13.鑑定士、パワーアップした目を試す
俺は精霊ユーリとともに、奈落を脱出することになった。
世界樹のあるホールを出た、ダンジョン内の通路にて。
「アイン、さん♡ がんば、って♡」
俺のとなりに、金髪の美少女ユーリがニコニコしながら立っている。
「おうよ。危ないから目の中入ってな」
「はい♡」
ユーリの体が光ると、俺の左目の中に吸い込まれていく。
『では脱出するぞ』
俺の右目は、賢者の石。
賢者ウルスラと意識がリンクしているらしい。
賢者の石を通して、ウルスラの声が聞こえてきたのだ。
「脱出って……外への通路がわからんのだが」
『問題ない』
すると、地面に、巨大な矢印が出現する。 矢印は通路の奥を指していた。
『脱出までのルートを鑑定しておいたぞ』
「何勝手に鑑定してるんだよ……」
『手間を省いてやっただけじゃ。ほれ、矢印の先が出口に繋がるルートじゃ。さっさとゆくがよい』
賢者の石は、俺の目の一部だ。
だから鑑定を、賢者の石の意思によって自動的に行ってくれる……ってことだろうか。
まあ何にせよウルスラの助力がある、ってことは心強い。
『5分後に敵と遭遇するみたいじゃ』
「ま、待て待て……そんなことも鑑定できるのか?」
『無論じゃ。貴様の左目が何だと思っておる? 精霊神の義眼じゃぞ? 人間と精霊の神たるユーリとでは、見えるものも、鑑定できるものも大きく異なる。敵の情報を見抜くことなど造作も無い』
マジかよ……。
というか、賢者の石と精霊神の義眼って、かなり相性良いな。
俺が知らない、義眼での鑑定方法を、賢者が代わりにやってくれるわけだからな。
「敵は?」
『人狼。2足歩行のオオカミじゃな。人間で言うSランクのモンスターじゃ。麻痺毒の爪攻撃をしてくるから注意せよ』
鑑定スキルの無機質な声よりも、知っている人の聞き慣れた声の方がいいな。
「しかし敵と遭遇する前から、敵の情報を知れるとか……完全にずるだな」
『うるさい。とっとと戦う準備を整えよ。負けたら殺すからな』
『おかー、さん。怖い、こと……言わない、で?』
俺は右手の、収納の紋章に力込める。
手に、精霊の剣が出現する。
「おお。本当に出し入れ自由なんだな。……さて」
俺は敵が来る方を見やる。
『敵に魔法を当てるルートを鑑定しておいたぞ。ほれ、さっさと魔法を使え』
「マジですげえな精霊神の義眼とおまえ……」
これで魔法が当てられない、という弱点が克服されたわけだ。
魔法職じゃないので、魔法の威力は弱いけどな。
俺は左手を前に出す。
火球を、無詠唱で放つ。
炎の球が、正確な機動で、ダンジョンの奥へと飛んでいく。
『命中したみたいじゃぞ』
ウルスラは、俺の攻撃が当たったかどうか、という情報を自動鑑定したらしい。
マジですげえなこの目。
もはや神の目だな。
俺は超加速の能力を使用する。
疾風のごとく駆け抜ける。
ややあって、火傷を負った、人間サイズのオオカミが見えてきた。
二足歩行。
両腕がながく、だらりと垂れ下がっている。
人狼。
賢者の石によると、爪には麻痺毒がぬってあるらしい。
俺は人狼の左脇をすり抜ける。
その際に、剣を振った。
ザシュッ……!
「ァオオオオオオオオオオオ!!」
人狼が痛そうに悲鳴を上げる。
俺は立ち止まり、振り向きざまに、人狼の背中に切りつける。
「アォオオオオオオオオオオ!!!」
人狼が腕を振り上げる。
突如、その動きが、スローになった。
『爪攻撃だ。貴様の顔面を狙ってくる。動きを超鑑定しておいたぞ』
……ウルスラが自動鑑定してくれたようだ。
ほんと、すげえわマジこの目……。
ゆっくり動く人狼の攻撃を、俺はバックステップで、余裕でかわす。
「【斬鉄】」
俺は死熊から鑑定した能力を使用する。
斬鉄は、武器や爪の切れ味をアップさせる。
それは鉄すらも容易く切れるようになるという。
斬鉄を使用した状態で、俺は人狼の腕めがけて、剣を振る。
ザシュッ……!
ボトッ……!
「お。おお……! めっちゃ軽く腕が斬れた!」
さすが死熊の爪の切れ味。
「おらもういっちょ!」
ザシュッ……! ボトッ……!
俺の攻撃で、人狼は両腕を失った。
「ア、アオォオオオオオオ……!!!」
自分の武器を失った人狼が、しっぽを巻いて、俺から逃げようとする。
Sランクモンスターが、俺に、恐れをなして逃げてるだって……?
なんだろう、すごい充実感を覚える。
『何を浸っておる。とどめを刺さぬか!』
「そ、そうだな。【風裂刃】」
ウルスラが敵に魔法を当てるルートを鑑定してくれていた。
おかげで風の魔法は、人狼に問題なくヒット。
人狼はその身を風の刃でズタズタに引き裂かれ、ぼろぞうきんのように、地面に落下。
俺は超加速で近づき、斬鉄を使用した状態で、人狼の急所をひとつき。
「はは……Sランク、余裕で倒せたんですけど……」
死熊や単眼悪魔は、倒すのに苦戦した。
だが同じSランクのモンスターで、しかも初見の相手だというのに、俺は人狼を余裕で倒せた。
「これもウルスラのおかげだよ。ありがとな」
『阿呆か! 精霊神の義眼の、ユーリのおかげじゃろうが! ユーリに感謝をささげよ!』
「す、すまん……ありがとユーリ」
『♡』
……しっかし、パワーアップした俺の目は、とんでもないことになっていたな。
敵の自動索敵。
自動鑑定。
自動魔法アシスト。
そして戦闘指南までしてくれる。
不遇職だと、使えないと言われていた鑑定士の【鑑定】能力が、まさかここまで化けるとはな……。
『人狼の能力を鑑定したぞ。【麻痺毒】だ。切りつけた相手を麻痺にする能力だぞ』
「いってぇえええ……あれ? 痛くない?」
いつもの、コピーによる頭痛を、感じなかった。
「世界樹の雫、で、治療、しました!」
俺の隣に、いつのまにか、ユーリが立っていた。
彼女の手には、治癒能力のある世界樹の雫。
おいおいマジかよ。あんな苦痛だった鑑定すらも、今度からはノーダメージでできるなんて!
「ほんと、ありがとうなユーリ。おまえに出会えたこと、女神様に感謝するよ」
「え、えへへ♡」
『ユーリにすべて感謝しろこの阿呆が!』




