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108/244

108.鑑定士、ウルスラとデートする



 王国騎士団の団長に就任してから、数週間後。


 俺は、ウルスラとともに、王都に来ていた。


 午後。

 王都にある、オシャレなカフェにて。


 外の席に、俺たちは座っている。


「…………うう」


 眼前に座るウルスラは、顔を赤らめて、もじもじとしている。


「どうしたんだ、ウルスラ?」


「こ、このスカート、少し短すぎないか? わしに、こんな若者の服は似合わないだろうに……」


 いつもウルスラは、学者風のゆったりとした服しか来ていない。


 だが今日はシャツにミニスカートと、年相応の可愛らしい格好をしている。


「そんなことないよ。似合ってるって」


「そ、そう……か……。なら……うん、良いかな」


 ふふっ、とウルスラが微笑む。


「しかしユーリたちも変だよな。俺はみんなに、普段世話になってるからケーキ奢るって言ったのに……」


「……気を遣ってくれたのだろう。まったく、孝行娘め」


 ややあって、給仕が注文を取りに来た。


「俺はコーヒーで。ウルスラはどうする?」


 じーっ、とウルスラが熱心にメニューを見ている。


 ぽた……と涎を垂らしていた。


「わしも………………コーヒーで良い」


「えっと……ショートケーキとチョコレートケーキください」


 給仕は頭を下げ、その場を去る。


「か、勝手に選ぶでない。わしは別に、ケーキなど……」


「その割にめちゃくちゃ食べたそうにしたじゃんか」


「ううううるさいわ!」


 ほどなくして、給仕がケーキを持って、俺たちの元へとやってくる。


「ほわぁ~~~~~♡」


 ウルスラは目を子供のように輝かせ、テーブルの上のケーキを見やる。


 彼女の尖った耳が、ピコピコと動いて、それが可愛らしかった。


「涎でてるぞ」

「う、うるひゃい!」


 噛んでいらした。そこまで動揺する?


「ほら、ケーキ食べてくれ。ここは俺のおごりだ」


「ふっ、ふん! まあ別に? ケーキなど? 興味ないが、まあおぬしがどうしても食えというのなら、食べることもやぶさかではないかな!」


「はいはい。どうかお食べください」


 ウルスラはフォークを手に取ると、ショートケーキの端をすくい、パクッと口に含む。


「~~~~~~~♪」


 彼女のエルフ耳が、ピコピコピコ! と激しく上下に動いた。


「なんという……冒涜的な甘さ……♡ 生クリームの甘み、ふわふわのスポンジ……そして、何よりこのイチゴの酸味がたまらぬ……♡」


 はぐはぐ! むしゃむしゃ! もぐもぐ!


 ウルスラの口に、クリームがついていた。

 俺は苦笑し、テーブルの上の紙ナプキンを手に取る。


「ほら、口にクリーム付いてるぞ」


 ん……とウルスラが目を閉じて、俺に口を近づけてくる。

 

 本当に美人だよなぁ。

 精霊たちはみな絶世の美少女だらけだが、ウルスラだって負けず劣らずの美少女だ。


 俺は口元を拭い終える。


「すまんな、手間かけさせて」


「なに言ってるんだよ。いつも世話になってるんだから、これくらいして当然だ」


「そうか……。おぬしは本当に……良いヤツじゃな。ユーリのムコにふさわしいな。……うん」


「また変なことを……って、どうした? 顔暗いけど」


「……別に」


 ウルスラは目を伏せてつぶやく。

 その顔は……なんだろうか、とても切なそうな顔だった。


 元気がないのは、良くないな。


「すみませーん。追加の注文お願いします」


 俺は給仕を呼ぶ。


「ここからここまでのケーキ、全部ください」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 給仕が引っ込み、そしてすぐに、カートを押しながら戻ってきた。


「ほわぁ♡ ケーキの宝石箱じゃぁ~~~♡」


 色とりどりのケーキを見て、ウルスラが子供のようにはしゃぐ。


 給仕はカートを残して去って行く。


「ほら、ウルスラ。これ食って元気出してくれよ」


 トングでケーキを取り、皿にのせて、ウルスラに出す。


「よ、良いのかっ? これ全部……わしが食ってもよいのかっ?」


 目をキラキラさせ、耳を蜂のように羽ばたかせながら、ウルスラが尋ねる。


「おうよ。まあ、さすがに全部は無理だろうけど」


「わかった! ありがとう!」


 がつがつ! むしゃむしゃ!

 ばくばく! もぐもぐ!


「うまい! うまいのじゃー!」


 がががっ! むしゃむしゃむしゃ!

 ばくばくばくばく……!


 ……そして、カートの上から、ケーキが全て消失した。


「はぁ~……♡ 至福~……♡」


 ウルスラは夢見心地の表情で、お腹をさすっていた。


「良かった、元気になったみたいでさ」


「わしは……別に落ち込んでおらぬよ」


「そうか? それなら良かった。おまえの満足そうな顔も見れたし」


 ウルスラはジッ、と俺の目を見やる。


「どうした?」

「……おぬしが食ってないだろうが」


「俺は良いよ」

「よくない。給仕よ! ショートケーキを2つ!」


 ウルスラが呼び止めると、すぐに給仕はケーキを用意して、俺たちのテーブルに置いた。


「ほれ、食べるが良い」


「いいって。そんな腹減ってないんだよ。おまえが食ってくれ」


「そうか。……なら」


 ウルスラは顔を赤くすると、フォークでショートケーキを一口すくう。


 それを、俺に向けてきた。


「ほ、ほれ……あ、あーん」


「は? う、ウルスラさん? どうしたんすか?」


「ぜ、全部は食えぬとはいえ、一口くらいなら食えるじゃろう?」


「いやそうだけど……」


「それとも……わしのケーキは、食ってくれぬのか?」


 さみしそうな表情で、ウルスラが俺に言う。


 ずるい。そんな顔されたら、断れないじゃないか。


「いや、いただく……よ」


「そ、そうか! ほ、ほれ……あ、あーん!」


 ウルスラが顔を真っ赤にして、ぷるぷると手を震わせながら、俺にフォークを向けてくる。


「「「…………」」」


 周囲の視線が俺に刺さる。

 は、恥ずかしい……。


「どうしたのじゃ……? 早く、せぬか……」


「あ、ああ……。あーん……」


 俺は一口だけ食べる。


「ど、どうじゃ……? うまいだろう?」


「あ、ああ……」


 正直気恥ずかしすぎて、味がよくわからなかった。


「な、なにを恥ずかしがっておるのじゃ……?」


「いや、周りからの視線がさ……」


「ふ、ふんっ。良いではないか。こっ、ここここ恋人もこの喫茶店にはた、たたたくさんいるしな! なにもふ、不自然なことはないじゃろう!」


 すると……。


「あの子ちっちゃくて可愛い~♡」


「自分のお兄さんにあーんてしてたわ~♡」


「ほほえましい兄妹ね~♡」


 ……その瞬間、ウルスラの表情が死んだ。


「ふっ……ふふ……兄妹……か」


「う、ウルスラ……? 落ち込むなって……」


「……そうだね-。わし、見た目幼いもんねー。胸、ぺったんこだしー」


 なんだか知らんが、ウルスラが酷く落ち込んでいた。


「えっと……その、きゅ、給仕さん! おかわりを! 追加のケーキをください!」


 ……その後先ほどと同じ数のケーキを食べると、ウルスラの機嫌は回復したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウルスラが可愛くて堪りません(普段とのギャップがw)
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