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116/244

116.シェリア、闇落して魔族となる




 鑑定士アインが、上級魔族3体を相手に勝利した、数日後。


 王城。

 地下牢にて。


 元騎士団長シェリアは、ひとり、牢屋のなかでうずくまっていた。


「…………」


 元々は美しい顔が、今は憔悴しきっていた。


「シェリアよ」

「……国王陛下?」


 牢屋の外には、敬愛すべき国王ジョルノが立っていた。


「反省はすんだか?」


 先日、シェリアは部下に斬りかかった。


 パメラの報告により審問会が開かれた。


 だがシェリアはどうしてこんな蛮行に及んだのか、ハッキリと思い出せなかった。


 その結果、シェリアは当時酒に酔っていた、という結論に至り、牢屋での謹慎処分が下された次第。


「……はい。騎士にあるまじき行為をしたこと、深く反省しました」


「うむ。これに懲りたら、酒はほどほどにしておくのだぞ?」


 国王が軽く苦笑を浮かべる。


 普段なら、彼の寛大な処置に大いに喜ぶところだった。


 だが今、シェリアの胸の内にうずまくのは、別の感情だった。


「……陛下。先日の、魔族による王都襲撃事件は、その後どうなったのですか?」


 トレントが軍隊で王都を襲撃した。


 その知らせを、シェリアは牢屋のなかで聞いた。


 彼女はここを出せ! とがなり立てた。


 自分がいって国を守るのだ! と。


 ……だが外に出させてもらえなかった。


「アイン君とレーシック近衛騎士団の面々の活躍により、無事王都の平和は守られたぞ」


「……そう、ですか」


「凄まじかったぞ。魔族トレントの群れを近衛騎士たちが華麗に片付けていった。そして何より圧巻だったのは、アイン君の強さだなっ」


 国王の頬が緩んでいる。


「上級魔族3体を相手に、見事な戦いっぷりを見せてくれた! さすが我が国最強の騎士だと深く感心したものよ」


 ガンッ! と後頭部を強く、殴打されたような気がした。


【我が国最強の騎士】

 それは……本来、シェリアが持っていた称号だった。


「さすがはアイン君だ。大将として申し分ない傑物よ」


 ……やめて。アイツを褒めないで。


「あれだけの強さを持ち、部下たちも強くするなどなかなかできるものではない」


 ……どうして、わたしより、あんなやつを褒めるの。


「強さだけでない、彼は優しさも持っている。それはひとえに、弱さを知っているからだろうな」


 ……やめてよ。聞きたくないよぉ……。


「シェリアよ。戦線復帰したら、彼の下でしかと、強さを学ぶのだぞ。よいな?」


 ……ふと。

 気付くと国王はいなくなっていた。


 シェリアはその場でうつむき、呆然としていた。


「こんばんは、シェリア」


 麗しい見た目の女医エドナが、牢屋の外で微笑んでいた。


「酷い顔。ちゃんと寝てる?」


 シェリアはエドナを無視してうつむく。


「アイン君。すごいわね、彼。騎士団をあんなに強くしちゃって、みんな言ってるわ、団長が【替わったから】強くなったって」


「……やめろ」


「国王様も大喜びよ。赤の剣を魔族の大軍すら退ける部隊にまで成長させたって。さすがアイン君だって」


「やめろぉおお!!!」


 シェリアは耳をふさいでうずくまる。


「団員たちもみんな言ってるわ。アイン団長はすごいって。元団長は自分の手柄しか考えてない、突っ込むことしか能のない女だって」


「聞きたくない! 聞きたくないよぉおおおおおおお!」


 シェリアは耳をふさぎ、ぶんぶんと頭を振る。


 だがエドナの声は、鮮明に聞こえる。


「みんなが求めるのはあの鑑定士なのよ。無能な女リーダーは、要らないの」


「ひぐ……ぐす……どうしてぇ~……?」


 涙と鼻水で、顔をグズグズにぬらしながら、シェリアは情けない声で言う。


「なんで、みんなあいつばっかり……私だって、頑張ってたじゃんかよぉ……」


「仕方ないわ。みんな目に見えない努力より、結果しか見てくれないのよ」


 いつの間にか、エドナは自分のとなりにいた。優しく頭を撫でてくれる。


「あなたはよく頑張ってる。幼少のみぎり、戦争孤児となった自分をひろってくれた国王に、深い感謝を捧げているのでしょう?」


「うん……」


「孤児院を出て、騎士学校に入ったのも、国王に恩返しがしたかったからよね? 人一倍努力して、彼を守りたかったからよね?」


「うん……だから、いっぱい……がんばったんだもん……」


「そう、一生懸命頑張って……けど、届かなかった。本物の才能には」


 世の中天才は数多い。

 そのなかで群を抜いているのが、あの鑑定士の少年だ。


「わかってた……私には……才能が無いって……。どれだけ頑張っても本物には勝てないって……けど、けどあきらめたくなかった」


「どうして、あきらめたくなかったの?」


「……国王様に、認められたかったから」


「そうね。けどその国王様はあなたを見捨て地下牢へ押しやり、アインの大活躍に大喜びしてたわね」


「もう……お仕舞いだ……私は、用済みなんだ……」


 するとエドナが、にぃ……と薄く笑う。


「いいえ、そんなことはないわ。諦めるのは早すぎる」


 エドナは胸の谷間から、何かを取り出す。

 それは、赤い色をした宝玉だった。


「これを使えば、あなたはアインのように強くなれるわ」


 宝玉は、どくんどくん、と脈動していた。


 瞳孔が縦に割れており、ともすれば生物の眼球に見え無くない。


「実はアインは、少し前まで最弱だったのよ。けど彼は手に入れたの。素晴らしい【目】を」


 にんまり、とエドナが笑う。


「アインと同じ目を持てば、シェリア、あなたはまた輝けるわ」


「……そうすれば、国王様は、また私を見てくれる……」


 シェリアは悩む。

 だが結局、こくり、とうなずいた。


「そう……良い子ね」


 エドナは宝玉を手にし、シェリアの右目に、突き刺す。


「ーーぁあああああああああああ!!」


 シェリアはその場にうずくまり、もだえ苦しむ。


 右目から溶解毒を流し込まれているようだ。


 神経を、細胞を、内臓を……自分を構築してる全てがドロドロに溶けていくようだ。


 凄まじい悲鳴が地下牢に響く。


 ややあって。


「はぁー……はぁー……はぁー……」


 さっきまでの痛みが、嘘みたいに引いていた。


 何かが変わったのか、わからない。

 ただ、肌の色が……浅黒くなっていた。


 視界は明瞭。

 ただし、赤みがかって見えている。


「素晴らしいわ、シェリア。完璧な【魔族化】よ」


「まぞく……か……?」


「あのゾイドとか言う小僧は不完全だったけど、あなたは違う。完全な形で、生物として一つ上の階段を上ったのよ」


 エドナは微笑むと、どこからか剣を取り出す。


 シェリアはそれを手に取って、軽く振った。


 ズバンッ……!


 地下牢の石壁が、容易く切断されていた。


「ははは! これが求めていた力だ! これさえあれば国王様は私のことを見てくれる……!」


 真っ赤に染まった目を輝かせ、シェリアが叫ぶ。


「それじゃあ、まずは国王様に、その力をお披露目しに行きましょうか」

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― 新着の感想 ―
同じパターンの繰り返しなのですね。 この物語は ・・・ 正しく『ライトなノベル』ですな。 感動は無いけど、爽快感は有ります。
[一言] シェリアお前アインを平民とバカにしながら自分も孤児じゃねぇかよw
[一言] シェリアちゃんやっちまったか・・・ いっそ騎士引退して国王の側室になれたらよかったのにね
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