114.上級魔族、結託し奇襲をかけるが失敗
鑑定士アインの騎士団が、魔族を撃破した、数日後。
魔界。
大会議場にて。
「まったく嘆かわしいのである。上級魔族は3人死亡。1人は敵の軍門に降るとは……」
黒い巨体に、二足歩行する亀【マックスガメ】が、ため息をつく。
「ほーんとどいつもこいつも雑魚ばっかで嫌になるぜ~」
炎の翼を持つ竜、【リザードラ】が小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「まったく、負け犬どものせいで、わたくしたちの評価まで下がってしまうじゃないですの」
下半身が巨大花のドライアド、【不死姫花】が、同意するようにうなずく。
「そう言わないで3人とも。死んでいったみんなは、よくやってくれたわ」
エキドナが、空席を見て言う。
「しっかしあいつらが連敗したことで、サルに調子づかれるのは、なんつーかしゃくなんだがよぉ」
リザードラの言葉に、マックスガメがうなずいて言う。
「では、ここらで上級魔族の恐ろしさを、サルどもに教えてやるのはどうだ?」
「あん? どーゆーことよ、亀さんよ」
「つまり我、リザードラ、そして不死姫花の3人で、総攻撃を仕掛けるというのはどうかね?」
はぁ~? と二人が首をかしげる。
「おいおい亀さんよぉ。3人もまとまっていったら過剰戦力にならねーか?」
「あんなサルごときに、上級魔族が3人なんて必要ないですわ!」
「まあ落ち着くのである。サルたちにこれ以上自信をつけさせないためにも、調子に乗っている今ここで一気に叩く必要があるとは思わぬか?」
マックスガメの説明を聞いても、リザードラと不死姫花は、不服そうにしていた。
「エキドナ殿はどう思われるか?」
「そうね……マックスガメの言うとおり、今回は三人で仲良く、アインを殺してきて欲しいわ」
それを聞いたリザードラと不死姫花が、不承不承、立ち上がる。
「じゃあマックスガメ、指揮は頼むわね」
「お任せあれ、エキドナ殿。ゆくぞ、盟友たちよ」
マックスガメは、残りふたりを連れ、会議室を出る。
「で? 亀さんよ、作戦はどうする?」
「我が【閉鎖領域】で鑑定士を閉じ込めるから、不死姫花は【植物軍団】で地上から。リザードラは上空から【爆撃攻撃】で総攻撃を仕掛けるぞ」
「そんな最初から本気を出して良いのかしら? 少々華がなくって?」
「ま、いいんじゃね? サルがいつまでも幅をきかせてるのは腹立ってたし~」
かくして、魔族3人は、鑑定士アイン討伐のため、人間界に向かった。
ややあって。
「ふむ、どうやらここは王都郊外の森の中のようだ。不死姫花、準備を」
「しかたありませんわね」
不死姫花は指の腹を歯で噛み切って、その血を地面にぽた……ぽた……と垂らす。
血が地面を、そして地に根付く植物たちへと染み渡る。
ずぞぞぞぞぞぉ…………!
周囲の木々が、突如として動き出した。
枝が手足のように伸び、幹には人面が浮かぶ。
「相変わらず不死姫花の【植物軍団】はチートだわ。血を与えた植物を魔族に変える能力なんてよ」
「無数に自生する植物たちが、いっせいに魔族となって襲いかかってくる。サルにしてみれば悪夢であるな」
ふっ……と不死姫花が優雅に微笑む。
「お行きなさい。アインを町ごとすりつぶすのです」
ずぞぞぞぞぉ……!
木の魔族【上級トレント】たちが、いっせいに動き出す。
津波の如く、大量のトレントたちが、王都に押し寄せる。
そのときだ。
ボシュッ……!
先頭を走るトレントの一群が、いっせいに消滅したのだ。
「来たな、非魔族のサルよ」
上空に浮揚しているのは、鑑定士の少年アイン・レーシックだ。
「おサルよぉ。わりぃけど、最初からマジでいかせてもらうぜぇ?」
「【閉鎖領域】!」
マックスガメが柏手を打つ。
突如、彼を中心として、魔法陣が展開。
ブシュゥウウウ…………!!!
魔法陣から黒いガスが噴出し、アインと上級魔族、そしてトレントたちを覆い尽くす。
やがて、黒いドームが、アインたちの周囲を包んだ。
「……対象を閉じ込める結界か?」
アインが周りを見渡していう。
「ご明察。術を解かぬ限り何人たりとも破れぬ絶対防御の結界である」
「外からの救援は絶望的ですわ。なぜなら、結界の外のトレントたちが、お仲間たちの住む王都を今頃破壊し尽くしてますの」
にやにやと不死姫花が余裕の笑みを浮かべる。
「孤立無援、周囲には大量の魔族。街の危機にかけつけないとという焦燥感の中、上級魔族3体と戦わないとイケナイなんてよぉ。こりゃ終わったな」
3人は、アインの絶望した顔を期待した。
「問題ない」
だが彼は至って冷静だった。
アインの左目が、鮮血に染まる。
「【虚無】の力であるか? 無駄である! 我が【閉鎖領域】は四方八方を囲むガスの結界! 消失させるそばからガスが覆い穴を防ぐ! 絶対に破れぬ結界よ!」
ボシュゥウウ…………!
「な、なんだとぉおおおおおおお!?」
突如として、周囲を覆っていた暗闇が消失したのだ。
アインは結界を破り、全員は青空の下にさらされる。
「ば、バカな!? なぜ四方を囲む結界が全て破られる!? 視界に入れたものしか消せないのだろうが!?」
「俺の【千里眼】は、正面だけでなく四方八方を視界に入れることができる。あとは虚無で消し飛ばした」
「瞳術の複合技だと!? い、いつの間にそんなことができるようになったのだ!?」
「おまえらが偉そうにイスにふんぞり返ってる間、俺たち人間は常に進化し続けてきているんだよ」
マックスガメは動揺を隠しきれなかった。
「慌てないでマックスガメ。こちらにはわたくしの植物軍団がいる。街の人間たちを人質に、有利に戦闘を進めればいいわ」
不死姫花がにやりと邪悪に笑って言う。
「おまえら、ほんとアホだな。後ろ見てみろよ?」
アインが後を指さす。
そこには王都の城壁がある。
「なっ!? む、無傷ですって!?」
城の城壁はいっさい傷ついていなかった。
あわてて不死姫花は、植物軍団の目を通して、中の状態を確認する。
「ば、バカな!? サルたちが、わが軍団を殲滅していっていますわ?」
上級トレントは、1体で男爵級の魔族の強さを持つ。
それが無数に襲いかかっているのに、騎士たちは余裕でそれらを退けていた。
「ご自慢の軍団が壊滅したら、俺の仲間が大量にこっちに流れ込んでくるぜ?」
「くっ……! おいやべえぞ! おれは撤退するからな!」
バサッ……! とリザードラが翼を広げ、逃げようとする。
ブシュウウウ…………!!
周囲を黒いガスが覆い、リザードラたちを閉じ込める。
「なっ!? 閉鎖領域だと!?」
「亀からコピらせてもらったよ」
アインが右手に剣を出現させる。
その瞳に、マックスガメたちは恐怖を覚えた。
「遊びは終わりか? なら次は、俺のターンだ」




