125.鑑定士、海賊たちを退ける
エルフの国への船旅の途中。
船の甲板にて。
「てめぇらぁ! 命が惜しければ金を出せぇ!!」
曲刀を持った柄の悪い男たちが、数十人いる。
『アインよ。やつらはこの海で海賊をしている輩のようじゃ』
ウルスラが彼らの素性を鑑定してくれる。
なんだ、モンスターかと思ったのだが。
しかし船旅を邪魔されては困るな。
俺は海賊たちに近づく。
「あ~? なんだぁおまえ……?」
海賊の1人が、俺に気付いて、曲刀を俺に向けてくる。
「ガキに用はねえ。とっとと消え失せ」
「そりゃこっちのセリフだ。大人しく消えるんだな」
「ああっ!? ガキのくせに偉そうに命令すんじゃねえよ!」
海賊は俺のことを知らないようだ。
「命令じゃない。これは警告だ。けがしたくなきゃさっさと帰れ」
「ガキが! 死にてえようだなぁ!」
海賊が曲刀を振り上る。
俺は闘気で身体強化する。
「おらぁ! 死ねえ!」
ブンッ!
ガキンッ!
「ひゃーっひゃっひゃ! おれたち海賊に刃向かうからこうなるんだ……ってぇえええええええええ!?」
海賊が、折れた曲刀を見て、目をむいている。
「おいおいどうしたぁ~?」
仲間の海賊たちが近づいてくる。
「こっ、このガキ! おかしいぞ!」
「何言ってるんだよおまえ~」
「こんなひ弱なガキ1人にびびってんじゃねーっつーの」
仲間の海賊たちの顔には、俺に対する侮蔑の表情がありありと浮かんでいる。
「抵抗するなら相手してやるよ。かかってこい」
俺は精霊の剣を取り出し、海賊たちを見渡していう。
「おいおいしょんべんくせえガキが、海賊と戦おうって言うのか~?」
「おれたち海賊だぜ~? 怒らせたらとんでもないことになるぜ~?」
「ケガする前にとっととママのところに帰るんだなぁ、ガキぃ~」
海賊の1人が剣を、俺の首筋につきつける。
俺はその刃を手で掴んで、握りつぶした。
ばきぃいいいいいいいいいいん!
「はぇ!? な、何が起きたんだ!?」
俺はそのまま、剣の柄で海賊の鳩尾を強打。
ボグッ……!
「ふぐぅ……」
ドサッ!
「な、なんだ今の……?」
「早すぎて目で追えなかったぞ……」
海賊たちの顔に緊張が走る。
どうやら、ようやく状況を認識したようだ。
「もう一度言う。ケガしたくなきゃ大人しく消えろ」
「ぜ、全員で、かかれー!」
ワァアアアアアアアアアアアア!
海賊たちが曲刀を構えて、いっせいに俺に突撃してくる。
「おら! 死ね!」
ブンッ!
パリィイイイイイイイイイン!
「なっ!? ぶ、武器が弾き飛んだだと!?」
「妙な技を使うぞ! 気をつけろ!」
「遅えよ」
俺は闘気で脚力を強化し、たくさんの海賊たちの間を、走り抜ける。
ガッ! ドゴッ! バギッ! ドゴッ!
「うぎゃ!」「ぐぇ!」「ふぐ!」「ぐげぇえええええ!」
その場にいた海賊たちが、いっせいに崩れ落ちる。
「なっ、なんだアイツ!?」
「めちゃくちゃ強いぞ!!」
海賊たちが怯えた目を俺に向ける。
「なんだ、もう終わりか?」
俺が彼らに近づくと、海賊たちはジリジリと下がる。
「び、びびってんじゃねえ! おい【召喚士】を呼べ!」
海賊たちの中から、杖を持った男が現れる。
「【召喚】!」
海賊が召喚スキルを使用。
『アインよ。【クラーケン】。タコ型のAモンスターを水中に召喚するつもりじゃな』
「了解。クルシュ。アリス」
『あいよ~。千里眼と虚無の組み合わせね~』
ボシュッ……!
千里眼で水中のクラーケンを捕捉し、虚無の邪眼で消し飛ばす。
「はーっはっは! おまえ死んだぜぇ!」
召喚士の海賊が、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「聞いて驚け! おれさまの召喚獣は」
「クラーケンだろ。Aランクの」
「そう! Aランクのクラーケン……って、ええええええええええ!? な、なんでそのことを知ってるんだぁあああ!?」
召喚士が驚愕する。
「は、ハンッ! 知ってたところでなんだ! ほらクラーケン! ぼさっとしてないでとっとと出てこい!」
しーん……。
「ど、どうした! 何やってるんだ、おい!」
召喚士が慌てて走り、船の外をのぞき込む。
「あ、あれぇええええええ? 出てこないぃいいいい!」
召喚士が額に大量の汗をかく。
俺は彼の元へ行き、首の後を剣の柄で強打。
ドサッ。
「お、おいどうする!」
「まさか召喚士がやられるなんて!」
残った海賊たちが慌てて言う。
「なんだ、今のがおまえらの最高戦力なのか?」
「くっ! くそっ!」
と、そのときだった。
「落ち着け馬鹿野郎ども」
ざっばぁああああああああああああん!
水中から何かが、突如として浮上してきた。
そいつは甲板の上に、スチャッと着地。
『フィッシャーマン。魚人型。男爵級の魔族じゃな』
魔族が船の上に降り立ち、海賊たちを見渡す。
「お頭ぁ!」
「ったく、おまえらなに手こずってやがるんだよ」
「す、すまねえお頭……。相手が予想以上に強くって」
「はぁ? ったく、しゃーねえ。この男爵級魔族様が、相手してやるよ」
ふっ……とフィッシャーマンが余裕の笑みを浮かべる。
「へへっ! おいガキ! おまえ終わったぜ!」
「いいかぁよく聞け! お頭はなぁ! 魔族なんだぜ魔族!」
「降参するなら今のうちだ! 裸で土下座するなら許してやっても良いぜ!」
海賊どもが勝ち誇った笑みを浮かべる。
フィッシャーマンは部下の海賊たちをかき分けて、俺の前へとやってくる。
「さて……部下を可愛がってくれたやつの顔を拝見するとしようか……って、げぇえええええええええええ!?」
魔族は俺を見て、目玉が出るんじゃないかというほど目をむいて言う。
「アイン・レーシックだとぉおおおおおおおお!?」
がくがくがく! とフィッシャーマンが体を恐怖で震わせる。
「どうしたんだお頭!」
「あんなガキとっとと殺してくださいよ!」
事情を知らぬ海賊たちが、魔族にヤジを飛ばす。
フィッシャーマンは光の速さで、俺の前で土下座した。
「すみませんでしたぁああああああああ!」
魔族は土下座状態で、甲板に頭をガンガンと打ち付ける。
「どうか! 命だけは! 命だけは勘弁してくださぃいいい!」
「お、お頭が、命乞いしてるだと……?」
「魔族のお頭がびびるなんて……相手はもしかして……相当ヤバいやつだった?」
さぁああ……と海賊たちの顔色が、真っ青になる。
海賊たちはみな武器を捨てる。
ガチャガチャガチャッ!
「「「すみまっせんでしたぁああ!」」」
その場で全員が膝をついて、俺に頭を下げる。
その様子を、船員たちが遠巻きに見ていた。
「す、すげえ……」
「海賊たちがアイン様に土下座してる!」
「さすがアイン様だ!」
俺は海賊たちを見下ろしていう。
「見逃してやる。もう悪いことすんなよ」
「「「はい、すみませんでした!」」」