134.鑑定士、魔族の偽装を見破る
第6精霊マオを仲間にした、数時間後。
俺はエルフ国【ギ・ヴ】の街、王城へと帰還した。
謁見の間にて。
国王フランシスに、帰還の報告をしに行くと、見覚えのないエルフがいた。
「おや、フランシス。件の雄ザルが帰ってきたようだねぇ」
「【コモノグース】。ぼくの大事な友人を愚弄するな」
長身の上級エルフ・コモノグースは、俺を小馬鹿にしたように言う。
長い金髪。
顔立ちは整っている。
「人間なんぞ我ら上級エルフから見ればサルも同然さ。君も本当はそう思っているんじゃないかい、フランシス」
「……いくら族長とは言え、不敬だぞコモノグース」
「そう怒るなってフランシス。不敬罪で引っ捕らえるかい? 同じ族長で、しかも君よりも長く生きているこの私を?」
どうやらコモノグースは、フランシス同様族長のひとりらしい。
たしかエルフ国は、5つの部族が治めていると聞いた。
この金髪男は、そのなかの一つを治める族長なのだろう。
「フランシス国王、何かあったんですか?」
「私が答えよう、下等生物くん」
コモノグースは俺の前までやってくる。
身長はこいつの方が上なので、自然と見下される形になる。
「君には、【ギ・ヴ】を除く4つの部族から、国家反逆罪の疑いがかけられてるんだよ」
「は? そんなことしてませんけど?」
「それはどうかなぁ? 聞くところによると、君は白鯨を単身で倒すほど、バケモノじみた力を持っているそうじゃないか?」
コモノグースが俺に近づいてくる。
「さらに? 君がこの国に来てから、魔族が近寄ってきたって? これはもう、貴様が魔族と同族ってことじゃあないのかぁい?」
「ふざけるな! 彼がいなかったら魔族に国が滅ぼされていたんだよ!」
フランシスが怒りをあらわにして、コモノグースに近づく。
「しかしぃ? 彼がいなかったら、魔族は来なかったんだよ? 今まで魔族の襲撃なぞほとんどなかった我が国が? このサルが来るようになってから訪れた。これは偶然かなぁ?」
コモノグースは国王の髪を掴んで、乱暴に放り投げる。
俺はフランシスを受け止める。
「魔族はアイン君を狙っていた! 仲間なわけがないだろ!」
「仲間割れという可能性をどうして否定でき無いかねぇ、お子ちゃま族長くん?」
ぎり……っとフランシスが悔しそうに歯がみする。
確かに同じ上級エルフ同士でも、コモノグースの方が背が高く成熟している。
「私たちのなかで一番の年下のぶんざいで、偉そうに組織のトップを気取るなガキが……」
コモノグースが国王をにらみ付けてくる。
「他の3部族長たちも、アインを捕らえよという意見でそろっている。4対1だ。よってアイン・レーシック、貴様を捕縛させてもらおう」
パチンッ!
ぞろぞろ……。
コモノグースの背後から、鎧を着たエルフたちがやってくる。
「やめろ! 彼はぼくの大切な人だ!」
「おやおやフランシス陛下もぉ? もしや魔族と通じているのかなぁ? これは君も捕まえないといけないかもねぇ?」
ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべるコモノグース。
と、そのときだった。
『くくく、我が眷属よ。よく聞くがよい』
脳内から、精霊マオの声がした。
『奴の部下、姿を偽装しているぞ?』
俺はマオを仲間にして手に入れた【浄眼】を発動させる。
青い光が、部下たちに降り注ぐ。
すると、コモノグースの部下の姿が、エルフから、魔族へと変化した。
「なっ!? バカな!? 最高峰の偽装魔術だぞ!?」
コモノグースが驚愕の表情を浮かべる。
「魔族を連れておいて、よく俺に魔族の内通者って言えたもんだな」
「く、くそ! いけ! 殺せぇ!」
コモノグースの命令に、しかし魔族たちは脱兎のごとく逃げ出す。
「ふざけるな! おれたちは逃げるぞ!」
「あんたの偽装は完璧だって言うから力貸したのに!」
禁術で体を強化。
俺は精霊の剣を出し、高速で剣を振る。
ヒュッ……!
ボトボトボトボトッ!
「ひ、ひぎぃいい!」
コモノグースはその場で尻餅をつく。
「あ、あぁああの数の魔族を一息で! 全滅だとぉ!?」
「今更魔族なんて、俺の敵じゃないんだよ」
俺はコモノグースのもとへ近づく。
「ひぃいいいいい! アイン様! 申し訳ございませんでしたぁあああああ!」
金髪の美青年が、必死の表情で土下座をする。
「私は魔族たちに脅され仕方なく! 仕方なくエルフを裏切ったのです! 私に悪気はなかったのですぅううううううう!」
ぐりぐりとコモノグースが頭を地面につけ、土下座する。
「仕方なくだと! ふざけるな! 自分の意思でアイン君を殺そうとしたんだろう!?」
フランシスが憤怒の表情で、コモノグースを蹴飛ばそうとする。
「国王、落ち着いてくれ」
「しかし……!」
「冷静になってくれ。まだ魔族との内通者である裏が取れたわけではない以上、手を出すのは問題になるだろ?」
「……わかった。しかし、さすがだなアイン君。冷静な判断だ」
そのときだった。
にやり、とコモノグースが邪悪に笑う。
「バカめ!」「はい、内通者確定」
スパンッ……!
「うぎゃぁああああ! 腕がぁあああああああああああ!」
切断されたコモノグースの腕には、杖が握られていた。
「おまえが敵意を向けた瞬間、千里眼で次の動作が見えた」
「くそくそくそおぉ! こ、こうなったら最後の手段だぁああああ!」
コモノグースは、無事な方の手で、何やら複雑な印を組む。
天上に魔法陣が出現。
『アインよ。こやつ、【天使】を召喚するみたいだ』
「天使?」
『文字通り天の使いじゃ。聖職者系の希少職が呼び出せる、非常に強力な使役モンスターじゃ』
天上から、白い翼を生やした、巨大な何かが降りてきた。
人間、のようでいて、人間ではない。
銅像に近いかもしれない。
「第一階梯【大天使】! はーっはっは! これを出したが最後! チリも残さず貴様は死ぬぅ!」
大天使が俺を見下ろす。
その手に巨大な錫杖を持っていた。
「我が最強の力を前に怯え! 震えるがいいサルがぁあああああ!」
大天使はその巨大な錫杖を、俺目がけて振り下ろす。
パリィイイイイイイイイイイイン!
「なぁ!? なんだとぉおおお!?」
禁術オーラの鎧に弾かれ、錫杖が吹っ飛んでいく。
「なんだ、期待させといて、こんなもんか」
俺は禁術で強化した斬撃を、大天使めがけてお見舞いする。
「し、しかし大天使の防御力を舐めてもらっては困る! なにせオリハルコンを越える強度を」
ズバァアアアアアアアアアアアアアン!
大天使は、俺の一撃を受けて跡形もなく消え去った。
『どうやら禁術は天使にも有効なようじゃな。さすがじゃアイン』
「ば、ばかなぁ~……わが部族に伝わる、秘伝が、一撃でやられるだとぉ……」
へたり込むコモノグース。
「たいしたこと無いな、おまえんとこの秘伝」