117.シェリア、魔族化しても鑑定士に勝てない
女医エドナの手により、シェリアは魔族化した。
話はその数十分後。
彼女は王のいる、謁見の間までやってきた。
「国王陛下ぁ♡」
だだっ広いホールの最奥に、玉座が1つある。
何かの謁見途中だったのだろう。
国王以外にもその場にいた。
「おぬし……シェリア、なのか?」
「ええ、そうです。見てください、新しい力を手に入れた私の姿を」
謁見の間にいた近衛騎士たちは、シェリアから発するただならぬ気配をすぐさま察知した。
ガチャガチャガチャ……!
シェリアの前に、近衛騎士たちが集う。
「ここは通しませんよ、シェリア元団長!」
近衛騎士のひとり、パメラが、大盾を構えていう。
「……どけ雑魚が。私は陛下に用事があるんだ」
シェリアは、路傍の石をみる目で、近衛騎士団たちを見下ろす。
「雑魚ってよく言うぜ! パメラに負けたくせに!」
だっ……! と男騎士のひとりが、剣を構えて走り出す。
「ま、待って! うかつに飛び出すのは危険です!」
「でりゃああああああああ!」
騎士が剣を、振り下ろす。
シェリアは剣の柄を握り、少し抜いて、元に戻した。
キンッ……!
「ぐあぁああああああああ!」
男騎士は突如、悲鳴を上げた。
」
「腕が! 腕がぁああああああ!」
彼の両腕が、切断されていたのだ。
「い、いったい何をしたんだ……?」
「くそぉ! 喰らえ!」
槍を持った騎士が、シェリアに一撃を食らわせようとする。
シェリアは先ほど同様、剣を少し抜いて、戻した。
キンッ……!
バラッ……! と槍が腕ごと、みじん切りにされた。
「うぎゃぁあああああああ!」
「な、なんだこの人……めちゃくちゃ強くなっている!?」
近衛騎士たちは警戒し、シェリアから距離を取る。
注意深く、相手の動向を探ってくる。
「私が何をしているのか……サルの貴様らには、理解できないようだな」
シェリアは教わったわけでなく、元部下たちをサル呼ばわりした。
「目を見開け。そしておののくがいい。我が必殺の【神速剣】を」
シェリアは体から噴出する闘気で身体能力、そして剣速を上昇させる。
キン……!
「ぐぁ!」「ぎゃッ……!」「うぎゃぁああああああ!」
近衛騎士たちは武器ごと四肢を切断され、その場にうずくまる。
「弱い! もろい! 人間とはなんて脆弱なんだぁああ!」
何もシェリアは、特別なことをしたわけではない。
光を越える速さで剣を抜き、そして周囲にいる近衛騎士たちを切り刻み、鞘に戻しただけだ。
「見てくださいましたか、国王陛下ぁ……
♡ 私、強くなりましたよぉ」
一歩一歩、シェリアは国王に近づく。
彼は厳しい表情を崩さぬまま、玉座に座っていた。
その背後に、宰相など臣下たちが震えている。
「行かせません!」
半壊した大盾を構えながら、パメラがシェリアの前に立ち塞がる。
「消えろ、落第騎士が!」
キンッ……!
がぎぃいいいいいいいいいいん!
「くっ……!」
「ほぉ……? 今の一撃を防ぐのか。やるじゃないか、サルのくせに」
シェリアの一撃を、パメラはなんとか耐えた。
だが大盾は今のでボロボロになった。
「どけ。次は殺すぞ?」
「どきません!」
パメラは毅然とした表情で、シェリアをにらみ返す。
「その程度の力で、私を倒せると思っているのか? 思い上がるなよサルが」
「違います! 力を持つものは、弱い人たちを守るために最後まで戦うべきだと、アイン団長に教わったから!」
「……アインアインって、むかつくんだよ、おまえらぁあああああああ!」
ゴゥッ……!
感情に呼応して、シェリアの体から、どす黒い闘気が噴出する。
常人なら気圧されるだろう。しかし、パメラは一歩もそこからどかなかった。
「死にさらせぇえええええええええ!」
シェリアは闘気の乗った神速に一撃を、パメラの胴体に向かって振り下ろした。
ガギィイイイイイイイイイイイン!
「おおっ! アイン君!」
「団長!」
シェリアの剣を受け止めているのは、少年アインだった。
「アイン……また、貴様かぁああああ!」
アインは剣を振る。
攻撃が当たる前に、シェリアは後に下がる。
「団長だ!」「アイン様が来た!」
地面に転がる近衛騎士たちの顔に、希望の光がともる。
「シェリア……おまえ、何やってるんだよ……? どうして魔族になんてなったんだよ?」
彼の目は、シェリアの状態を見抜いているようだった。
「ハッ! 決まってるだろ! 貴様を殺して、国王陛下に認めてもらうためだぁ!」
狂気の笑みを、シェリアが浮かべる。
「見ていてください国王陛下ぁ! あなたのシェリアが! このクソ劣等種のガキをぶっ殺して見せまぁあああす!」
シェリアは鞘から刀身を抜く。
「勝負だアイン! 我が必殺技で! 貴様を消し飛ばしてやる!」
大量の闘気が体から吹き出し、シェリアの体に纏う。
「ウルスラ。みんなを安全なところに転移させてくれ」
一瞬で、周囲にいた人間たちが消える。
「塵芥と化せ! 【天衣無縫】!」
シェリアは闘気で強化した状態で、絶技を発動させた。
ゴォオオオオオオオオオ…………!!
彼女の周囲にある物体が、チリと化してくる。
「闘気で強化した我が神速の剣から繰り出される、広範囲の超攻撃……躱せるものなら躱してみろぉお!」
攻撃範囲が、どんどんと広がっていく。
「…………」
アインは回避することなく、剣を手にした状態で、一歩も動いていなかった。
「どうしたアイン!? 我が必殺の剣を前に恐怖で動けぬか! 臆病者のサルめ!」
ゴォオオオオオ…………!
シェリアの剣は、天上を削る。
「最強の騎士は私だ! 陛下の騎士は私だけで十分なんだよ! 死ねザコがぁああ!」
シェリアの剣が、アインに届く寸前。
彼は闘気を込めて、剣を横に、思い切り振った。
ズバァアアアアアアアアアアアアアン!
「ぐぁあああああああああ!」
彼の放った一撃に押され、シェリアは背後に吹っ飛ぶ。
ドガァアアアアアアアアアアアン!
謁見の間の壁を突き破り、シェリアは城の外へと吹っ飛ぶ。
無様に2回3回とバウンドし、地面に転がる。
「な、なんだ? 何が起きたんだ……?」
呆然とつぶやくシェリアの前に、アインが転移してくる。
「おまえ、強くなった気でいるけど、逆に弱くなっているぞ」
「そっ、そんなわけがあるか! 【天衣無縫】!」
闘気で強化した必殺技を放つ。
パリィイイイイイイイイイイイン!
シェリアの剣は弾かれて、自分の手を離れる。
「ば、バカなバカなどうして!? 神速の剣がなぜ見える!?」
「おまえは確かに強くなった。けど力任せに振ってるだけの雑な剣だ。俺の目には攻撃の隙が、前よりもハッキリと見えてたぞ」
アインはシェリアを冷たい目で見下ろす。
「おまえ、弱くなったな」