111.鑑定士、進化した騎士団を国王に披露する
俺の元にシェリアが襲撃しにきてから、2週間後。
王城内の、訓練場にて。
俺のとなりには、国王ジョルノがいる。
「ではアイン君。君の部下がどのくらい強くなったのか、早速見せてもらおう」
「わかりました。全員、戦闘準備」
騎士団【赤の剣】のメンバーたちが、いっせいに自分たちの武器を手に取る。
「おや? アイン君。彼らの武器が……みな違うように見えるのだが?」
団員たちの手にはそれぞれ、剣だけでなく大盾、槍、杖など……様々な得物がある。
「赤の剣はみな剣士の集団だと記憶しているのだが?」
「ええ。しかし剣士だからといって、彼らの全員が剣士に向いてるわけではありません」
「ふぅむ……しかし彼らに適性があるからこそ職業が剣士なのだろう?」
「確かにそうなんですけど、たとえばうちのパメラなんかは、剣士の職業ですが刃物で誰かを傷つけるのが苦手です。ただ誰かを守りたいという気持ちは人一倍。なので彼女には【大盾】を装備させました」
「なるほど、本人の資質と性格とが必ずしも合致してるわけではないのだな」
「そういうことです。……よしみんな、始めるぞ!」
俺は地面に手をつく。
【召喚】の技能を発動。
ごごごごごご…………!
「なんと。ベヒーモスだと!?」
見上げるほどの巨大な竜。
古竜ベヒーモスだ。
ランクはSS。
「アイン君。まさか古竜を相手にさせるというのかね? 無茶が過ぎないか?」
「問題ありません。いざとなったら俺が助けます。……訓練、開始!」
俺の命令でベヒーモスが動き出す。
古竜がそのデカい前足を振り上げ、そして勢い良く振り下ろす。
「盾、いきます!」
パメラが大盾を構えて叫ぶ。
「【金剛力】!」
がぎぃいいいいいいいいいいいいん!
「おおっ。あんな華奢な少女が、ベヒーモスの巨体を、受け止めているだと」
ベヒーモスはパメラの構えた大盾の上に足を振り下ろしてる。
だが盾は闘気によって強度が上昇している。
古竜クラスの攻撃ではびくともしない。
「転ばせますよー! たぁー!」
パメラの大盾から、闘気が体表を伝い、足に集中する。
彼女がグッ、と足に力を入れて、盾でベヒーモスを押し返した。
ずずぅうう…………ん!!!!!
「ひっくり返ったぞ! 捕縛組!」
「【粘糸】!」
「【捕縛網】!」
「「重力圧」!」
騎士たちに手から、網と糸が射出される。
ベヒーモスの体を捕縛し、重力場も相まって、動けなくする。
「魔法組が準備してる間、削るぞ!」
「「「了解!」」」
武器を持った騎士たちが、倒れているベヒーモスへと走る。
「いくぜ【斬鉄】! 【斬撃拡張】!」
大剣を構えた騎士が、剣を振り下ろす。
ザシュッ……!
「そら! 【百裂拳】!」
手甲をはめた騎士が、ベヒーモスの横っ腹を殴る。
ズドドドドドドドドド……!
「貫け! 【螺旋弾】!」
弓矢をもった騎士が、矢を放つ。
ズガンッ……!
ベヒーモスの右目を射貫く。
「なんということだ……圧倒的ではないか。SSランクの古竜が、一方的に蹂躙されているぞ……!」
「彼らには闘気武器、そして俺の持っていた能力を分け与えてあります」
「能力。たしか魔物の持つ異能力ときく。なぜ騎士たちが使えるのだ?」
「俺の所有する能力を、【能力・付与】で分け与えたんです」
騎士たちが使っているのは、かつて俺がモンスターたちから得た能力たちだ。
「俺の鑑定能力で、彼らに一番フィットする戦闘スタイルを鑑定し、最適な能力と戦闘方法を指導しました」
「なるほど……君の力で、彼らが真に実力を発揮する形を見いだしたのだな。うむ、さすがだなアイン君」
その後も騎士たちは能力と闘気武器を用いて、ベヒーモスを削っていく。
ガガガッ!
ガキキンッ!
ズガガガガガガガッ!
「みんな、準備オッケーだよ!」
軽装の騎士が叫ぶ。
「アイン君、あの子は杖を持っているようだが。まさか魔法を?」
「ええ。彼女にはその身に莫大な魔力を有していました。ならば剣ではなくそれに適した役割を与えました」
騎士が杖を構えて、ベヒーモスめがけて、放つ。
「【防御無効】! そんでもってぇ【煉獄業火球】!」
ドガァアアアアアアアアアアン!!!
爆撃を受けて、ベヒーモスの体はチリと化した。
「アイン君……私は夢でも見てるようだ。極大魔法を、一介の騎士が使っていたぞ? 王城の宮廷魔導師だって使えないというのに……」
「「「団長ー!」」」
ダダダッ! と団員たちが、笑顔で俺に駆け寄ってくる。
「みてくれましたか、団長!」
「わたしたちの力だけで、ベヒーモスを倒せました!」
「ああ、みんな良くやった。満点だ」
彼らは自信に満ちた表情を浮かべていた。
かつて氷巨象に負けた彼らは、もういない。
「とまあ、国王陛下。こんな感じに仕上がってますが、いかがでしょうか?」
俺は隣に立つ国王を見やる。
「さすがだぞ、アイン君」
国王は満面の笑みを浮かべて、俺の肩を叩く。
「期待以上の成果を見せてくれた! アイン君、そして皆の物、大儀であった」
バッ……! と騎士たちが敬礼する。
「アイン君。やはり君は素晴らしい男だ。君がこの国にいることを、私は誇りに思っている」
「恐縮です。それと、部下たちを褒めてくださりありがとうございます」
「うむ。ところで私は君たちに1つ提案がある」
国王は団員たちを見渡していう。
「団の名前を変えてみてどうだろうか。【赤の剣】は剣士の集団だった。しかしここにいる精鋭たちは、個性を生かした別の武器を使っている」
そこで、と国王が言う。
「諸君らには【レーシック近衛騎士団】の称号を与えよう」
「「「えええええええええええ!?」」」
団員たちが驚愕の表情を浮かべる。
「こ、【近衛騎士】って王のおそばを守る、エリート騎士のことですよね!?」
パメラが国王に言う。
「うむ、そうだ。今は別の団が私の近衛騎士をしているが、今日から君たちが近衛騎士だ」
「「「おおーーーーーー!」」」
騎士たちが歓声を上げる。
「ということで、頼むぞ、アイン・レーシック【騎士団統括】」
「は? どういうことですか?」
「近衛騎士団の団長が、騎士団統括となるのだ。君が繰り上がって、エイレーンは君の下につくことなる」
「え、ええー……あの人がやったほうがいいっすよ。俺に人をまとめるのは無理ですって」
「ははっ。まったく君は本当に謙虚だな。なに、君の部下を見れば安心して任せられるよ」
……かくして、【赤の剣】は近衛騎士団に昇格、俺は騎士団統括となったのだった。