109.鑑定士、部下を迷宮に連れ実践訓練する
ウルスラとデートした数日後。
俺は騎士団【赤の剣】のメンバーたちと、かつてユーリがいた、隠しダンジョンへやってきていた。
『アインよ。ここはクリアしたぞ。なぜまたこのダンジョンへ?』
「団員たちの腕試しだ。どれくらい強くなったのか、実感してもらおうって思って」
隠しダンジョンのなかを、俺はスタスタ歩く。
「あ、あのぉ、団長……」
振り返るとそこには、栗色のショートカットにメガネが愛らしい、女騎士がいた。
「どうした、【パメラ】?」
「こ、ここ隠しダンジョンです、よね。Sランクモンスターが、うじゃうじゃいるっていう……ひぃ!」
泣きそうな顔をしながら、パメラが言う。
周りの団員たちも、同様に、怯えていた。
「心配すんなって。ここら辺のモンスターなんて、おまえら楽勝で倒せるから」
「で、でもぉ……。隠しダンジョンでの実戦訓練なんて、まだ早いですよぅ~」
「安心しろ。おまえらは強くなった。それに、何かあっても俺がいる」
団長なんてガラじゃない。
けど任された以上、俺は部下を守る。
「あ、アイン団長ぅ~♡」
パメラが頬を赤らめて、潤んだ目で俺を見上げる。
「つーことで、ほら、行ってこい」
俺はパメラの背中を押す。
「ほえ? だ、団長……いったい……?」
「グロォオァアアアアアアアアアア!」
「ひぃ! で、死熊ぁあああ!?」
そこにいたのは、懐かしの死熊だ。
Sランクの、巨大な熊モンスターである。
「剣を抜け」
「むむむ無理です死んじゃますぅううううううう!」
パメラは目をグルグル巻きにして叫ぶ。
「大丈夫。今のおまえならできる」
彼女は恐る恐る。腰の剣を抜く。
闘気の付与された剣だ。
ぶぅん……と刀身が、そして、刀身から腕、体へと闘気が伝わっていく。
「グルアァアアアアアアアアアアア!」
死熊はパメラめがけて、その巨大な腕を振るった。
「いやぁあああ死んじゃぅううううう!」
ガギィイイイイイイイイイイイイン!
「いやぁあああああ! ……って、あれ? 生きて……る?」
死熊の攻撃は弾かれ、その場にもんどり打っていた。
パメラはもちろん無事だ。
「ど、どうして? わたし、なにもしてないのに?」
「忘れたのか? 改良された闘気武器の効果を」
「そ、そうでした!」
パメラが剣を見やる。
「その剣には俺の闘気が付与されている。そしてみんなには【闘気操作】の技能を付与した。剣から体へと闘気が流れるように調整されている」
俺は付与術士の【技能・付与】を使って、彼らにスキルを分け与えたのだ。
「ほら、相手はまだ生きてるぞ」
「はい! よぉし! いくぞ! 団長にいいところを、見せてやるんだから!」
パメラは気合いを入れると、死熊めがけて走り出す。
「たぁ!」
ズバンッ……!
「グルォアアアアアアアアア!」
死熊の片腕が、パメラの一撃に乗って、容易く切断される。
敵は逆の腕で反撃を喰らわせようとする。
スカッ……!
パメラはバックステップで、死熊の攻撃を華麗に避けて見せた。
『さすがアインだ。部下たちも闘気による身体強化、なかなか様になってきているではないか』
その後もパメラは、死熊からの攻撃を避け続ける。
たまに反撃を喰らうが、体にダメージは喰らってない。
ややあって。
「とどめよ! せやぁあああああああ!」
パメラは闘気を剣に集中させ、死熊めがけて、上段斬りを喰らわした。
ズバァアアアアアアアアアアアアン!
死熊は縦に切断され、そして絶命した。
「や、やった! やりました、団長ー!」
笑顔のパメラが、俺に向かって走ってくる。
正面から、俺をハグした。
……で、デカい。
胸鎧越しだから、さすがに柔らかさは伝わってこない。
が、その乳房の大きさに、俺は気圧される。
「すげえ! やるじゃんパメラ!」
「あんなデカい敵を、女の子が倒せるなんて!」
仲間たちが、パメラの肩を叩く。
パメラが涙を浮かべながら、俺に近づいてくる。
「わたし……団で一番非力で、弱い、なぜ弱いんだって。シェリアさんにいつも叱られてばかりだったんです」
「そうか。つらかったな」
「けど! 団長のおかげで! Sランクを倒せるほどまでに、成長できました!」
パメラは涙を拭くと、俺の前で、深々と頭を下げる。
「これも全て、アイン様が団長になってくださったおかげです! ありがとうございました!」
赤の剣たちは、みな居住まいを正し、いっせいに敬礼する。
「気にすんな。俺はやるべきことやってるだけだ」
「さすが団長!」「ほんとすごいお人だ!」「すてきー!」「団長! 結婚してー!」
わぁわぁ、と団員たちが歓声を上げる。
「ほらおまえら、気を抜くな。訓練を再開するぞ」
その後、俺は団員たちとともに、隠しダンジョンをうろつく。
「たぁ!」
ザシュッ!
「でりゃぁああああ!」
ズバンッ……!
「おらぁああああああ!」
ザシュッ……! ズババンッ……!
出てくるSランクモンスターたちを、闘気で強化された団員たちが、退けていく。
誰一人として、Sランクに後れを取っているものはいなかった。
ややあって。
俺たちは、迷宮主がかつていた部屋までやってきた。
「いやぁ、おれたち、めっちゃ強くなってねっ?」
「うん! もうSランクなんて楽勝だよ!」
全員が笑顔だった。
来たばかりのときの、怯えた表情はもうない。
彼らの輝く目からは、確かな自信がうかがえた。
「団長! これなら私たち、魔族にだって通用しますよね!」
そのときだった。
ゴゴゴゴッ…………!!!!
「な、なんだ!? 地震か!?」
「あ、あれは!? ご、岩巨人!?」
現れたのは、かつてこの部屋に住んでいた、迷宮主の岩巨人だ。
ウルスラ曰く、迷宮主は時間がたてば復活するらしい。
「あれを全員で倒してみろ」
「「「無理無理無理無理!!!」」」
またみんなが怯えた表情で、岩巨人を見上げる。
「あんなデカいの倒せませんよ!」
俺は精霊の剣を取り出す。
体を少し闘気で強化して、岩巨人めがけて、軽く剣を一閃させる。
ズバァアアアアアアアアアアン!!!!
「う、うそぉ~」「岩巨人が、い、一撃でまっぷたつ?」
迷宮主が倒されて、消える。
「闘気使えるんだから、おまえらもこれくらいはできないとダメだぞ?」
「「「いや! あなたにしかできませんよぉお!」」」
団員たちが叫ぶ。
「いやぁ、さすが団長だ。あれを倒すとは!」
「わたしたち、思い上がってました!」
「団長の強さには遠く及んでませんでした!」
騎士たちが表情を引き締めて、俺を見やる。
「よし、訓練を続けるぞ」
「「「はいっ!」」」