしたことありませんでしたねぇ! まったく他の魔族どもは、この程度のザコに負けるなんて、恥ずかしくなかったのでしょうか!」
「まったくだな」
「なっ……!? あ、アイン!? なぜ生きてる!? 防御不可能のナイフの雨を! いったいどうやって防いだ!?」
「防いでねえよ。【虚無】で消し飛ばした」
虚無の邪眼は、見えているものならすべて消し飛ばすことができる。
たとえ実体がなかろうと、見える物は消せるのだ。
「……な、ナイフを防いだくらいでどうした!? 戦闘はまだ始まったばかりだぞ!」
アルファは、今度は懐から、1本の剣を取り出す。
『アインよ。あれもまた実体のない刃じゃ。剣で弾くことはできぬぞ』
そして、アルファはフッ……とその場から消えた。
『どうやらやつの正体は幽霊のようじゃ。姿を消し背後から突きを食らわせるようじゃ』
ズブッ……!
「……ははっ! 少し驚いたが所詮はサル! 上級を越える我ら【特級魔族】には適わないようですねぇ!」
「そんなことねえよ」
「なっ!? な、なぜ!? 剣は刺さっているはず!」
「刺さってるよ。禁術オーラの鎧にな」
俺からあふれ出る莫大な量の禁術オーラが、アルファの背後からの一撃を防いでいた。
「……ばかな!? 禁術を使用するには、凄まじい集中力と、一定時間の隙ができるはず! 気配を消して現れるまでのこの一瞬で、どうやって!?」
「おまえら魔族って、ホントどいつもこいつも学習しねえな」
俺は禁術オーラを高める。
パリィイイイイイイイイイイイン!
「……ぐわぁあああああああああ!」
噴出した禁術オーラによって、アルファがゴミのように吹っ飛ぶ。
「俺はおまえら魔族と、何回戦ったと思ってる? もう実践のなかで、禁術をスムーズに発動できるようになってるんだよ」
「……く、くそぉ! サルの分際で! 生意気な!」
アルファがまた姿を消す。
『……アイン君。4時の方向』
「わかった。サンキュー、アリス」
俺はヤツが出現するタイミングに合わせて、アルファの懐に潜る。
「……バカめ! 実体のないわたしを、傷つけられる物ならやってみろ!」
「リクエスト通りにしてやるよ」
俺は禁術で体を強化し、精霊の剣を、アルファめがけて一閃させる。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「……うぎゃぁあああああああああ!」
アルファの体が、斜めに切断させる。
「……バカなバカなぁ! このわたしは幽霊だぞ!? どうして攻撃が当たるんだ!?」
「禁術によって強化された一撃は次元も、天使も、そして絶対の防御を誇る能力すらも切り裂いた。つまり禁術で強化すれば、万物を切り裂けるわけだ」
『なるほど。さすがじゃアイン』
『アイン、さん! 頭、良いー!』
俺はアルファを見やる。
「……くっ! 体が再生しない! この特級魔族である、このわたしが! サルごときの攻撃を受けるなど! あってならない、ならないのですよぉ!」
ずぉ……! と莫大な量の闘気が、アルファの体から噴出する。
『やつは悪魔を召喚するつもりじゃな』
「悪魔?」
『黒魔術系の希少職が召喚できる使役モンスターじゃ。天使と対を成す強さを持っている』
「……来たれ【オリアス】! ソロモン72柱の【侯爵】よ!」
アルファの足元から、漆黒のライオンが出現する。
『アインよ。あの1体が天使並の強さを持っているぞ』
「……ゆけオリアス! あの生意気なサルをかみ殺してあげなさい!」
だっ……! と悪魔が俺めがけて駆けてくる。
「……散々調子乗ってくれたなこのクソ猿がぁ! 我が最高の戦力である使役悪魔にかみ殺されて死ぬが良いーーーーー!」
ライオン悪魔が、俺の頭を丸かじりにしようとする。
パシッ……!
「……ば、バカな嘘だこれは夢だぁ! どうして悪魔の一撃を受け止められるんだぁあああああああ!?」
「おまえ、アホだろ。実体あるんだから受け止められるから」
「……いやおかしいぞ! 第3階梯の天使と同等のパワーを持つオリアスの攻撃を、受け止められるはずがないんだ!!」
「じゃあ第3階梯の天使が大したことないってことだろ」
「……第3階梯天使が、大したことない……だと?」
驚愕するアルファ。
俺はぐぐっ、と両腕に力を込める。
開きっぱなしのライオンのアゴを、腕力で、上下に引き裂いた。
「こ、侯爵級悪魔を素手で倒すなんて……ば、バケモノめ……」
「最大戦力って割に、たいしたことなかったな。それで、これでもう終わりか?」
「くっ……! か、かくなる上は!」
『姿を消し逃亡を図るつもりじゃな』
フッ……! とアルファがその場から消える。
「マオ。敵の位置を」
俺は浄眼を発動。
隠れていたアルファの姿が現れる。
精霊の剣を出現させ、禁術強化した強烈な一撃を、ヤツにお見舞いする。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「……キング、さま。アインの強さは、桁外れです。人間では……ない……。注意、なされよ……」
『アルファは今ので消滅したぞ。特級を倒すとは。見事じゃ、アインよ』