106.鑑定士、女騎士団長と決闘し余裕勝ちする
王国騎士団【赤の剣】団長シェリアから、騎士団長の座をかけ勝負を挑まれた。
話は数十分後。
王城内の、騎士団訓練場にて。
訓練場は中央に土のフィールド、周りに観戦席がある。
「騎士団最強とアイン様が戦うらしいぞ!」
「注目のカードだ! 見逃せないぜ!」
観戦席はほぼ満席だった。
かなりのギャラリーがいる。
「おい鑑定士。貴様、あの物体を消失させる妙なワザは使うなよ。正々堂々、剣1本で勝負だ」
「わかった。虚無の力は使わない」
「ふん! なにを上から目線で余裕ぶっている。貴様が強いのはあの奇妙な消失のチカラのおかげだろうが。下級職の分際で調子に乗るな」
きびすを返すと、シェリアは俺から距離を取る。
『アインよ。シェリアの職業【聖騎士】は、防御力に優れる。さらに彼女は多くの【奥義】を使ってくるから注意じゃ』
「ありがとう。けどウルスラ。勝負の間、戦術指南しないでくれ。正々堂々と勝負らしいからな」
シェリアは剣を構える。
すぅ……と息を吸い込むと、彼女から圧倒的な気迫を感じた。
「それでは準備はよろしいでしょうか?」
審判役の騎士が、俺たちの間に立つ。
「では……はじめ!」
「いくぞ! 我が必殺の奥義【流星散華】! 死ね!」
シェリアは剣を構えると、俺に向かって凄まじい速さで突っ込んでくる。
まるで流星のごとき一撃が、俺の体を貫こうとする。
がぎぃいいいいいいいいいいいいん!
「なっ……!? ば、バカな!? 防いだだと!?」
彼女の剣先を、俺は剣の腹で受け止める。
「あ、あり得ぬ! オリハルコンすら貫く必殺の突き技だぞ!?」
「剣に闘気を纏わせ、防御力をアップさせたんだよ」
バッ……! とシェリアは俺から距離を取る。
「一の奥義を防いだだけで調子乗るな! くらえ我が二の奥義! 【百花繚乱】!」
シェリアが、凄まじいスピードで剣を振る。
俺は剣を構えて、彼女に会わせて攻撃を放つ。
ガギギギギギギギギギギギン……!
「なっ!? 我が神速の百連撃を、どうして貴様が受けきれるのだ!」
「闘気は身体能力を向上させる。おまえがいくら速い攻撃を放とうと、闘気で強化した体なら余裕でついて行ける」
俺たちは距離を取る。
「アイン様すごい!」
「騎士団長の攻撃を完璧に捕らえてた!」
「あれについていけるって、闘気ってすげえんだな!」
団員たちはこの戦いを見て、闘気に興味を持ってくれているようだ。
だからこそ、俺は彼女と戦っている側面もある。
「と、闘気がなんだというのだ! それに、奥義はまだ残っている!」
「そうか。来いよ」
ガキンッ!
キンッ! ガキッ!
キンキンキンキンキン!
「さすがアイン様! シェリア団長の奥義をことごとくさばいている!」
ややあって。
「ぜえ……! はぁ……! ぜえ……!」
汗だくになったシェリアが、筋肉をけいれんさせながら、俺をにらみ付ける。
「奥義はもうおしまいか? 今度はこっちから行くぞ」
俺は闘気で身体強化。
一歩踏み込んで、彼女の胴めがけて剣を振る。
彼女は剣で、俺の攻撃を受けようとする。
がきぃいいいいいいいいいいん!
ドゴォオオオオオオオオオオオオオン!
闘技場の壁に、彼女が埋まる。
「なっ、なにが起きたんだ……いったい?」
「シェリア団長がアイン様の攻撃を受けた、と思ったら吹っ飛ばされてたぞ!」
シェリアは壁に埋まって、身動きできないようだった。
「う……うう……ば、ばかな……。聖騎士の防御能力は全ての希少職のなかで最強だぞ? なのに……どうして……?」
「俺の攻撃が、その防御力を上回ってたってだけだ」
ぐぐっ……とシェリアが動こうとする。
だが体に力が入らないのか。
なかなか埋まった壁から抜けられないでいた。
「もう終わりか?」
「だ、まれ……黙れ黙れ黙れぇええ!」
シェリアは気合いで体を動かし、壁から体を引き抜く。
「はぁー……はぁー……はぁー……」
「ふらふらじゃないか。無理するな。降参した方が良い」
「うる……さいうるさい! 私は負けない……! 負けてない!」
確かにシェリアはボロボロだが、目は死んでいなかった。
「こうなったら……! 最後の手段だ!」
シェリアは剣を構える。
彼女の体から凄まじいプレッシャーを感じる。
「久々に出るぞ! シェリア団長の最終奥義! 【天衣無縫】だ!」
「神速の連続斬りで周囲一帯、あらゆるものを粉みじんに切り刻む最強の奥義だ!」
「攻撃範囲は客席まで届くぞ! みんな避難しろ!」
団員たちが逃げようとする。
「おい、他の奴らが逃げるまで、待ってやれよ」
「だまれぇ! 殺す! 貴様を今すぐ殺してやるぅうううううううう!」
……ああ、やっぱり、ダメだこいつは。
完全に自分のことしか頭にない。
「くらえ! 【天衣無縫!】」
彼女の腕が速すぎて、消えたように見える。
俺は闘気で体を、そして剣の威力を強化。
剣を上段にかまえ、やや強めの一撃を、放つ。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
闘気の乗った一撃によって、彼女の剣が粉々に砕け散る。
攻撃を真正面から破られ、シェリアはその場に尻餅をつく。
「なんなの……いまの……いったい……?」
「闘気の乗った一撃の威力、思い知ったか?」
「うそ……うそだ……必殺の最終奥義なんだぞ……? 私の……自慢の必殺技が……こうもあっさりと……」
茫然自失するシェリア。
「審判。ジャッジを」
「はっ……! しょ、勝者! アイン・レーシック殿!」
「「「おぉおおおおおおおお!!」」」
観客たちが歓声を上げる。
「すげえ! アイン殿が騎士団最強のシェリア団長に勝ったぞ!」
「しかも余裕勝ちだ! さすがアイン様!」
観客席から、騎士団員たちが降りてくる。
「アイン様! 闘気ってやっぱすごいんですね!」
「ああ。訓練すればあれくらいなら、みんなできるようになるぞ」
「「「おおー! すげええ!」」」
「…………」
ふらり、とシェリアが立ち上がる。
フラフラとした足取りで、彼女が立ち去っていく。
「……おい、シェリアさんに付き添って医務室まで行ってやれよ」
「……えー、やだよ。だってあのひと、私たちが客席にいて、巻き込むのわかってて最終奥義撃ってきたんだよ?」
「……元からあの人気に入らなかったんだよ。アイン様の方がよっぽどいいし!」
シェリアは目から大粒の涙を流しながら、俺をにらみ付け、去っていった。
団員たちは俺を見やると、いっせいに頭を下げる。
「アイン様! いえ、団長! 私たちにぜひ闘気のご指導を! よろしくお願いします!」
「「「お願いします! アイン団長!」」」
そう言えば、団長の座を賭けた勝負だったんだ。
……まあ、成り行きとはいえ、勝ってしまった以上は、やるしかないよな。