101.鑑定士、全滅寸前の騎士団を救出する
獣人国から帰国し、半月ほどが経過した、ある日のこと。
千里眼が、敵の襲撃を察知した。
場所は俺たちの住んでいる国の南部。
その山中にて。
『氷巨象。氷ブレスと長い鼻での強打が特徴。Sランク』
敵の元へと俺は飛翔する。
「……なんだよ、これ?」
山の麓にて。
鎧を着込んだ一団が、倒れている。
俺は倒れている男のひとりに、世界樹の雫をかけて治療する。
「ありがとう……。我々は王国騎士団。マンモスの討伐に来た」
「どうしてこんな酷いケガを?」
「それは……【シェリア】団長が……そ、そうだ! 仲間たちが山のなかで戦っているんです!」
「どういうことだ?」
「麓で最初戦闘になったのです。しかし激しい戦いに仲間たちは傷つき倒れ……。その後マンモスは逃走。深手を負った我々を置いて、シェリア団長たちは討伐に向かいました」
怪我人を放置して、敵の討伐を優先したのか。
「ユーリ。急いで治療する。手伝ってくれ」
金髪美少女が顕現。
世界樹の雫で、まずは麓の団員たちの治癒を行う。
その後俺は飛翔能力を使い、戦闘現場へと急行。
ややあって、白い巨大なマンモスと、それと戦う騎士団の姿があった。
「寝るな! 貴様ら! まだ敵は生きているぞ! 命を捨てて特攻せよ!」
ひときわ威勢の良い女がいた。
鎧を着込み、長い髪。
気の強そうな目つき。
『あれが団長【シェリア】のようじゃ。Aランク。希少職の聖騎士じゃ』
シェリア以外はほぼ死にかけ。
だというのに、あの女はマンモスに特攻をかけようとしてるのか。
マンモスが長い鼻をのけぞらし、氷のブレスを放つ。
俺はマンモスの前に立ち、結界を張り防いだ。
「なんだ貴様! 一般人はどいていろ!」
シェリアは俺の腕をひっぱり、地面に放り投げる。
「いつまで寝てる! 起きろ!」
倒れ伏す部下の腕を、シェリアが無理やり起こそうとする。
俺は立ち上がって、シェリアの肩を掴む。
「おいやめろよ。無理させるなよ」
「黙れぇ!」
バシッ! とシェリアが乱暴に腕を払う。
「もういい! 貴様らはどけ! 私が倒す!」
『アインよ。あの女マンモスにつっこむつもりじゃ。鼻で弾かれ、頭部を強打し死亡するぞ』
「だぁああああああああああ!」
シェリアが真正面から、マンモスに斬ってかかる。
マンモスが長い鼻を持ち上げて、シェリアに向かって振り下ろした。
ボシュッ……!
俺は虚無の邪眼を発動。
マンモスの鼻をまるごと吹き飛ばした。
スカッ……!
シェリアの剣が空を切り、そのまま彼女は、雪に顔から突っ込む。
「ぶべっ……!」
俺はシェリアの脇を歩き、マンモスの前までやってくる。
マンモスがその巨大な前足を振り上げて、俺を踏み潰そうとする。
俺は闘気で身体能力を強化。
パシッ……!
「軽いな」
マンモスの巨体を、片手で押さえる。
逆側の手に、精霊の剣を出現させる。
剣を軽く、マンモスの体めがけて振った。
ズバンッ……!
今の一撃で、マンモスは死亡。
俺は剣を消して、団員たちのもとへ急ぐ。
「大丈夫か?」
「お、おれたちは大丈夫だ。けど……死んだ仲間たちが何人も……」
あちこちに、頭を潰されたり、体がぐちゃぐちゃになった団員たちが見受けられた。
「大丈夫だ。問題ない」
俺は死亡した団員のもとへと向かう。
そのときだ。
「おい貴様! なにをやってる!」
ガシッ! と俺の肩を誰かが掴んだ。
「……なんだ?」
振り返ると、騎士団長のシェリアがいた。
「私の部下になにをするつもりだ!? 事と次第ではたたっ切るぞ!」
ちゃきっ、とシェリアが剣を構えて、俺をにらみ付ける。
「別に、この人たちを蘇生させるだけだ。邪魔しないでくれ」
「蘇生だと!? そんな技術、この世界にはない!」
「そりゃおまえが知らないだけだろ。良いから放っといてくれ。邪魔だ」
すると……。
『アインよ。シェリアに攻撃されるぞ』
ハァ……と俺はため息をつく。
俺は片手で治療しながら、空いている手の方で、シェリアの剣を弾いた。
パリィイイイイイイイイイイイン!
弾かれた剣は宙を舞い、地面に突き刺さる。
「う、嘘だ……我が必殺の剣を、見向きもせずパリィするだと……?」
「もうちょっとおまえ黙ってろ」
俺はシェリアの肩に手を置く。
【昏倒】の能力を発動。
「くっ……」
シェリアはその場に崩れ落ち、寝息を立てる。
「あ、あの……団長はどうなったのですか……? まさか……死んで……?」
「ねむってるだけだ。それより、蘇生だ」
俺は重傷を負っている騎士団員たちに、【完全再生】を使用。
みるみるうちに、体が元通りになり、死んだ人間がよみがえる。
「奇跡だ!」「生きてる! おれ生きてるぞ!」
団員たちは皆元気になった。
「も、もしやあなたは! レーシックの英雄! 古竜殺し【アイン・レーシック】様では!?」
団員の一人が、俺に気付く。
まあ城に出入りしているからな、顔が知られていても不思議じゃない。
「アイン様が助けてくださった!」
「さすが古竜殺し!」
「ありがとうござます! ありがとうござます!」
元気になった団員たちが、皆俺に頭を下げてくる。
良かった……と安心した、そのときだ。
「貴様らぁ! 何をしてるーーー!」
振り返ると、シェリアが目を覚ましていた。
怒りの表情を浮かべて、俺たちをにらんでいた。
「団長! 目が覚めたのですね!」
部下の一人が、シェリアのもとへと駆け寄る。
「この愚か者がぁ!」
バギィッ……!
ズシャアッ……!
シェリアに殴られた団員が、その場に崩れ落ちる。
彼女がすごい形相で、俺をにらんでくる。
「素性の怪しい者の言葉を容易く信じ、あまつさえ感謝するだと? 恥を知れ! それでも王国を守る騎士か貴様らぁ!」
シェリアに叱責され、団員たちの表情が暗くなる。
「おいあんた……いい加減にしろよ。あんたを心配して声をかけてくれたのに、なんだよその態度は」
「黙れ! 魔族め!」
シェリアが、地面に突き刺さっていた自分の剣を手に取る。
「だ、団長! 違います! その方は味方です!」
「こんな強いやつが魔族でなくてなんだというのだ!? 人間ではなかろうが! そんなこともわからぬか馬鹿者どもめ!」
俺はなんだか腹が立った。
だがまあ、どうでも良かった。
「じゃあ、俺はこれで」
「貴様! 逃げるのか!? 正々堂々勝負をしろ!」
シェリアが俺に斬りかかってくる。
俺は剣の軌道を鑑定で見切り、指でつまんで、そして闘気を込めて力を入れた。
パキィイイイイイイイイイイイン!
「ば、ばかな……あの一撃を指で受け止め、くだいただと……」
呆然とするシェリアを無視し、俺はその場から離れるのだった。