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121/244

121.鑑定士、騎士たちから英雄と認められる



 数日後。


 王城の庭にて。


 王国騎士たちが、俺の前に整然と並んでいる。


「全員、アイン近衛騎士団長に、敬礼!」


 俺のとなりに立つ女騎士エイレーンが、声を張る。


 一糸乱れぬ動きで、騎士たちが同じポーズを取る。


「エイレーン。今日はどうしたんだ?」


「うむ! 皆があなたに感謝を述べたいと言っていてな! ご足労いただいたのだ!」


 エイレーンは俺の前に立つと、バッ……! と頭を下げる。


「アイン様! このたびの上級魔族襲撃の件、ありがとうございました!」


 彼女は頭を下げたまま言う。


「あなたが私たちを鍛えてくれたから! 私たちは愛するこの国を救うことができました! 本当に、ありがとうございました!」


「「「ありがとうございました!」」」


 彼らの顔には深い感謝の念が浮かんでいた。


 頑張った甲斐があったなと、俺は達成感を覚えた。


「ありがとな。けど今この国が平和なのは、おまえたちが頑張って守ったからだよ。俺はその手伝いをちょっとしたに過ぎない」


 エイレーンは頭を上げて、力強くうなずく。


「さすがアイン様だ! 全てあなた様がいてくれたおかげだというのに、手柄を独り占めにしようとしない。謙虚な御方だ!」


 くるっ、とエイレーンが振り返り、騎士たちに言う。


「みな! アイン様のような素晴らしい騎士となるよう、より一層訓練に励もうじゃないか!」


「「「はいっ!」」」


 騎士たち全員が、俺にキラキラとした目を向けてくる。


『さすがじゃな、アインよ。たった数ヶ月で、騎士たちからの全幅の信頼を獲得するとはな』


 そう言えば最初の頃は、俺に不信感を持った騎士が結構いたっけ。


 騎士団強化を開始してから、数ヶ月たってたのか……。


「ユーリ、ごめんな。隠しダンジョン探索、後回しにして」


『あやまら、ないで。アイン、さん』


 ユーリが優しい声音で言う。


『魔族、から、この国、守ること。アインさんにしか、できない。とっても、大事な、お仕事、です』


「けど……」


『アインさん、は、すべきこと、しました。とっても、とっても、立派、です!』


 どうやらユーリは、俺を許してくれるようだ。


「アイン様!」


 エイレーンが俺の手をがしっと掴む。


「本当にありがとう! やはりあなた様は素晴らしい人だった!」


 にかっ! と真っ白な歯を見せてエイレーンが笑う。


「エイレーン。頼みたいことがあるんだ」


「なんでしょう! 何でも言ってくれ!」


「騎士団の指揮を、おまえに任せたい。俺はしなくちゃいけないことがあるんだ」


 本来の俺の目的は、命の恩人であるユーリを、各地に散らばっている家族の元につれていくことだ。


 騎士たちは十分に強くなった。


 俺が不在時に魔族がやってきても、余裕で対処できるくらいまで成長したのだ。


 ならもう、俺がここに長く留まっている理由はない。


 すると近くで俺たちの会話を聞いていた騎士たちが、絶望の表情を浮かべる。


「アイン様、騎士団やめちゃうんですか!?」


「アイン様! やめないでぇえええ!」


 騎士たちが悲痛なる叫び声を上げる。


 泣き出すやつらも現れる。


「やめないよ。ただ指揮権をエイレーンに任せたいってだけ」


「「「なんだ! 良かったぁ~……」」」


「もっとも、おまえらは全員、普通に強くなったし、俺なんていらないだろうけどさ」


「「「何言ってるんですか!」」」


 騎士のみんなが怒っていた。


「アイン団長がいなかったら、今頃王都は壊滅してました!」


「アイン様が俺たちを鍛えてくれなかったら、魔族に立ち向かえなかったです!」


「あなたがいてくださったおかげで、私たちは明日からも、国民を守る任務に邁進できるのです!」


 バッ……! と騎士たちがいっせいに頭を下げる。


 エイレーンが俺の前にひざまずく。


「このエイレーン、あなたが不在の間、しかと騎士団をまとめて見せます! あなたはあなたのなすべきことをしてくださってかまいません! ですが!」


 にかっ! と真夏の太陽のような、からっと乾いた笑みを、エイレーンが俺に向ける。


「たまにで良いので、ここに顔を出してください! みなあなたの帰りを、【英雄騎士】の帰りをずっとずっと待ってますから!」


「英雄……騎士?」


 なんだか聞いたことのない単語だった。


「アイン団長のことです」


 メガネっ娘のパメラが俺に近づいてくる。

 その手には【翡翠の外套マント】が握られていた。


「強さと優しさを持って、弱い人々を守る。そんなアイン団長は、私たち騎士たちのあこがれの存在……つまり、英雄なんです」


「うむ! 英雄の騎士、すなわち【英雄騎士アイン・レーシック】の爆誕だな!」


 パメラがニコニコしながら、俺に立派なマントを着せてくる。


「これは【英雄騎士】の称号を持つ者に送られる特別な外套です」


「これはすごい物なのだぞ! マントを授与される条件は、この国の平和に寄与し、なおかつ騎士たち全員から認められることだからな!」


 つまり、俺は騎士のみんなに、認められたってことか。


「さすがアイン団長!」

「英雄騎士のマント、めっちゃにあってます!」


 近衛騎士たちが、マント姿の俺を褒めてくれる。


「ありがとな。これ、大事に使うよ」


 俺が笑うと、エイレーンが強くうなずく。


「よし! 我らが英雄騎士の門出だ! みなのもの、胴上げだっ!」


「「「応ッ!」」」


 エイレーンが俺の肩を掴む。


「え、ちょっと!?」

「そーら!」


 謎の怪力を発揮し、エイレーンが俺を、騎士たちのもとへ投げる。


 彼らは俺を受け止め、持ち上げる。


「英雄騎士アイン・レーシック、ばんざーい!」


「「「ばんざーい!」」」


 ワァアアアアアアアアアアアアア!


 俺は万雷の拍手を受けながら、騎士たちに運ばれていく。


 ややあって、俺は庭の出入り口までやって、下ろしてもらった。


「みな! 我らが騎士の英雄、アイン・レーシック様に、最上級の感謝を込め……敬礼!」


 バッ……!


 一糸乱れぬ彼らの敬礼に、俺もまた敬礼で帰す。


「さよなら団長!」「お元気でー!」


 ……まあ、別にこれで終わりではない。


 そもそもレーシック近衛騎士団団長の肩書きを固辞したわけじゃないからな。


「さて……と。ユーリ」


 金髪の美少女が、俺のとなりに顕現する。


「残る家族はあと4人。ちゃんと、全員に会わせてやるからな」


 ユーリは花が咲いたような笑みを浮かべると、俺に抱きついてくる。


 そして、俺の額にキスをした。


「アイン、さん♡ やさしくて、本当に……だいすきっ♡」


 彼女の笑顔を見るたびに、俺はどうしてか幸せな気分になるのだ。


 その理由は、わからない。


 けれど、これだけは言える。


 もっともっと、彼女を幸せにしたい。


 俺を救ってくれた、優しい彼女に、恩返しがしたい。


 結局俺の思いは、最初から変わらないのだ。


 この先何が待ち受けるかはわからないけれど。


 俺は、変わらぬこの思い胸に歩み続けようと、そう思うのだった。

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