105.鑑定士、付与術で騎士団の戦力増強する
俺が上級魔族コキュートスを助けてから、数日後。
王城。
騎士団の詰め所。会議室にて。
会議室には騎士団長たちが集まっていた。
王国騎士団は、6つの団に別れている。
それぞれ、団の名前は、
赤の剣。青の槍。黒の斧。
緑の盾。黄の弓。白の杖。
各団に団長がいて、団をとりまとめるのが騎士団統括エイレーンだ。
「うむ! 皆よく集まった! 今日は敬愛すべきアイン殿が、我々を強くしてくれるそうだ! みな敬礼!」
バッ! と騎士団長たちが敬礼の構えを取る。
そんななか、一人だけむすっとした顔で、そっぽを向く女がいた。
「む! どうしたシェリア! 敬礼してないぞ!」
「私はこんな男に敬意を払っておりませんので」
「よし! わかった! あとで説教だ! それで、アイン殿! 具体的にどう我々を強化してくれるというのかっ?」
俺はうなずいて、説明する。
「最初俺は闘気を教えようと思った。だが人間はどうやら、基本的に闘気をそもそも持っていないらしい」
闘気は、一部例外を除いて(エルフなど)、精霊や魔族しか持ち合わせていないそうだ。
「魔族から吸収した闘気を人に分けれないかと思ったのだが、訓練していない人間の体の中に闘気を入れると、膨大なエネルギーに耐えきれなくなって、破裂して死ぬらしい」
ざわざわ……と騎士団長たちがざわめき出す。
「けど闘気が使えないのでは、魔族、特に上級魔族たちと渡り合えない」
「それでは、お手上げではないでしょうか?」
騎士団長の一人が、手を上げて意見をする。
「だが、問題ない。【付与】を使う」
俺は右手から、何の変哲もない鉄の剣を取り出す。
「【付与術士】の技能だ。能力や魔法を、物体や他人に移す技能を言う。そして、これには闘気も適応されるらしい」
付与術士たるコキュートスから、俺は付与の技能をコピーしたのだ。
俺は鉄剣の腹に、指を立てる。
「【闘気・付与】」
ぶぅうん……と指が光る。
指で刃の腹を、ゆっくりとなぞる。
すると少量の闘気が、徐々に吸い取られ、それは剣へと流れていく。
「おお! 剣が! まるで黄金のように輝いているではないか!」
「ちょっと手に持ってみてくれ」
俺はエイレーンに剣を手渡す。
「特段変わったところはないな! 重さもいつも通りだ!」
「じゃあそれで、こいつをちょっと斬ってみてくれ」
俺は【召喚】の技能を発動。
足元に出現した魔法陣から、召喚モンスターが出てくる。
「おおっ! 氷竜ではないか!」
Sランクのドラゴンモンスターだ。
「俺が使役する魔獣だ。反撃されることはない」
「おお! Sランクモンスターをテイムしているとは! さすがアイン殿!」
闘気の付与された剣を、エイレーンが構える。
「では遠慮無く斬らせてもらおう! せやぁあああ!」
ズバンッ……!
氷竜は、右肩から斜めに、真っ二つになった。
「おおっ!」「すごい!」「なんて威力だ!」
騎士団長たちが目をむいている。
「アイン殿! これは凄まじい剣だな! どこの名刀だろうかっ!」
「街で売ってるただの鉄の剣だ。そこに闘気を付与しただけ。闘気には身体強化だけで無く、物体の攻撃力や防御力を上げる効果があるんだ」
おおー……! と騎士団長たちが感嘆の声を上げる。
「闘気を付与した武器を使えば、今の段階でSランクや、古竜くらいは余裕で倒せると思う」
俺は右手を前に出す。
無限収納の魔法紋から、闘気を纏った武器が山のように出てきた。
「レーシック領の【万能菜園】で量産した武器に、俺があらかじめ闘気を付与しておいた。これを使ってくれ」
「す、すごい! こんなにたくさん!」
「さすがアイン様だ!」
ワッ……! と騎士団長たちが沸き立つ。
「まずは俺の作った闘気の武器を騎士団全員に装備させてくれ。それに慣れるところから始めよう」
俺は魔法紋のなかに武器を戻す。
「さすがだアイン殿! このエイレーン、感激したぞ!」
ガシッ! と彼女が俺の手をにぎって、ぶんぶんと振る。
「このような最強の武器を、我々騎士団のために無償で提供してくれるだなんて!」
「気にしないでくれ。たいしたことじゃないからな」
「なんと謙虚なのだろうか! 君のような素晴らしい人が我が国にいてくれたこと、誇りに思う!」
「統括の言うとおりです!」「アイン様は素晴らしい方だ!」「さすがレーシックの英雄!」
騎士団長たちが立ち上がって歓声を上げるなか、面白くなさそうにする人物が1人。
「……ちっ」
ガタッ、とシェリアが立ち上がる。
「うむ! シェリア! どこへ行くのだ!」
エイレーンが女騎士団長の肩を掴む。
「こんな会議は無意味です」
「そんなことはない! 大いに意味があった! 我々でも強敵に太刀打ちできるとわかったからな!」
シェリアが、はぁ……とデカくため息をつく。
「こんな得体の知らない男の、得体の知らない武器を、なぜみなは簡単に信用し、使おうとするのか。私には理解できません」
キッ……! とシェリアが俺をにらみ付ける。
「おいシェリア! いい加減にしろよ!」
団長の一人が、シェリアのもとへいき、胸元をひねりあげる。
「アイン様は得体の知らない人じゃない! 我が国の至宝だ!」
「忙しいなか我らのためにわざわざ時間を割いてくれているんだぞ! なのになんだよその言い草!」
他の騎士団長たちが、抗議の声を張り上げる。
「ふんっ! 言っただろう。私はこいつを信用していない。なにが闘気だ。そんなものなくとも、私たち【赤の剣】は魔族と太刀打ちできる」
シェリアは腕を払うと、きびすを返して出て行こうとする。
俺は彼女を呼び止める。
「待てよ。おまえが闘気武器を使わないのは勝手だ。だが、部下たちにも使わせないつもりか?」
「当然だ。得体の知らない武器を持たせない。これは【赤の剣】騎士団長の下した絶対的な命令だ」
この女、部下に闘気武器を持たさずに魔族と戦わせようとしているのか。
「自分たちの命に関わる決定事を、部下たちの意見も聞かず、どうしておまえが勝手に決めてるんだよ?」
「愚問だな。私は騎士団長。彼らのリーダーだからだ」
「仲間の命のことを大事に考えないでなにがリーダーだ。おまえみたいな自分勝手なヤツに騎士団長は務まらねえよ」
この女に、どうして腹が立つのかわかった。
仲間の命を簡単に切り捨てる、あのゾイドとそっくりだからだ。
「……貴様は、自分の方が騎士団長に向いていると言いたいのか?」
「少なくとも、自分勝手なおまえよりは向いてると思うよ」
「そうか……ならば!」
シェリアが剣を抜いて、俺に切っ先を突きつける。
「アイン、私と決闘しろ! 【赤の剣】の団長の座を賭けて!」