136.鑑定士、エルフの軍隊を撃退する
族長たちを捕縛した、数日後。
俺たちの泊まっている、【ギ・ヴ】の街郊外にて。
武装したエルフの軍隊が攻めてきていた。
『コモノグースが自分の部族の兵を動かしたのだろう』
「やつは今、牢屋のなかだぞ？」
『使い魔を使ったのじゃろう。あれだ』
エルフ軍の上空に、１羽の小鳥が羽ばたいていた。
「よくも私をコケにしてくれたなぁ、サルがぁ！」
小鳥から族長コモノグースの声がする。
「部下を率いて何するつもりだよ？」
「もちろん！ 貴様を殺すためよぉ！」
『コモノグースは前々から攻め入るための準備してたらしい。大天使が１０体。さらに奥の手も隠してるようじゃ』
エルフたちの上空に、天使の姿が見えた。
「この間は足を掬われたが、今度は違う！ 上級エルフの恐ろしさ、下等生物である貴様に教えてやろう！」
杖を持ったエルフの魔法使いたちが、一列に並んでいる。
『アインよ。極大魔法を詠唱破棄して撃ってくるぞ』
「「「【煉獄業火球】……！」」」
ズドドドドドドドドドドッ……！！！
「極大魔法を使った高火力の連続攻撃！ さらに！ ゆけー！ 天使たちよー！ アインを叩き潰せぇ！」
ブゥンッ！
パリィイイイイイイイイイイン！
「な、なにぃいいいいいいいい！？」
大天使たちが、禁術オーラの鎧に弾かれる。
「バカなぁ！ 極大魔法を至近距離で、しかもあの連射を受けて無傷だとぉお！？」
「今更、極大魔法ぐらいじゃ、傷つかねえよ」
「くっ！ 何をぼさっとしてるぅ！ 撃て！ 撃ちまくれぇ！」
コモノグースに命じられ、魔法部隊が極大魔法を打つ。
ドガァアアアアアアアアアアアアン！
びょぉおおおおおおおおおおおおお！
ズガガガガガガガガガガガガガガッ！
極大魔法の一斉掃射を受けても、しかし俺は無傷だった。
「ヤツは本当に人間か！？ おのれバケモノめぇえええ！」
血走った目のコモノグースが叫ぶ。
「だがしかぁし！ 大天使たちよぉ！ 神器の使用を許可する！」
大天使たちの手に、魔法陣が出現。
その手には、光の槍が握られていた。
『神器とは天使の使う武器のようじゃ。白鯨すら容易く切り伏せることができる威力を持つぞ』
「殺せぇえええええ！ ヤツを殺せ大天使どもぉおおおお！」
神器を手にした大天使たちが、俺目がけて襲いかかる。
俺は禁術で動体視力を強化。
パシッ……！
バキィイイイイイイイイイン！
「ば、ばかな……神器を受け止め、そのまま砕いただと……？」
俺は天使たちの神器をすべて受け止め、一個ずつぶっ壊していった。
「おい小物野郎。おまえ、天使や神器なんてものがあるなら、白鯨倒せるじゃねえかよ」
俺はコモノグースをにらみ付ける。
「どうして白鯨を倒さなかった。そのせいで、国王の姉は討ち死にしたんだぞ？」
「ハッ！ 白鯨なんぞ獣を狩るのに、なぜ神聖なる我らの秘術を使わねばならぬ！ 獣狩りなぞ、あのフランシスのガキにやらせておけばよい！」
……つまりこいつは、白鯨を倒す力を持っていたにもかかわらず、ワザと使わなかったのか。
「……ゲス野郎が」
殺意を込めて、俺はエルフたちを見やる。
エルフたちはたじろいで、一歩下がる。
「ひるむなぁ！ 極大魔法を打て！ 撃ち殺せ！」
「し、しかし族長……」「やつには魔法が通じません……」「撤退すべきです……」
どうやら部下たちは、大天使１０体を俺が倒したことで、完全にびびってしまっているらしい。
「ちっ！ 仕方ない……こなったら秘中の秘を使うしかない！ 【生け贄召喚】！」
その瞬間……。
ドサドサドサドサ……！
やつの部下たちが、青い顔をして、いっせいに倒れたのだ。
「がぁあああっ！」「ぐぇえええ……！」「こ、コモノグースさま……なに……を……？」
部下たちの顔色がみるみる悪くなっていく。
「喜べ！ 貴様らは尊敬する上司である私のための、生け贄となれるのだぁ！」
『どうやら仲間の命を生け贄に捧げ、強力な天使を召喚するみたいじゃ』
エルフの軍隊が壊滅し、その魂の光が魔法陣を形取る。
魔法陣のなかからからゆっくりと、巨大な天使が降りてきた。
『第２階梯【権天使】じゃ。天使は階梯が上へ行くほど強力な術を使う。注意せよ』
権天使は、冠と錫杖を持った天使だ。
凄まじいまでのプレッシャーを感じる。
『天使術【神ノ雷】を使うつもりじゃ。上空から凄まじい威力の雷を落とす。大地を貫くほどの力を持つぞ』
天使が錫杖を、俺に向ける。
突如空が暗くなる。
カッ……！
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン！
「ひゃーーーーーーーーひゃっひゃーーーーーーー！ 見たかサルめぇえええええええええ！ 所詮サルは天の力の前には無力なんだよぉおおおおおおおおおお！」
「まあ、問題ないな」
「はぁあああああああ！？ 生きてるだとぉおおおおおおおお！？」
コモノグースが目玉が飛び出るほど大きく目をむく。
「ば、バカなバカなバカなぁ！ 第２階梯の天使の一撃だぞぉ！？ 街１つ消し飛ばすほどの威力の雷を受けて、どうして無事なんだよぉおおおおおおおおお！？」
「この程度で、禁術で強化した俺の体に、傷つけられると思ってるのか？」
俺はダメージはおろか、着ている服にシミ一つ付いていなかった。
「く、くそおぉ！ おい権天使ぃ！ 撃て撃てぇ！ 撃ちまくれぇえええええ！」
ズガァアアアアアアアン！
ズガァアアアアアアアアン！
ズガガァアアアアアアアアアアアアアアン！
上空から降り注ぐ雷をいくら受けても、俺はいっさいダメージが喰らわなかった。
ややあって。
権天使の錫杖が、煙を出しながら消滅すると、雷はやんだ。
「ありえない……天使のあの攻撃を受けて無傷なんて……！ も、もはやヤツは人間じゃない……！」
コモノグースが喉を震わせていう。
「もう終わりか？ じゃあ……次はこっちのターンな？」
ざっ、と一歩足を前に出す。
「ひぃいいい！ こ、殺せぇええええ！ 権天使！ 突っ込めぇえええええ！」
ぐぉっ！ と権天使が腕を振り上げ、俺目がけて拳を繰り出す。
パリィイイイイイイイイイイイン！
禁術オーラの鎧が、権天使のパンチを弾く。
俺は精霊の剣を取り出し、禁術で体を強化した一撃を、天使の胴に打ち込む。
ズバアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン！
「そんなばかなぁ……第２階梯の天使だぞぉ……？ それを、一撃で真っ二つにするなんてぇ……」
へたり込むコモノグース。
『さすがじゃ、アインよ。天使すらも、もはやおぬしの敵ではないとはな。……それと、わしのために怒ってくれて、ありがとう』
