112.鑑定士、部下たちにお宅訪問される
国王に訓練の成果を見せてから、数日後。
今日は訓練の休養日だった。
「「「団長! おじゃましまーす!」」」
昼前。
ジャスパーの屋敷に、【レーシック近衛騎士団】の団員たちがやってきたのだ。
「おまえら……なにしに来たんだよ?」
「す、すみません団長……わたし、とめたんですけど、どうしてもみんな団長のお家みたいって……」
パメラが申し訳なさそうに肩をすぼめる。
「団長すっごい豪邸すんでるーって前からうわされてたし~。気になったから来ちゃったんだ~」
先日極大魔法を放った女騎士、【シビア】がヘラヘラ笑って言う。
「いやここ俺の家じゃないんだが……」
と、そのときだ。
「おや? 少年、どうしたんだい?」
屋敷の主であるジャスパーが、俺たちに気付いて近づいてくる。
「ちょっと部下たちが来ててさ。ちょっと中見せてあげていいか?」
「なにを言ってるんだい? ここは君の家だよ。私の許可など不要さ」
ジャスパーは微笑むと、俺のことを正面からハグする。
「だって将来わたしは君の物になるんだ。だったらここは君の家ってことだろう?」
「「「きゃ~~~~~♡」」」
女騎士たちが、好機の目線を俺に向ける。
「えー! 団長って大富豪のジャスパー様と結婚するんですか~?」
シビアが目をキラキラさせながら俺に問い詰めてくる。
「うう……こんなすごい人と付き合ってるんだ……わたし、かなわないよぅ……」
パメラはなんだかしょぼくれていた。
「というわけで騎士様、どうぞゆっくりしていってくれ」
「「「はーい!」」」
かくして部下たちがお宅訪問に来たわけだが……。
「うわー! でっけー廊下!」
「すごい! こんな大きなお風呂場があるなんて!」
「屋敷でけえ! どこまで廊下続いてるんだよ!」
中を見せるたび、部下たちが歓声を上げる。
「こんなすごいところに住んでいるなんて……!」
「めっちゃ金持ちじゃないですか~。いや~これはますます団長と結婚したくなっちゃったな~」
「「「さすがですアイン団長!」」」
なぜか俺にキラキラした目を、部下たちが向けてくる。
「いや、だから俺んちじゃないってば」
「さっきジャスパー様が将来のフィアンセって言ってたじゃ~ん? あれは嘘だったの~?」
シビアがニタニタ笑いながら、俺の脇腹をつつく。
「し、シビア! アイン団長に失礼ですよ! 離れなさい!」
パメラは顔を赤くして、シビアの腕を引っ張る。
と、そのときだ。
「じ~」
柱の陰から、金髪の美しい少女が、こちらの様子をうかがっていた。
「ユーリ。何やってるんだ?」
柱の陰から、ユーリがにゅっ、と顔を出す。
たたっ、と俺の元まで駆けてくる。
「こ、こほんっ。み、みなさま……ごきげんよう。アイン、の、妻、です♡」
「「「え~~~~~~!?」」」
「ユーリおまえ……なにをアホなことを……」
するとユーリが、ぷくっ、と頬を膨らませる。
「これ以上、こーほ、ふやすの……えぬじー!」
「だだっ、団長! 誰なんですかその人!」
パメラがすごい剣幕で詰め寄ってくる。
「ええっと……その……」
俺が困っていた、そのときだ。
「ほほー。お兄さんがなにやら、楽しそうなことをしてる気配~☆」
「これは恋の戦争が勃発ですかな~?」
にゅっ、と部屋から顔出したのは、クルシュとピナだ。
「ま、また美少女が! ど、どちらさまでしょうかっ!」
パメラがクルシュたちを見やる。
「お姉さんはアイちゃんの……愛人1号だよ~ん」
「アタシはお兄さんのセフレ1号だよ☆」
「「「え~~~~~~~!?」」」」
このアホ姉と妹が……!
俺は二人の手を引いて離れる。
「おまえら! 妙なこと言うなよ!」
「いや~。ごめんねアイちゃん。ほら、楽しそうだったからつい~」
「お兄さんとユーリお姉ちゃんってほら、いじられキャラじゃん?」
意味がわからん……!
「とにかく部下に余計なことを言うな。大人しくしてろ」
「「わかってるってー☆」」
絶対わかってないこいつら……。
パメラたちのもとへいくと、ユーリが騎士たちに囲まれていた。
「すっごー。超美人じゃーん。おはだすべすべ~」
「髪もこんなにサラサラ……どんなシャンプーを使ってるんですかっ?」
シビアとパメラが、ユーリの体を触っていた。
「毎日、女……みがいてますので!」
「「おー!」」
ユーリが初対面の人と楽しそうに話していた。
そう言えば三人とも同い年くらいだろうか。
友達が増えるのは良いことだ。
「団長……」
ゆらり……と男騎士が俺に声をかけてくる。
「ずるいっす団長!」
「こんな美少女の園で暮らしてるなんて! うらやましいっす!」
血涙を流しながら、男の騎士たちが俺の肩を掴んで揺らす。
「お姉さん美少女に正統派の金髪美少女! 小悪魔系妹美少女に文学少女に元気なロリ娘までいるなんて!」
え? と思って周りを見る。
いつの間にかメイとアリスもいた。
「こっちが、メイちゃん。こっちはアリス、お姉様。みんな、アインさん、の、妻、です!」
「「「ええ~~~~!?」」」
ユーリが姉と妹を、どや顔で紹介していた。
「ユーリおまえ! 何やってるんだよ!」
金髪美少女の肩を掴む。
「アイン、さんは……わたしたち、姉妹……みんなの、アインさん、です! なわばり……しゅちょー、です!」
ふんすっ、鼻息荒く言う。
「アリスおねーちゃん、妻ってなんですか~?」
「……さ、さぁ。子供はまだ早いかしら」
「むー! めぃはこどもじゃないですけど! もーおとなのれでーですけど!」
一方で、パメラはその場にしゃがみ込んでいた。
「しくしく……こんなたくさんの美少女に囲まれて……わたしみたいなダサい女じゃ……太刀打ちできないよぅ」
「落ち着けってパメラちゃんにはその大きな武器が2つあるじゃないか。それを使ってこうぜ~」
ぐっ、とシビアが親指を立てる。
「そうだよ~☆ パメラお姉ちゃん、実のところね、お兄さん胸フェチなんだよ~」
ニヤニヤ笑いながらピナがパメラに妙なことを吹き込んでいた。
「そ、そうなんですかっ?」
「そうさ~。アイちゃんってばお姉さんの胸、いっつも釘付けでさ~。いやまいったね~」
こいつらこの状況楽しんでやがる!
「あ、アイン団長! わ、わたし……む、胸は結構ありますから!」
パメラが俺の腕に抱きついてくる。
「アイン、さん……」
ちょんちょん、とユーリが俺の肩をつつく。
「わたし、も……胸、結構あり、ます!」
逆の腕を、ユーリが抱きついてくる。
「美少女を両手にかかえてやがる!」
「さすがアイン団長だ!」
「おれたちにできないことを容易くやってのける!」
「そこにしびれるあこがれるぅ~!」
「おまえら馬鹿にしてるだろ!」
「「「そんなことありません! 尊敬してます!」」」
……その後騎士たちが散々俺をいじった後、楽しそうに帰っていたのだった。