119.イオアナ、鑑定士にリベンジするが完敗
鑑定士アインが、魔族となったシェリアを下した、直後。
上級魔族イオアナは、遠く離れた建物の屋上から、シェリアを狙撃した。
アインがテレポートを使って、屋上にいるイオアナの前までやってくる。
「おまえ、やっぱり生きてたんだな」
「へぇ? やっぱりってことは、ボクが生きてたこと知ってたの?」
「コキュートスから聞いた。魔核があれば魔族は再生可能なんだろ?」
「そのとおり。地獄から戻ってきたよ、アイン。君に復讐するためにねぇ……」
ちゃきっ、とイオアナは手に持った銃を、アインに向ける。
「本当は今回、シェリアにおまえの討伐を任せるって話だったんだ。けどあの女がザコ過ぎてさぁ。ボクがこうして出てきてあげたわけ」
「シェリアのことをザコって言うな。おまえなんかより、よっぽど強いものを持っている」
「ハッ! ザコにザコって言って何が悪いんだよ。おまえだってシェリアなんて楽勝で倒したじゃないか」
「シェリアは魔族になったから負けたんだ」
「へぇ……魔族が人間より劣るって言いたいんだ?」
「当たり前だろ。おまえ自身が証明してるじゃねえか。俺に何度も負けたくせによ」
「……言うじゃん。サルのくせに」
ずぉ……っとイオアナの体から、大量の闘気が噴出する。
「悪いけどあのときのボクと同じと思ったら痛い目見るよ? 今度のボクは絶対に負けない」
闘気を拳銃に込めて、そして打ち出す。
ドドゥッ……!
アインはいつも通り剣で弾こうとして、しかしそうせず、回避した。
ドゴォオオオオオオオン…………!
銃弾は建物を粉砕した。
「へぇ、弾かなかったんだ。てことはボクの銃弾の性質に気付いたのかな?」
「防御を無視した闘気の銃弾か?」
ドドゥッ! ドドゥッ!
イオアナは闘気弾を連射する。
アインはそれを走って避ける。
「闘気で貫通力を強化したんだ! 君のパリィも! 結界もボクには通じない!」
ドドゥッ! ドドゥッ!
イオアナの放つ銃弾は、眼下の建物を破壊していく。
「いつまで避け続けられるかなぁ!?」
闘気を今度は一点集中。
そして、アインめがけて放った。
ドバァアアアアアアアアアアアア!
銃弾の雨あられが、アインに押し寄せる。
「闘気弾はエネルギーを込めれば込めるほど数が多くなる! ボクの能力【精密射撃】と組み合わせれば、まさに無敵のコンボだ!」
防御不可能、回避不可能の連射。
アインはそれを前に呆然と立ち尽くす。
ズガガガガガガガガガガガガガガ!
銃弾が建物を貫く。
激しい音を立てて瓦解。
土煙が、辺りに漂う。
「どぉーーーーだアイン! ボクの勝ちだぁああああああああ!」
銃弾は全部命中したはず。
つまりやつは、蜂の巣になっているはずだ。
「てめえは散々イキったくせに負けた世界一恥ずかしいクソ負け犬なんだよぉ! ひゃーーひゃっひゃっひゃー!」
イオアナは建物の上で、高らかに笑う。
土煙が晴れる。
そこには、銃弾を受けてズタボロになっているアインが……いなかった。
「なっ!? ど、どこいきやがった!?」
周囲を見渡す。
だががれきの中にアインの死体はなかった。
そのときだ。
ボシュッ……!
イオアナの足が、立っていた建物ごと消失したのだ。
「ぎゃぁああああああああああ!」
文字通り足場を失ったイオアナは、そのまま地面へと落下。
「いてて……チクショウ! アイン! どこだ! てめえ生きてるんだろぉ!」
イオアナが発砲。
雨あられとなった銃弾は、しかし明後日の方向にすっ飛んでいく。
「くそが! 隠れてないででてこい卑怯者!」
「じゃあ、遠慮無く」
ズバァアアアアアアアアアアアアン!
……間一髪のところで、イオアナはアインの一撃を回避した。
「はー! はー! はー! ど、どこだぁ! どこにいるぅ! アインぅうう!」
額にびっしょりと脂汗を垂らしながら、イオアナは注意深く周囲を見渡す。
だが、アインはいない。
「くそ! どこだぁ! でてこぉい!」
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
二度目の斬撃を、イオアナは躱せなかった。
敵の攻撃によって、右半身が消滅した。
「残念だったな」
「アイン! いつの間にそこに!?」
鑑定士の少年が、イオアナを見下ろしている。
「最初から、おまえの近くにいたよ」
「バカな!? 周りには誰もいなかったはず!」
「おまえが見えてなかっただけだ。俺は闘気で強化した【幻術】を使って、おまえから視認できなくしていたんだ」
「幻術!? ばかな! 上級魔族からさらに進化したボクにそんなちんけな技が通じるとでも!?」
「闘気で強化したんだよ。おまえが一斉掃射するタイミングで透明化の幻術をかけた。精密射撃は相手を視認できないと発動しない。だから銃弾は当たらなかった」
「くそが!」
左手で拳銃を掴み、闘気を込めた一撃を放つ。
ドドゥッ!
ボシュッ……!
「喰らうかよ、そんなちんけな弾丸」
「くそっ! 闘気が減ってやがる! てめえ吸収したな、その剣で!」
アインの持つ精霊の剣は、斬った相手の闘気を吸い取る力を持っている。
右半身を吹き飛ばした一撃で、かなりの闘気を、アインに持って行かれたのだ。
「くそくそくそぉ!」
イオアナは闘気を込め、一斉掃射。
ドパァアアアアアアアアアアアア!
しかしアインは慌てず、そして逃げなかった。
彼は自分の周りに、球体状の結界を張る。
「結界が通じるわけないだろうがぁ!」
ボシュッ……!
「何ぃい!? 銃弾を防いだだとぉおおおおおお!?」
結界に当たった瞬間、銃弾がすべてかき消されたのだ。
「結界と虚無の複合技だ。銃弾威力を結界で殺し、当たった瞬間に攻撃を消す」
「複合瞳術……おまえ、そんな物まで使えるようになっていたのか!?」
アインは深々とため息をつく。
「ほんと、魔族ってアホの集団だな」
「なんだとぉ!?」
彼はイオアナを見下したように見る。
「複数の瞳術を同時に使えることは、魔族との戦闘で見せている。おまえらと来たら情報共有をせず、手柄ほしさに突っ込んでくる奴らばかり。少しは学習しろよ、サル以下」
ビキッ!
「黙れ……黙れ黙れぇえええええええ!」
イオアナは銃口をアインに向ける。
「遅えよ」
虚無を使ったテレポートで、アインはイオアナの間合いの中に一瞬で入る。
イオアナから吸い取り、さらに膨大となった闘気を、剣に全集中させる。
「バカな!? サルのくせに! パワーアップしたボクを上回るなんて!」
「おまえがいつまでも人間をサルと侮る限り、俺に勝てねえよ」
アインは闘気を剣に乗せ、強烈な一撃、イオアナにお見舞いする。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
力の奔流は、イオアナの体を飲み込み、やがて跡形もなく消し飛ばしたのだった。