113.魔族、近衛騎士団の力を侮り敗北
鑑定士アインのもとに、団員たちがお宅訪問した、数日後。
ひとりの男爵級(序列5位)魔族が、人間界に降り立った。
【ヒポポ】
二足歩行するカバの魔族だ。
例によってアインの仕掛けた転移結界によって、敵は王都郊外の草原に出現。
「あん? なんだ……てめえらぁ……」
ヒポポが見たのは、鎧を纏った人間の集団だ。
「我らは王国騎士団。魔族ヒポポ、貴様を討伐する」
騎士の一人が剣を向けてくる。
「ぷぎゃーはっはっは! おいおいマジかよ。弱くて有名な王国騎士団さんですかぁ~?」
ヒポポは腹を抱えて笑う。
「知ってるぜぇ~? おまえら、氷巨象ごときに壊滅させられたんだってなぁ~?」
氷巨象を放ったのが、自分の上司だったから、知っているのだ。
「Sランクごときにやられちまう、弱っちい騎士様が? おれを討伐? おいおいおいおい、やめといたほうがいいぜぇ~?」
すっかりヒポポは、調子に乗っていた。
「おれ、魔族だぜ? 超強いぜぇ? おまえら雑魚が何人束になろうと絶対に勝てないぜぇ~?」
彼らの絶望に沈む表情を楽しむために、ヒポポはおどした。
だがしかし、騎士たちの表情に怯えはない。
「全員、戦闘準備!」
「「「ハッ……!」」」
騎士たちは武器を抜いて、ヒポポに向かって構える。
「まったく、無駄だとわかっていてもおれたちは戦わなければならないってか~? あー、かわいそ。アインはなにしてるのかね~? こぉんな雑魚、1秒で倒しちゃうぜぇ?」
「総員、かかれ!」
「しかたねぇなぁ。見せてやるよ、魔族の恐ろしさをなぁ!」
ヒッポリアスは体をぐぐっ、とそらす。
頬を膨らませ、【激流】という能力を発動。
口から大量の水を吐き出し、周囲の敵を一掃する能力だ。
ドバァアアアアアアアアアアア!!!
大量の水が凄まじい速さで、騎士たちに襲いかかる。
「はい終わり終わり~。やー雑魚だったわぁ」
……ヒポポが余裕でいられたのは、ここまでだった。
水が引き、騎士たちが押し流されたと思った……そのときだ。
「なっ!? なんだと!?」
大盾を構えた少女が、立っていたのだ。
「ば、バカな!? 激流に耐えたというのか!?」
驚くヒポポの背後に、片手剣を構えた騎士がいた。
「ば、バカな!? 【背面攻撃】だと!?」
騎士はそのまま、剣を一閃させる。
ザシュッ……!
「うぎゃあああああああああああああ!」
ヒポポの右腕が切断される。
「く、くそがぁあああああああ!」
【激流】を発動。
だが水流を騎士が、【飛翔】し、それを華麗に避ける。
ボシュッ……!
「うぎゃぁああああああ! 足がぁあああああああ!」
騎士が放った矢が、ヒポポの足を吹っ飛ばしたのだ。
「総員! かかれぇ!」
ザシュッ! バシュッ!
ズシャァ……!
「ひぃ~……ひぃ~……」
ズタボロになりながら、ヒポポは地べたを這いつくばって逃げる。
「な、なんだこいつら!? 少し前はSランクにすら負けた雑魚だったのに!」
逃げていった先に、杖を持った騎士がいた。
騎士が杖の先を、ヒポポに向ける。
「【煉獄業火球】!」
ドガァアアアアアアアアアアアン!!
極大魔法をもろに受け、ヒポポはそのまま吹き飛んだ。
首だけになって、ヒポポは地面に転がる。
「ありえない……こんな、名前も知らないような雑魚に、魔族であるおれが負けるなんて……」
ヒポポは失意のどん底に陥った。
「これで終わりだ!」
騎士の一人が、剣を振り上げた……そのときだ。
「調子に乗るのは、そのくらいにしておけよ、サルどもめ」
ヒポポの上空に、【ゲート】が出現。
そこにいたのは、侯爵級(序列2位)の魔族、【百角】エッゾ・ジカだ。
「エッゾ様ぁ!!!!」
「まったく……ヒポポ。なんて醜悪な姿。人間の、しかも騎士ごときに負けよって」
上空からエッゾがヒポポを見下ろす。
「ふんっ! まあ説教は後にしておくか」
ギロッ……とエッゾが騎士たちを見下ろす。
「三下相手に随分と調子に乗ってくれたようだな、サルども。私が本物の絶望を教えてやろう」
エッゾがぐぐっ、と体を縮める。
頭部の、鹿の角が、ドクンッ! と脈動した。
ずぉおおおおおおおおおおおおお!!
「角が伸びたぞ!」
騎士たちが避ける。
だが角は自動追尾機能が付いていた。
騎士たちの肩や腕にダメージを与える。
「きゃっ……!」
大盾使いの騎士の防御すらも、貫通していた。
「くそっ!」
剣を持った騎士が、背面攻撃を行う。
「愚かな」
ザシュッ!
「くっ……!」
伸びた角が、背後の騎士の肩を貫く。
「はーっはっはー! てめぇらちょっと強くなったからって、所詮男爵級を倒せる程度の力しかねえんだよぉおお!」
ヒポポが勝ち誇った笑みを浮かべる。
騎士たちはそれを聞いて……苦笑した。
「やっぱりかー」
「団長の言ってた通りだったな」
「ど、どういうことだっ!? エッゾ様を前に、どうして絶望しない!?」
「そりゃあんたに上司がいたように、ウチらにも最強の上司が付いてるからね」
「ほざけ! エッゾ様! こいつらを殺してください!」
「良かろう。……死ぬが良い!」
そのときだった。
ズバァアアアアアアアアアアアアン!
遥か遠くから、黄金のエネルギー波が飛翔し、エッゾの右腕を吹き飛ばしたのだ。
あの一撃を避けられたのは、奇跡としか言いようがなかった。
「あ、アイン!?」
上空から、鑑定士アインが降りてきたのだ。
アインは左手を騎士たちに向ける。
すると瞬時に、彼らの傷が癒えた。
「は、ハッ! 所詮非魔族のサルだ! わが百角の威力、思い知れ!」
ずぉおおおおおおおおおおおおお!
無数の角が、アインめがけて伸びる。
だが彼は冷静に、持っていた剣を一振りする。
パリィイイイイイイイイイイイイン!
「ば、バカなぁ! あの数をパリィしただとぉお!?」
驚くエッゾの、がら空きになった胴体に、アインが闘気のこもった一撃を放った。
ズバンッ……!
強烈な斬撃を受け、エッゾは絶命。
「ば、バケモノだ……」
ヒポポは呆然とつぶやく。そして失血多量で死亡した。
「アイン団長!」
ワッ……! と騎士たちが集まる。
「みんな、よく頑張ったな」
「魔族を倒せるようになったのは、団長のおかげです!」
「ありがとうございます、団長!」
団員たちはアインに頭を下げる。
「さすがアイン団長! 侯爵級をワンパンなんて!」
「やっぱアイン団長はさすがだわ。ほんと、かなわねえや」
「さっすがおれたちの頼れるリーダーっす!」
「僕も、アイン団長のような強くて頼りになる男になるよう頑張ります!」
……かくして、近衛騎士団は、魔族を倒せるまでに成長したのだった。