127.鑑定士、エルフ国王から感謝される
白鯨討伐した、翌日。
俺はエルフ国【アネモスギーヴ】まで到着した。
話は数時間後。
俺は【ギ・ヴ】という街を訪れていた。
「わぁ! すごい、です! アインさん! 樹の街です!」
ユーリが馬車の窓から、外を見やる。
外を見やると、デカい樹木があちこちに立ち並んでいる。
「アネモスギーヴは別名【森の国】と呼ばれています。国土のほぼ全域が森であり、私たちエルフは霊木とともに生活しているのです」
「街のなかは結構暗いんだな」
「自生する木々は数十メートルあり、光が町中まで入ってこないのです」
木々の周囲に、光の球のようなものがある。
それが周囲を明るく照らしていた。
「魔法で光を入れているのか」
「さすがアイン様。ご明察です」
窓の外を見やる。
エルフの男女が歩いている。。
そのなかに混じって、人間や他種族も見受けられた。
「エルフってもっと閉鎖的だと思ってたんだが、意外と外からも人が来るんだな」
「いえ、アイン様の認識であっています。父が治めるここ【ギ・ヴ】の街以外の街は、エルフ以外の立ち入りを禁じています」
アネモスギーヴには、5つの街があるらしい。
【ダ・ヤタマ】【ジ・ミタ】【ミ・ノ】【ガ・キオ】そしてここ【ギ・ヴ】。
それぞれの街には、部族をまとめる族長がいる。
「【ギ・ヴ】以外の部族は排他的で、街にエルフ以外の種族を寄せ付けないのです」
「なるほど……【ギ・ヴ】は例外なんだな」
馬車が木々の街をゆっくりと走り抜ける。
ややあって。
アネモスギーヴの王城へと、たどり着いた。
馬車から降り、衛兵たちに連れられ、俺は国王、つまりグレイシアの父親のもとに通される。
真っ白な床や壁には、金の細工が施されていた。
『アイン、さん、まっしろで、きれーな、おしろですね!』
「だな。シャレてるよ」
廊下を抜けると、やがて扉の前までやってきた。
「ここは執務室となっております。この先に父がおります」
衛兵が扉を開ける。
そこは簡素な調度品が並ぶ、こじんまりとした部屋だった。
『……本。たくさん』
アリスが感嘆の声をもらす。
どことなくアリスのいた禁書庫のような見た目の部屋だ。
奥に机とイスがあった。
『イス、からっぽ、です?』
確かに誰も座っていないな、と思ったそのときだ。
「やぁ、君がアイン君だね」
誰もいないはずの部屋から、若い男の声がした。
「え?」
「ああ、ごめんね。ぼく、背が小さくて」
そう言うと、机の後から、小さな男の子が出てきた。
見た目は10歳程度だろうか。
長い耳にパッチリとした二重まぶた。
「こんにちは、ぼくは【フランシス・ギ・ヴ・アネモスギーヴ】。グレイシアとミネルヴァの父さ」
「ど、どうも……アイン・レーシックです」
この小さな子が、二児の父親なのか……?
「驚かせてすまないね。ぼくら【上級エルフ】は、長命なエルフ以上に年を取るスピードが遅くてね。これでも10世紀くらいは生きてるよ」
そう言えばウルスラも上級エルフで、生きてる年数の割に幼い見た目してたな。
「上級エルフって、みんなこんなもんなのか? ウルスラ」
『…………』
「ウルスラ?」
『あ、ああ……すまぬ。こんなものではないか、うむ』
何やらウルスラはぼうっとしていた。
「ところでアイン君。君に感謝の意を伝えないといけないね」
国王は居住まいを正し、俺の前で頭を下げる。
「娘の……ミネルヴァの呪いを解いてくれて、どうもありがとう」
深々と国王が頭を下げる。
「気にしないでください。俺は俺にできることをしたまでです」
「そうか、さすがアイン君。噂通りの素晴らしい人格者だな」
「噂って……どんな?」
「ぼくはジョルノ君と友人でね。彼からよく君の噂を聞いてるよ。古竜に魔族、上級魔族すら圧倒する力を持ちながら、しかし決して驕ることない。歴史上類を見ないほどの傑物だとね」
「恐縮です」
「本当に謙虚な男だね。うん、ぼくも君が好きになったよ」
フランシス国王は、部屋に設えたソファに座るよう、俺たちにうながした。
パチンッ、と彼が指を鳴らすと、熱々の紅茶の入ったカップが出てきた。
「そうだ! お父様、聞いてください!」
「なんだい、グレイシア?」
王女はニコニコ顔で、俺の腕をぎゅっと抱きしめる。
「アイン様は白鯨を討伐なされたのです!」
それを聞いたフランシスは、目を大きく見開いた。
「ほ、本当なのかい……?」
がたっ、と立ち上がって、国王が俺の前までやってくる。
「娘が嘘をついているとは思えないが、ほっ、ほっ、本当なのか?」
「ああ」
「私がこの目でハッキリと見ました!」
すると、フランシスの瞳に涙が溜まる。
「ありがとう! ありがとう! アイン君!」
その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
俺の手を掴んで、何度何度も頭を下げる。
「お、大げさですって……」
「いや、アイン君。君は死んだ【姉さん】の無念を晴らしてくれたんだ。本当に……ありがとう……」
「死んだ、姉?」
ややあって。
お茶を飲んで落ち着いたフランシス国王が言う。
「ぼくには姉がいたんだ。彼女は歴代最強の魔法使い、【大賢者】と呼ばれていた」
ほう?
「アネモスギーヴは長く白鯨の被害に頭を抱えていたんだ。大昔、部族会議で姉が単身で白鯨を討伐することが決まり、挑んで、そして……帰らぬ人となったんだ」
「そうだったんですね……」
「ああ、ぼくにとって姉さん……【ウルスラ】姉さんは両親を早くに亡くしたぼくにとっての、母のような存在だったよ」
「え?」
ちょっと……今なんて言った?
「姉さんのかたきを討ってくれて、本当に、ありがとう!」
深々と頭を下げるフランシス国王。
「えーっと……その……国王様。今、姉の名前をなんとおっしゃいました?」
「ウルスラ姉さんのことかい?」
「その人って……銀髪でメガネをかけた、上級エルフですか?」
「はい。よく知っているね」
「いや、ご存じもなにも……」
『アインよ』
俺の脳内で、ウルスラが言葉を遮る。
『……後生だ。弟には、わしが生きてることを言わないでくれ』
……やっぱり、フランシスはウルスラの弟だったのか。
しかしそれなら、弟はおまえに会いたいんじゃないのか?
『訳は話す。頼む……』
……ウルスラにも何か事情があるのか。
弟に会いたくても、会えない事情が。
「アイン君? どうしたんだい?」
「あ、いや。すみません、変なこと聞いちゃって。別に何でも無いです」
「そうか……。いずれにしても、君が姉の敵を、そしてこの国最大の悩みの種を取り除いてくれたことは事実!」
フランシスは最上級の笑顔で言う。
「ありがとうアイン君! 国を代表し、君に最上の感謝を捧げるよ! 君を国賓として、この国に迎え入れることとしよう!」