135.鑑定士、内通者を捕まえに行く
族長コモノグースを捕縛した数十分後。
俺は、エルフ国内にある、別の街へとやってきていた。
『おかー、さん。アイン、さんは、何をしようと、してるの?』
『【ダ・ヤタマ】の族長コモノグースは、魔族と通じていた。フランシス国王以外の族長は、魔族サイドのエルフである危険性が高いのじゃ』
「だから残りの族長のもとへいって確認し、黒の場合は捕縛するってこと」
俺はまず、【ジ・ミタ】の街へとやってきた。
「そこのおまえ! 止まれ!」
街の入り口には、槍を持ったエルフの青年が立っていた。
「ここはエルフ以外の立ち入りが禁じられている!」
「どいてくれ。国王からの許可はもらっている。おまえらのところの族長が魔族に通じてる可能性があるんだ」
「なっ、なんだと!? わ、わかった……」
俺は門番に案内してもらい、【ジ・ミタ】の族長の元へと連れて行ってもらった。
族長の館にて。
「なんだ貴様は!」
がちゃがちゃ、と族長の周りを、エルフの騎士たちが囲む。
「あんた、魔族と内通してるんだろ?」
「し、知らぬ!」
『……アイン君。族長は嘘ついてるわ。内通者よ』
コモノグースもそうだったのだが、エルフたちは防御魔法によって【読心術】対策をしている。
そこで禁術で千里眼を強化することで、族長の心を読んだのである。
「く、クソ! ものども、アインを殺せ!」
ガチャガチャガチャ……!
エルフの騎士に偽装していた、魔族たちが武装を解除して降伏する。
「何をしているんだ貴様らぁ!」
「バカが! アインに勝てるわけないんだよ!」
「こいつの強さは異常なんだ! 挑むことは死を意味するんだよ!」
「くっ、くそぉ……」
がくっ、と族長が膝を折る。
【ジ・ミタ】の族長、確保。
『次は【ミ・ノ】じゃな』
別の街へと、飛翔能力で向かう。
『アインよ。貫通能力を付与した魔法の矢が雨のごとく降ってくるぞ』
「わかった。ピナ、結界を」
【ミ・ノ】の街から、俺めがけて魔法矢が降ってくる。
ガギィイイイイイイイイイイイン!
その全てが結界によって阻まれる。
「ばかな! 防御貫通の矢だぞ!?」
眼下でエルフの射手たちが、驚愕の表情を浮かべている。
「禁術で強化されてるんだよ」
『お兄さん、禁術オーラの鎧どうして使わなかったの?』
「それやると矢を弾いて、下のひとたちをケガさせちゃうだろ? 今回の目的は捕縛だから」
『そっか! さっすがお兄さん! 優しい!』
俺は【ミ・ノ】の街へと降り立つ。
凄まじい数の、弓矢を構えたエルフの弓使いたちがいた。
ガチャガチャガチャ……!
エルフたちは弓を落として、俺の前で土下座する。
「すみませんでした!」
「族長に命令されたんです!」
俺は彼らを放置し、族長の元へと向かう。
だがしかし……。
「もぬけの殻だな」
『くくくっ! アインよ……我が浄眼の隠されし能力を解放してやろう……』
左目が淡く輝く。
すると、青い光が、族長の館から外へと向かって伸びていた。
『わが目は生体反応を、正確に言えば生命の持つ【闘気】を見ているのだ。つまりオーラの残滓を追跡していけば!』
「辿っていった先にやつがいるんだな。アリス、千里眼で場所の特定を」
千里眼で、族長のオーラの後を追跡し、位置を把握。
そこまで【虚無】によるテレポートで一瞬で飛ぶ。
相手との距離が見えているのなら、虚無によってその距離を消すことで、一瞬で転移できるのだ。
「すみませんでしたぁあああああ! 命だけは勘弁してさいぃいいいいいい!」
『さすがじゃな、アインよ。精霊たちの能力を、ここまで自在に使うとはな』
「サンキュー。さて、次だ」
最後は【ガ・キオ】の街。
「ここまで全て黒だとすると、どうせここも魔族に内通してるんだろうな……」
街へ到着。
「だ、誰だ貴様は!」
門番の兵士たちが、俺に剣を向ける。
「俺はアイン・レーシック。フランシス王の命令で族長に会いに来た」
「そ、そうか……」
いやにあっさりと、門番たちが剣を下ろす。
「しかし、人間よ。族長は……族長は……」
ぐすぐす……と門番たちが涙を流す。
「何があった?」
「……コモノグースたちによって、我らの族長は、殺害されたのだ」
門番たちが悲嘆に暮れた表情となる。
「大丈夫だ、問題ない」
「え……? ど、どういう……?」
「族長の埋葬はもうしたのか?」
「い、いや……今は葬儀の最中だ」
「そうか。なら族長の元へ連れて行ってくれ」
俺は【ガ・キオ】族長の家へと向かう。
ちょうど葬式の最中だった。
棺桶に入っている族長の元へと、やってくる。
「い、いったい何をするんだ……?」
参列者のひとりが、俺に恐る恐る尋ねる。
「今から蘇生を行う」
「ば、バカなことを言うな!」
「蘇生魔術なんてこの世には存在しない!」
いきり立つエルフたちに、俺は説明する。
「俺には【完全再生】がある」
それを聞いたエルフたちが、「「「「おお!」」」と感嘆の声を上げる。
「あの、失われし伝説の能力を持っているのか!」
「それなら希望があるぞ!」
エルフたちの表情が明るくなる。
「いや、待つのじゃ!」
年老いたエルフが、俺の前へとやってくる。
「アイン殿。たしかに【完全再生】は、死者すらも復活させる。しかし、それは死の直後でしか適用されぬのじゃ」
「族長が死んだのは?」
「数日前じゃ。……もう、手遅れじゃよ」
それを聞いた参列者たちが、「ああ……」「そんな……」「終わった……」と気落ちする。
「問題ない」
俺は族長の遺体に、手を掲げる。
「ユーリ。力を貸してくれ」
『は、い。アイン、さん!』
俺は禁術を使用。
俺の左目に、【痣】が浮かび上がる。
「おおっ! そ、その痣は! かつて存在した魔王ミクトランが持っていた【聖痕】と同じじゃ!」
老エルフが驚愕の表情を浮かべる。
俺の痣が、翡翠の色に染まる。
左目が、より強く輝いた。
すると……。
「げほっ、ゴホッ……! わ、私は……いったい……?」
「「「族長……!!」」」
【ガ・キオ】の族長が、目を覚ましたのだ。
葬式の参列者たちが、泣きながら族長に駆け寄る。
「し、信じられぬ……! どうして……?」
呆然と立ち尽くす老エルフに、俺は説明する。
「禁術によって【完全再生】能力を強化したんだ。死後数日の死体も、蘇生できるようになった」
「なんと……奇跡だ……。おぬしは、神か……?」
ずしゃっ、と老エルフが膝をつき、涙を流しながら俺を見上げる。
「そんなたいそうなもんじゃない。俺は、1人じゃ何もできない、ただの人間だよ」
その場にいたエルフたち全員が、俺の前で土下座する。
「アイン殿、部族を代表し、あなたに最上級の感謝を」
「「「ありがとうございました、アイン様!」」」