115.鑑定士、上級魔族を複数同時に倒す
俺の元に、上級魔族3体が襲ってきた。
王都郊外。
俺の張った結界の中にて。
「くそっ! どうすんだよ【マックスガメ】!」
「そうよ! 閉鎖結界に閉じ込められて、今度はこっちが孤立無援じゃない!」
炎の竜と、下半身が花のドライアドが、二足歩行する亀に問い詰める。
「落ち着くのである、【リザードラ】、【不死姫花】。こちらは3人、向こうは1人。数で勝っているのである」
「た、たしかに! っしゃやんぞみんな! まずはおれから!」
炎の竜が、翼を広げ飛び立つ。
『アインよ。リザードラの羽は1枚1枚が爆弾となっておる。上空からそれらをばらまくつもりじゃ』
「おらぁ! 死ねやぁ!」
ズドドドドドドッ…………!
リザードラが羽ばたくと、数え切れない羽が、垂直に落下してくる。
「黒姫。結界を」
俺の周囲を、球体状の結界が包む。
ドガガガガガガガガガッ!!!!
結界は爆撃を防いでいる。
だが集中豪雨のように降り注ぎ、爆撃が途絶えることはない。
「こちらもいるぞ! ぬぅん!」
「わたくしの軍団もいますのよ!」
マックスガメ、そしてトレント軍団が、俺の結界を壊そうと、一気に襲いかかってくる。
「どうした防戦一方じゃねえか!」
「問題ない」
俺は結界を発動。
ただし、上空のリザードラを包み込むようにして、結界を張る。
「こんなことして何になるってんだよ!」
黄金の闘気が、俺の左目に集中していく。
左目が、より一層、鮮やかな赤色に輝く。
ボシュッ……!
「なっ!? ばっ、バカなぁああああああああああ!?」
「うそよ! リザードラが一撃でやられるなんて!」
結界内にいたリザードラは、虚無の力で消し飛んだ。
「ばっ、バカな!? いったい何が起きたのだ!?」
「それをおまえらに説明する義理はない」
俺は結界を解いて、精霊の剣で、マックスガメ、そしてトレントの打撃攻撃を、パリィする。
パリィイイイイイイイイイイイン!
取り囲んでいた魔族たちは吹き飛び、距離が空く。
『さすがじゃな、アインよ。よもや闘気で、おぬしの【義眼】さえも、強化するとは』
闘気はかなり応用が利く。
武器に纏えば威力等が強化される。
ならば、俺の左目の【神眼】すらも、強化可能だと思ったのだ。
結果は、ご覧の通り。
上級魔族すらも、【虚無】の一撃で吹き飛ばせるようになっていたのだ。
もっとも、一撃には闘気と魔力を消費するので、連発はできないけどな。
「あと、2体」
「い、いやぁ! 出して! ここから出してぇえええええええええ!」
不死姫花が結界から逃げようとする。
トレントの統率が、乱れた。
「落ち着くのである! 包囲殲滅をすれば勝てるのである!」
「やだぁああああ! 死にたくない! 死にたくないぃいい!」
俺は右手をバッ……! と天上にかかげる。
「お返しだ。【爆撃攻撃】」
俺の右手から、無数の炎の羽が吹き出る。
それは、さっきリザードラがやって見せた、炎の羽による爆撃。
ウルスラがすでに、この三体の能力はコピー済みである。
ズドドドドドドドドド…………!!!
羽は1枚1枚、正確にトレントたちを爆撃していく。
『能力に【精密射撃】、そして闘気を混ぜることで、一撃必殺の範囲攻撃をしているわけか。さすがの応用力じゃ、アインよ』
「もうやめて! わたくし降参するわ!」
「愚か者め! 上級魔族に降参の2文字はない!」
「うるさいわよ! やりたきゃあんたがひとりでやればいいじゃない!」
俺は【虚無】によって、不死姫花との間にあった距離を消し、やつの前にテレポートする。
「いやぁ! 助けてぇ!」
ズバンッ……!
「残り1」
不死姫花を屠った剣を、俺はマックスガメに向ける。
「ば、バカな……上級魔族3体を相手に、圧倒しているだと……!」
亀が冷や汗をかいていた。
「1体でも比類無き強者、それが3人手を組んでいるのに、なぜこうも勝てないのだ……!」
「そりゃ簡単だ。おまえらは集まってるだけで、力を合わせてないからだ」
俺は【千里眼】で外の様子を見やる。
トレントは近衛騎士団によって、あらかた殲滅していた。
「自分が誰よりも強いと思ってるやつらが3人集まったところで、所詮は烏合だ。互いの弱さを知り、補おうとする、俺たち人間にかなうわけがない」
「サルの分際で……偉そうにしよって!」
マックスガメは両手を胸の前に合わせる。
「【不動要塞】!」
突如、マックスガメの体表が硬化していく。
1歩も動けなくなる代わりに、ダメージを受けなくなる能力だ。
「そして【水砲撃】!」
亀の周囲に、無数の水の球が浮かび上がる。
「撃てぇ!」
命令に従い、水の球から、超高圧の水が
発射される。
ドバァアアアアアアアアアアアア!!
俺は鑑定で攻撃の軌道を見切り、それを回避する。
「ふはは! どうだ! 不動要塞でガードを堅め、この無数の砲撃で相手を削る! 我が必殺の陣形である!」
ドバァアアアアアアアア! ドバァアアアアアアアア!
水の砲撃が、四方八方から俺を狙い撃ってくる。
結界でもパリィでも防げない未来が、【千里眼】を通して見えた。
俺は神眼で攻撃を見切り、回避していく。
「それだけできんなら、あの2人を連れてくる意味なかっただろ?」
「あやつらは肉の盾よ! サルの相手をさせているそばで、砲撃で貴様もろとも葬る作戦だったのよ!」
ドバァアアアアアアアアアアア!
砲撃による一斉掃射。
俺は【虚無】による瞬間移動でそれを回避し、マックスガメの懐に入り込む。
「斬撃か!? 虚無か!? 遅い! 死ねぇえええええ!」
高速の砲撃が、俺の体を貫こうとする。
「おまえがな」
俺は闘気で身体能力を向上させ、亀の土手っ腹に、強烈なパンチをお見舞いする。
ズガンッ……!
マックスガメは上空に吹っ飛んでいく。
「バカめ! 不動要塞でダメージは効かぬわ!」
「けど、距離が空いたことで、隙ができた。【鑑定】」
俺の鑑定能力により、マックスガメの能力が、目の前に表示される。
ボシュッ……!
「ば、バカなぁ! どうして我の能力が消えたのだぁ!」
俺は闘気で身体強化、そして剣の威力を増強する。
「それゴーマン戦で見せただろ。闘気による能力強化も他のヤツが見たはずだ。おまえらは仲間内でそれらを共有しなかった」
俺は限界まで闘気を練り上げ、斬撃の威力を上げる。
「おまえらの敗因は、仲間と協力しなかったことだ」
俺は、上空めがけて、剣を縦に振った。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
マックスガメは、俺の一撃を受けて死亡。
ふぅ……とため息をつき、結界を解く。
「「「団長! 勝ちましたよ!」」」
遠くで仲間たちが勝ちどきを上げている。
俺は右手を上げて応えたのだった。