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123/244

123.鑑定士、エルフ姫から護衛を依頼される



 俺が海で、シー・サーペントを撃破した、数時間後。


 王都。

 ジャスパーの屋敷。

 玄関にて。


「アイン、さん。おかえり、なさぁい♡」


 金髪の美少女ユーリが、笑顔で俺の元へと駆け寄ってくる。


「ハッ……!」


 ユーリが俺の前に止まると、半目で俺を見やる。


「ど、なた、ですか?」


 俺のとなりにいた女性が、にこやかに言う。


「初めまして。私は【グレイシア】。【ミネルヴァ】の姉です」


 グレイシアは薄桃色の長い髪に、同じ色のドレスを身に纏っている。


 真っ白な肌は芸術品のようだ。


 そして目を引くのは、その大きな胸。


 デカいのだが、張りがあって、上を向いている。


「お、ねーさん、でしたかっ。はじめ、まして。ユーリ、です」


 ユーリはペコッと頭を下げる。


「妹から話は聞いています。ミネルヴァと仲良くしてくれて、どうもありがとう」


 ニコッ、とグレイシアが笑みを浮かべる。

 ……この人、本当にあのエルフ姫の姉なんだろうか。


「グレイシア、さん……なに、しに、ここに?」


「妹を、ミネルヴァを迎えに来たのですよ」


 ミネルヴァは先日、獣人国で助けたエルフの姫のことだ。


 彼女は呪いを受けており、治すために、海を渡って来たらしい。


 治った後もしばらくジャスパーの屋敷に滞在していたのだ。


「アイン様、妹はどちらに?」


「まだ寝てるんじゃないか?」


 ピクッ、とグレイシアのこめかみが動く。


「……寝ている。もう、お昼ですよね?」


 笑顔を絶やさぬまま、静かな声音でグレイシアが言う。


「みーちゃん、夜明け、まで起きて、お昼まで、寝てます」


 ピクッ。ピクピクッ。


「……へえ、そうですか。ユーリさん、妹のところへ連れて行ってください」


 グレイシアに気圧されたユーリは、俺の後ろに回る。


 俺たちはミネルヴァの部屋へと向かう。


「……なんですか、この散らかり放題の部屋は」


 部屋の床一面に、洋服が散らばっている。

 読みかけの本や飲みかけのカップが散乱していた。


 メイドのミラが片付けようとしてはいた。

 だがミネルヴァは獣人であるミラの立ち入りを許さなかった。


 結果、この荒れ放題の部屋が完成したのだ。


「……許せません」


 ずんずん、とグレイシアがベッドに近づく。


 眠る妹の耳を、グレイシアが引っ張る。


「痛い痛い痛い! 無礼者! 寝込みを襲うとは万死に値するぞ!」


「こら! 【ミニー】!」


「なっ! 姉上!?」


 ミネルヴァが目を見開く。


「ど、どうしてわらわが、ここにいると……?」


「あなたの部下が、祖国にフクロウ便を届けてくれたのです」


 ミネルヴァの護衛もジャスパーの屋敷に逗留しているのだ。


「あなたの無事を聞いて、お父様はたいそうお喜び、そして私にあなたを迎えに行くよう命じられました」


「そ、そうだったのか……。うむ、ま、まあわらわのためにご苦労であったな」


 ビキッ! とグレイシアの額に青筋が浮かぶ。


 ごちんっ!


 姉が妹の頭に、げんこつを落としたのだ。


「目上の人に何ですかその態度!」


「痛いではないか! 何をするのだ!」


 ごちんっ!


「いったぁ~~~~~い!」


 ミネルヴァが頭を抑えて、その場でうなっている。


「なんですこの部屋は。アイン様に借りている身で、こんなに散らかして!」


「わらわは悪くない。部屋を片付けぬ使用人が悪い」


 ごちんっ!


「自らの失態を他人のせいにするなと、なんど注意すれば気が済むのですか!」


「殴ることないであろうが……!」


「お黙り! 部屋を片付けなさい!」


 しぶしぶと、ミネルヴァが落ちている服を手に取っていく。


 どうやら力関係は、グレイシアの方が上らしい。


 あの偉そうなミネルヴァを、完璧に圧倒していた。


 ややあって。


 ミネルヴァの部屋は、完全にキレイになっていた。


「ありがとな、ミラ」


 俺の背後には、黒髪長身の、獣人メイド【ミラ】が立っている。


 あまりに掃除が進まなかったので、ミラに救援を要求したのだ。


 テーブルを挟んで、俺とユーリ、ミネルヴァとグレイシアが座る。


「ありがとう、ミラさん。この紅茶もとてもおいしいです」


 ティーカップを手に、グレイシアがにこやかに言う。


「恐縮でございます」


「姉上。こんな獣に礼など不要……いったぁああああああい!」


 グレイシアがミネルヴァの頭にげんこつを落としていた。


「本当に、ごめんなさいアイン様。愚妹があなたに、とてもご迷惑をかけてしまって……」


 彼女はカップを置いて、深々と頭を下げる。


「別に迷惑なんて思ってないさ。子供だからしょうがないって」


「さすがアイン様です。腕も立つし、心も広いのですね。素晴らしい御方です」


 ふふっ、とグレイシアが微笑む。


 じろっ、とミネルヴァが姉をにらみ付ける。


「アインはわらわのものだぞ。手を出すようならたとえ姉であっても許さぬからな」


 グレイシアはすました顔で言う。


「アイン様は別にあなたの物でもなんでもないのですよ。どうしてあなたに許しを請う必要があって?」


「ダメだ! 許さぬぞ! アインはわらわのものだ!」


 ふぅ、と姉が悩ましげにため息をつく。


 ユーリたちに比肩するほど、エルフたちは美人だった。


「むぅ~~~~~」


 俺のとなりで、ユーリが頬をぷくっと膨らませる。


「どうした?」


「アイン、さん……人気者過ぎ、ます! もっと手加減、してください!」


 手加減ってなんだよ……。


「まぁ。ユーリさんもアイン様のことを?」


「はいっ。とっても、とっても、です!」


「なるほど。これは強敵出現ですね。ユーリさんとってもおきれいですから、勝てる自信がありません」


「そ、そんな……グレイシア、さん、きれいだし……自信、ないよぅ」


 しゅーん、とユーリが肩を落とす。


「ユーリさん、お互い頑張りましょう。恋する乙女として」


「うん! グレイシア、さん!」


「呼び捨てで良いわ」


「じゃ、あ、わたしも! 呼び捨てで!」


 なんだか知らないが、ユーリとグレイシアは、すっかり打ち解けているようだった。


「ところでアイン様。ひとつ、お願いがあるのです」


 グレイシアが俺をまっすぐ見て言う。


「実は祖国アネモスギーヴまで、私たちを護衛していただけないでしょうか?」


「ミネルヴァたちの、護衛?」


「ご存じの通り、私たちの故郷は、海を渡っていかなければなりません。しかし海にはモンスターが出現します。最近は海域で古竜も確認できていますし」


「古竜もか。そりゃ厄介だな」


「ええ、ここ数日で状況が一変し、このままでは祖国に帰れぬかもしれません」


 一般人にとっては古竜は難敵だ。

 近衛騎士たちは王国から出ていけないし、冒険者たちでは太刀打ちできない。


「アイン、さん……」


「わかった。その依頼、引き受けるよ」


「ありがとうございます、お二人とも。ほら、ミニー、あなたも感謝なさい」


「ふん! わらわの手助けをできること、光栄に思うが……いったぁああああい!」

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― 新着の感想 ―
メイドのミラをバカにしてる時点でギルティやろ。 周りに迷惑かけてるしな。 心が広いとかのレベルとちゃうで。
[気になる点] クソエルフいらないよ
[気になる点] 自分の生活全般の世話をし、心から慕ってくれるミラが 獣扱いされたら、普通は怒るだろう。
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