103.鑑定士、騎士団全員を相手に無双する
国王から、騎士団を強くしてくれと依頼された。
俺はその話を受けることにした。
隠しダンジョンにもぐっているとき、魔族たちが襲ってきたら困るからな。
打診を受けた数日後。
王城の庭にて。
王国騎士が整列しているなか、俺は彼らの前に立っていた。
かなりの数だ。
庭いっぱいを埋め尽くすほどだった。
「傾注!」
台の上に、統括である女が立っている。
「騎士団統括の【エイレーン】だ! 今日は諸君らに紹介したい人物がいる! アイン・レーシック殿だ!」
エイレーンがにかっ! と爽やかな笑みを俺に向ける。
俺はたじろぎながら、台の上に乗る。
「アイン様だ!」「古竜殺しの英雄だ!」「この間はありがとう!」
俺に好感情を向けるものいる。
だがどちらかというと、
「……だれだ、あれ?」「……子供がなんのようだ?」
騎士たちは明らかに、俺に不審なまなざしを向けている。
むしろその反応の方が多数派だ。
「さて諸君! 最近魔族の動きが活発になってきているという。そこで! 我々はアイン殿に稽古をつけてもらうことになった!」
いやちょっと説明不足すぎないか……?
「……は? なんで?」「……どうしてこんなガキに?」「王国騎士であるおれたちが、稽古つけてもらわないといけないんだよ?」
ほらやっぱりそうなるよ……。
「どうした諸君! アイン殿が忙しい時間を割いて我々に稽古をつけてくれるというのだぞ! もっと喜べ!」
「あ、あの……エイレーンさん? この人ら俺のことなにも知らないから、納得しないと思うんですけど……?」
「そうだそうだ!」
「どうしてひ弱なガキに稽古つけてもらわないといけないんだよ!」
騎士たちから不満が爆発する。
「だいたい魔族なんて別にたいしたことねーよ」
「そーそー。ま、戦ったことないけど、おれら王国騎士団の精鋭が負けるわけないし~?」
どうにもこの場の騎士は、魔族と本気でやりやったことのないやつらばっかりみたいだ。
「なるほど……よくわかった!」
エイレーンが力強くうなずく。
「つまり諸君らは、自分たちがアイン殿より遥かに弱いことを自覚してないということだな!」
「はぁ!? ちょっ……おまえなに言ってるんだよ!?」
エイレーンが笑顔で言う。
「しかし君が騎士たちより遥かに強いのは事実であろう!」
「いやそうだったとしてもさ……」
すると、それを聞いてた騎士が、怒りの表情を浮かべる。
「あぁ!? 誰がてめえより弱いって!?」
「ふざけんな! 弱っちそうなガキのくせに偉そうに!」
ああほらややこしいことになってきた……。
「諸君! 落ち着きたまえ!」
エイレーンの一喝に、騎士たちが黙りこくる。
「ではこうしよう! 今からアイン殿と諸君らとで決闘を行うこととする!」
「ちょっと!? なに言ってるんだあんた!」
俺はエイレーンの腕を引っ張る。
「諸君らは君の素晴らしい力を理解していないようだ! ならば直接その力を見せつけるのが早いと思ってね!」
グッ……! とエイレーンが親指を立てる。
「上等だごらぁ!」「てめえみたいな調子乗ったクソがき、ワンパンで倒してやる!」
血気盛んな若者騎士たちが、俺にくってかかってくる。
「よし! アイン殿! さっそく勝負と行こうか!」
「いや……戦う意味ある?」
「大いにある! 彼らは本当に強いものと戦ったことがない。敵の強さの程度を知っておくべきだと思わないかい?」
……まあ、エイレーンの言うことも一理あるっちゃある。
「……わかったよ」
エイレーンから木刀を借り、俺は台から降りる。
「では諸君! 順番に彼に挑んで……」
「いや、その必要は無い」
俺はエイレーンを遮って言う。
「全員だ。全員で、かかってこい」
俺の挑発に、騎士たちがキレる。
「はぁ!? 全員だとぉ!?」
「なめてんじゃねえぞガキぃ!」
騎士二人が、俺に詰め寄ってくる。
俺は【護身術】を使用。
一人目を足払いし、二人目の腕をとって投げ飛ばす。
「な、なんだ今のは!?」
「どうした? 全員でかかってこいっていったつもりだが?」
俺は騎士たちを見回して言う。
「上等だ! あのガキにおれたちの強さを見せつけてやるぞ!」
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」
大量の騎士たちが、武器を手に、俺にかかってくる。
俺は【闘気】で身体能力を強化。
ただし、超手加減する。
借り物の木刀を、俺は軽く振った。
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
「「「うぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」
たくさんの騎士たちが、まるで木の葉のように吹き飛んでいく。
「な、なんだ今の!?」
「まるで台風だったぞ!?」
驚く騎士たちに、俺はため息をつく。
「なにこの程度でびびってるんだよ? それでも国を守る騎士かよ?」
「だ、だまれ!! おい突撃だ! 全員突っ込め!」
今度は槍を持った団員たちが、俺に駆け寄ってくる。
無数の槍が俺を串刺しにしようとする。
さっきので木剣は壊れた。
俺は槍の軌道を鑑定能力で見切り、その全てを避ける。
「なっ!? この数の槍をすべて避けるだと!?」
「もっと殺す気でやれ」
俺は槍部隊の間をすり抜けながら走る。
彼らのミゾオチを、拳で殴っていく。
「がッ!」「ぐっ!」「ぐぇえ!」
一撃受けた騎士たちが、次々と倒れておく。
「矢、矢を放てぇえええええええ!」
「魔法だ! 魔法で焼き殺せぇ!」
ずぉおおおおおおおおおお!!!
弓部隊と杖部隊(魔法部隊)が放った矢と魔法が、雨あられと俺に降り注ぐ。
俺は精霊の剣を取り出し、それらを攻撃反射。
パリィイイイイイイイイイイイン!
矢と魔法を、すべてはじき返す。
弾いたそれらは、【精密射撃】の能力によって、彼らの弓や杖を正確に破壊した。
「な、なんだよあの強さ……」
「異常だ。桁外れじゃないか……」
「バケモノだ……」
その場に、残っていた騎士たちが、腰を抜かす。
庭に立っているのは、俺だけになった。
「……おまえら、もっと危機感を持て」
俺は騎士たちを見下ろしていう。
「魔族はこれくらい強い。そして、上級魔族は今見せた力以上の強さを持っている」
「そ、そうだったのか……」
「魔族、やべえじゃん……」
「今のままじゃ死ぬとこだった……」
するとエイレーン団長統括が、台の上で声を張る。
「これでわかっただろう! 我らの相手は規格外に強い! みな死ぬ気で訓練せよ! アイン殿のように強くなり、魔族から国民を守るのだ!」
騎士たちはうなずきあうと、立ち上がる。
「諸君! 今日から稽古をつけてくださるアイン殿に、敬礼!」
エイレーンの号令で、騎士たちが一糸乱れぬ動きで敬礼した。
その顔に、さっきまであった驕りはなかった。
これなら、やっていけそうだな。