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104.上級魔族、逃亡し鑑定士の奴隷となる



 鑑定士アインが、騎士団たちに稽古をつけている、一方その頃。


 魔公爵の1人。

【コキュートス】は、魔界から逃亡。


 人間の国、王都南部に転移した。


「よ、よし……。座標はちょっとずれたけど、大丈夫! アインの元へ急がなきゃ!」


 青みがかった銀髪を揺らしながら、走る。


 儚げな美少女、といった面持ちではあるが彼女もまた魔族。脚は人間より速い。


「はぁ……! はぁ……! 早く逃げないと……追っ手が……!」


 見知らぬ土地を、あてもなく走る。


 ややあって、ようやく街が見えてきた。


「や、やった! これで助かるぞ!」


 と、そのときだった。


 ドガァアアアアアアアアアアアアアン!


 コキュートスは、背後からの爆撃を受け、前方へと吹っ飛ばされた。


「アッ……!」


 激しい火傷の痛みに耐えながら、背後を見やる。


「いけませんねぇ、コキュートス様。我々を裏切るなんて」


 そこにいたのは、侯爵(序列2位)が1人。


【爆炎】エクス・プロージョだ。


 浅黒い肌に尖った耳の男が、にやにやとした笑みを浮かべている。


「コキュートス様、なぜ我々を裏切ったのですか?」


「……わ、わからないの?」


「ええ、裏切り者の考えていることなど、私にはさっぱり理解できませんね!」


 エクスが指を鳴らす。


 その先から火花が散る。

 それはコキュートスまで伸びていき、ぶつかると同時に爆発した。


 ドガァアアアアアアアアアアアン!


「アッ……!」


 今のでコキュートスは右腕の機能を失った。


 激しい痛みに顔をしかめる。


「あ、あなたたちは……鑑定士を、侮りすぎ……」


「なんですと?」


「いい加減気付いてよ! あの鑑定士は、尋常ならざる強さを持っている! 彼に挑むのは自殺行為だって! どうしてわからないの!?」


 上級魔族たちは、みなアインをただのサルと見下してる。


 しかしアインは3人の上級魔族を倒した。


 長い歴史のなか、倒されたことのなかった最強の12人のうち、四分の一が彼の手で消されたのだ。


「彼に挑むことは愚策! もう手を出さない方が賢いって、なんでわからないの!?」


「なるほど……貴女の言いたいことは、わかりました」


「そ、そう……良かったぁ。なら、あの御方と、みんなに伝えて。もうアインを狙うのはやめようって……」


 ドガァアアアアアアアアアアアアン!


 爆撃を真正面から受け、コキュートスは背後に吹っ飛んだ。


「よくわかりました。……あなたが、臆病者であることが」


 エクスが侮蔑の表情を浮かべる。


「あんなサル恐るるに足らず。それにヤツを殺せば【公爵】の座が、労せず手に入るんですよ?」


「……そんな、ものより、命の方が、大事でしょ……?」


「命よりも名誉です。もっとも、魔族の誇りを捨てた、臆病者のあなたは、理解できないことでしょうが」


 爆撃を受け倒れ伏すコキュートスを、間近で、エクスが見下ろす。


 彼女の髪を乱暴に掴み、無理やり立ち上がらせる。


「あの御方から、裏切り者の排除を命じられてきました。あなたは、用済みなんですよ」


「だ、れか……たすけて……」


「ははっ! 裏切り者のあなたを、いったい誰が助けるというのですか? 死ねぇ!」


 そのときだった。


 ボシュッ……!


 エクスの腕が、突如消失したのだ。


「な、なんだ!? なにをされた!?」


 ドサッ、とコキュートスが倒れる。


 周囲を見渡すと、上空に人影があった。


「あ、あなたは! アイン様!」


 鑑定士アインが、コキュートスたちを見下ろしているではないか。


「ははっ! 好都合です! 自分から殺されに来るとはねぇ!」


 片腕だけになっても、エクスの戦意は衰えていなかった。


 彼に向かって、エクスが指を鳴らす。


 火花が鑑定士に向かって伸びていく。


「! き、気をつけて! それに触れちゃだめ!」


 コキュートスの忠告に、しかしアインは冷静に対処する。


 剣を取り出し、軽く振った。


 パリィイイイイイイイイイイイイン!


「ば、バカな! わが攻撃を弾いただと!?」


 はじき返された火花は、エクスに命中。


 ドガァアアアアアアアアアアアン!


 激しい爆炎が上がる。


「だがしかぁし! 我は炎の魔族! 自分の攻撃ではダメージは受けぬわ!」


「知ってる」


 エクスの背後に、鑑定士が一瞬で移動していた。


「なっ!?」


 エクスが驚愕に目を見開いている間に、アインは剣で攻撃。


 ズバァアアアアアアアアアアアアン!


 闘気オーラの乗った強烈な一撃は、エクスを消し飛ばした。


 後にはボロボロのコキュートスだけが残される。


「…………」


 アインの目が、自分を見下ろす。


「た、たすけて……」


 か細い声で、コキュートスは命乞いする。


 彼は手のひらを、向けてくる。

 殺される……! と身構えたのだが。


 シュォオオオ…………!


 みるみるうちに、コキュートスの火傷が癒えていく。


 それどころか、失っていた右腕の機能が回復した。


「し、信じられない……元通りだ……」


 コキュートスは、治癒してくれた命の恩人である彼女と、そしてアインに頭を何度も下げる。


「助けてくださり、どうもありがとうございます! ありがとうございます!」


「気にするな。……それより、おまえは上級魔族のひとり、【付与術士エンチャンター】コキュートスだな」


 なぜそれを、と思ったが、彼には鑑定能力があることを思い出した。


「は、はい。その通りです……」


 ここで嘘を言ってもしょうがない。


「上級魔族が、どうして部下に殺されそうになっていた?」


「それは……わたしが、裏切り者だからです。わたしは魔界から逃亡しました。……あなたに、会うために」


 コキュートスはアインに、土下座をした。


「お願いします! わたしを、あなたの庇護下においてください!」


 コキュートスは懸命に説明した。


 自分にはアインと敵対する意思はない。しかし戦わないと上級魔族たちからいずれ排除される。だから助けて欲しいと。


「奴隷としてこきつかってくれて全然構いません! あなたの屋敷を掃除する奴隷として雇ってください! お願いします! お願いします!」


 必死になってコキュートスは頼み込む。


 彼はしばし沈思黙考していた。

 時折誰かと話す声がした。


 ややあって。


「……わかった。うちにこい」


「よ、よろしいのですか……?」


「ああ。俺も魔族の内部事情を教えて欲しいって思ってたしな。それに、おまえの【付与術士】としての腕を借りたい」


 付与術士。希少職レア・クラスのひとつだ。


 魔法を武器に付与する【魔法付与】。

 能力を相手に付与する【能力付与】。


 などなど、直接相手を攻撃する手段はもっていないが、戦いを有利に進める技能スキルをいくつも持っている。


「ありがとうございます! あなたに一生付いていきます! アイン様!」

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― 新着の感想 ―
予想通りの展開 唯一まともなキャラですからね もしかしてコキュートスを引き立てる為に全員馬鹿にしていた……? いや、それにしてはやり過ぎの気もしますが
[良い点] はじき返された火花は、コキュートスに命中。 ギャグ漫画かw
[一言] コキュートスだけ魔族の中で名前が適当じゃないからさては……と思ってたら、案の定仲間になったwww
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