131.鑑定士、第6精霊に会いに海底へ向かう
イオアナを撃破した、半月後。
俺はエルフ国の沖合までやってきていた。
海上にて。
「この海の下に、隠しダンジョンがあるんだな」
『そうじゃ。アリスとふたり、エルフ国の所有する図書館で調べた』
『……水深200メートルの深海に隠しダンジョンがあるの』
飛翔能力で、海面に近づく。
「だいぶ潜らないといけないのか」
『……アイン君。海は潜れば潜るほど水圧というものがかかるわ。生身で潜るのは自殺行為よ。それに酸素もそこまで持たないだろうし』
「忠告ありがとなアリス。だが、問題ない」
『そうか。おぬしは獣人国の聖域にて、水の精霊から【水中呼吸】と【高速水中移動】の能力をコピーしておったな』
「ああ。それにイオアナから【環境適応】ってどんな状況下にも適応できる能力もある。これなら潜っても平気だろ?」
『……その通りよ。さすがね、アイン君』
「どうも。よし、いくか」
俺は飛翔能力をとき、水のなかへと飛び込む。
ウンディーネの能力があるため、俺は海のなかでも呼吸でき、そして自在に動ける。
『隠しダンジョンまでのルートを案内するぞ』
ウルスラのガイドに従って、俺は海底へと降りていく。
海底を潜っていくと、水棲のモンスターたちに遭遇した。
『アインよ。魚人の群れじゃ』
いちいち相手するの、面倒だな。
俺は禁術を発動させる。
ーーギャァアアアアアアアアアア!
俺から出る圧倒的な闘気量にびびり、魚人たちが逃げていった。
「次だ」
しばらく降りていくと、辺りが暗くなっていく。
『一角竜じゃ。古竜の一種。剣のごとき長く鋭い角を持ち、水中を凄まじいスピードで泳ぐ』
『なっ、なんだ貴様! この化けものめ!』
一角竜が俺の前に姿を現して叫ぶ。
いや、バケモノじゃないんだが。
しかし水のなかなのに、どうして一角竜の言ってることがわかるんだ。
『【水棲言語】という水のなかで会話を可能にする能力があるみたいじゃな。コピーしたぞ』
さすがウルスラ、仕事が早い。
俺は一角竜に対話を試みる。
「俺はこの下に用事があるだけだ。害意はない。大人しく通してくれ」
『ふ、ふざけたことを抜かすな! ここを通したら【青嵐】様に殺される!』
「せいらん、って誰だよ?」
『この海の支配者たる、【青き竜】のことよ!』
青い竜、ねぇ……。
『というわけで貴様を通すわけにはいかぬ! ぬぉりゃぁああああああ!』
一角竜が、俺目がけて突進してくる。
俺は動かない。
パリィイイイイイイイイイイイイン!
『うぎゃぁあああああああ!』
禁術オーラの鎧にはじかれ、一角竜がすっ飛んでいく。
『ま、まだまだぁぁあああああ!』
一角竜が凄まじいスピードで、こちらに向かってくる。
俺は禁術で強化した【虚無の邪眼】で、一角竜を見やる。
ボシュッ……!
敵は跡形もなく消滅した。
「次だ」
『スキュラじゃ。頭が6つ。胴体が蛇の巨大な雌型モンスター。SSランク。【渦潮】という能力を使うぞ』
馬鹿でかい女が海のなかにいた。
『ここは通さないわよ! 下等生物がぁ!』
スキュラが両手を広げると、俺の周囲に渦潮が発生。
『この激しい水流のなか、果たして脱出できるかしらぁ!?』
俺は精霊の剣を取り出す。
禁術で強化した、強烈な斬撃を放つ。
ズバァアアアアアアアアアアアアン!
渦潮を切り裂き、さらにはその奥にいたスキュラすらも、切断する。
『ば、ばかな……渦潮がどうして……?』
「禁術で強化された剣は、万物を斬る」
なにせ次元すらも切り裂けるからな。
『……異常すぎる。青嵐さま、後はお任せします……』
そう言って、スキュラは海底に沈んでいった。
その後も敵を蹴散らしながら、俺はどんどんと沈んでいった。
ややあって。
『アインよ、見えてきたぞ』
そうはいっても、周囲は完全に真っ暗闇に包まれているので、よくわからない。
ウルスラが魔法の光で、辺りを照らす。
「あれか」
海底に、ぽつんと、小さな祠のようなものがあった。
あの下に精霊がいるようだ。
『……アイン君。敵が来るわ。かなり大きい』
ごごごご……!
海底の砂が盛り上がり、そこから……凄まじい大きさの、龍が現れた。
『【青龍】様のご登場じゃ。アインよ、失礼の無いようにな』
どうやらこのデカい龍は、青龍というらしい。
『おー、青嵐はん、おひさーやなー』
「知り合いか? 朱羽?」
守り手の1人、朱雀の娘・朱羽が言う。
『そーやで兄ちゃん。青嵐はんは、うちらと同じ守り手や』
なんだ、精霊の守り手だったのか。
じゃあ戦わなくて良いな。
『……そこの人間』
じろ……っと青嵐が俺をにらむ。
『……我の海域に何用だ?』
「その下にいる、精霊に会いに来た」
『……我の娘、【マオ】に用事があるのか?』
マオというのが、第6精霊の名前らしい。
『アタシの妹。8女のマオちゃんね~』
ピナが言う。
末っ子の姉に当たるらしい。
「メイの姉たちが、マオに会いたがってるんだ。そこを通してくれないか?」
『……良かろう。ただし、我に勝つことが条件だ』
青嵐の体から、凄まじい量の闘気が吹き出る。
「いや、なんで戦うんだよ?」
『……我の愛しい娘に、変な虫をつけさせたくないのだ。帰れ小僧』
ギロっと青嵐がにらんでくる。
『兄ちゃん許したってや。青嵐はちーっと過保護なんや』
なるほど、可愛い娘に男を近づけたくないのか。
『覚悟は良いか、小僧?』
「いいよ、いつでもかかってこい」
ぐあっ、と青龍が口を開く。
そこから激しい水流が吐き出される。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオ!
ビームかと錯覚するほど早く、高圧の水流だ。
だが、俺は避けない。
パリィイイイイイイイイイイイイン!
『なんだと!? わ、我の【水竜息吹】が弾かれた!?』
俺は余裕で、青龍の顔の元まで近づく。
『くっ! 死ね小僧! 我が愛しのマオには近づけさせぬ!』
青龍がその長い尾で、俺をたたきつけようとする。
俺はそれを掴む。
パシッ……!
そして海底めがけて、投げる。
ブンッ……!
ずずぅううううううううううん……!
『ば、バカな……。水中は我のテリトリーぞ……? なぜそこまで自在に動ける?』
「禁術で体が強化されているからな。水の抵抗なんて、あってないようなもんだ」
『くっ……! 下等生物の分際で!』
青嵐がまた、息吹を吐き出そうとする。
俺は虚無による瞬間移動で、青嵐の間合いまでテレポート。
『なっ!? は、早い!』
俺はこぶしを握りしめ、禁術で強化されたアッパーカットを、青嵐のアゴに喰らわせた。
ばごぉおおおおおおおおおおおおん!
『……バカな。四神に素手で勝つなんて。バケモノ、め』
がくっ、と青嵐が気を失うのだった。