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【WEB版】不遇職【鑑定士】が実は最強だった〜奈落で鍛えた最強の【神眼】で無双する〜【アニメ放送中!】  作者: 茨木野
5章

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100/245

100.鑑定士、獣人たちの英雄となる



 ヤードックを完全撃破した、翌朝。


 早朝。

 俺たちはレーシック領へ帰るため、馬車に乗っていた。


「アイン。どうしてこのわらわが、こんな朝っぱらから貴様に付き合って……ふぁぁ~~…………」


 馬車にはエルフ国の王女ミネルヴァも乗っている。


 彼女は人間の国の港から、船でエルフ国に渡る手はずとなっている。


 俺は途中まで、この子を送り届けることとなったのだ。


 ミネルヴァはソファに横になると、ぐーっと寝息を立てだした。


「アイン、さん。どうして、こんな、朝早くに、帰るの?」


『まったくだよアイン。もう少しのんびりして帰れば良いのにね』


 俺の足元で、巨大狼のフェルが、我が物顔で寝そべっている。


「やるべきことは終わったんだ。さっさと帰った方が良い」


 Sランクがうろついていたのは、ヤードックのしわざだった。


 やつはモンスターを使って、王都の水路に、魚人サハギンどもの卵をせっせと運んでいたのだ。


 その卵は全部潰し、魚人も残らず処分した。


 建物の損壊はゼロ。Sランクが徘徊することもない。


 後顧の憂いは全て絶った。


「長居してると、またこの国に迷惑かけちまうしな」


『アインの言うとおりじゃ。また卑怯な魔族が国民を人質に取るやもしれぬ』


 ややあって。


『ご主人様。出発の準備が調いました』


「ミラ、出してくれ」


 御者台に座るミラが、馬車を動かす。


「なんか、夜逃げ、みたいです。ちょっと……さみしい」


「また落ち着いたら観光に来ようぜ」


 俺がユーリの頭を撫でていた、そのときだ。


「「「アイン様ぁあーーーーーー!」」」


 窓の外から、誰かが俺を呼んでいた。


 窓を開けると、そこには……。


「アイン様!」「アイン様だぁ!」「アイン様ぁあああああああああ!」


 凄まじい数の獣人たちが、窓外にいて、手を振っていた。


「アイン様ぁ! おれたちの国を守ってくれてありがとぉーーーーー!」


「魚人たちからわたしたちを守ってくださって、どうもありがとぉーーーーーー!」


「「「ありがとぉーーーー!」」」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 獣人たちの喝采を受けて、俺は困惑する。


「な、なんでこいつら、昨日の騒動知ってるんだよ……」


 俺はあくまで、フェルとエミリアに、住民の避難を頼んだだけだ。


 その内容は伝えてない。


『僕が教えたからさっ!』


 足元でフェルが、得意そうに鼻を鳴らす。


『理由もなく避難誘導なんてできないしね!』


「けどおまえ……別に俺が倒したって言わなくっても……」


『そりゃ無理さ! だって君が国と国民を守ってくれたことは事実じゃないか!』


 フェルは俺の首根っこを掴むと、窓から出て、ひらり、と馬車の上に乗る。


 俺はフェルの背中に乗っている。


「アイン様-! ありがとー!」

「我らが英雄様! 素敵ー!」


「おれ、おっきくなったらアイン様みたいな、英雄になるんだ!」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 獣人たちが手を振るなか、馬車はゆっくりと道路を進んでいく。


「み、ミラ。もっとスピード出してくれよ……恥ずかしい……」


「それは不可能です。皆の期待に応えてこそ、英雄というものです」


 ミラが笑顔を俺に向ける。


「さすがです、アイン様。ご覧ください、国民たちは皆、あなたをもう親善大使と見ておりません」


 彼らの目はみんな、キラキラと輝いていた。


「アイン様は隣国の親善大使ではなく、獣人国を救ってくださった、英雄アイン・レーシックです。その名前は子々孫々にまで、長く語り継がれていくことでしょう」


「いや……大げさな……」


『安心しなよ! 僕がずぅっと、君の偉業を後の世に残し続けてあげるからさ! 感謝しなよね!』


 そう言えば獣人たちに異様に愛される、宣伝隊長がいたっけここに……。


 そんなふうに獣人たちのなかを進んでいく。


 やがて、城壁へとたどり着いた……そのときだ。


 ガラガラガラ…………ピタッ。

 

「ミラ? どうして馬車を止めるんだ?」


「アイン様。あちらに……」


 ミラが指さす方に、獣人国女王エミリアがいたのだ。


 フェルは飛び上がって、エミリアの元へ軽々と着地する。


「エミリア。なにしてるんだ、こんな朝っぱらに?」


「それはもちろん、我が国の英雄をお見送りにやって来たのよ」


 俺はフェルから降りる。


 国民たちは遠巻きに、俺たちの様子をうかがっていた。


 エミリアは微笑むと、深々と頭を下げる。


「アインさん。ありがとう。この国の危機を救ってくださったこと、心から、感謝しています」


「「「アイン様! ありがとぉーーーーーーーーーーーー!!!!」」」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 さっきの何倍も大きな歓声があがる。


 俺は……正直戸惑うことしかできなかった。


「いや……俺だけが感謝されるのは筋違いなんだが……」


『アイン、さん』


 いつの間にか、目の中に戻っていたユーリが言う。


『ありが、とー……』


 ユーリは涙声だった。


『みんな、の、笑顔……まもってくれて。ほんとうに、ありが、とー♡』


「ユーリ……」


『わたし、あなたと一緒に外、でれて……良かった。優しいあなたが、わたしたちの、そばにいてくれ、て、良かった……』


『みな、同じ思いじゃアインよ。良いのじゃ、栄誉はおまえのものとして受け取ってくれ。わしらはこの声援が聞けただけで、満足じゃ』


 俺は戸惑いつつも、しかしわかった、とうなずく。


「アインさん。もう出て行かれるのですか? あなたに感謝する宴を開くおつもりだったのに」


「気持ちだけ受け取っておくよ。俺は当然のことをしただけだ」


 するとエミリアが、感嘆のため息をつく。


「さすがね、アイン君。その高潔な精神に、心から敬意を表します。ありがとう……」


 エミリアは国民たちに向けて、声を張る。


「みんな! アイン様がお帰りになられるそうです! 惜しむ気持ちはわかりますが、彼らの旅路を、今は心から祝福しておくりだしましょう!」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 その後、俺たちは馬車に乗り込む。


 そして、国民たちが見守るなか、城壁をくぐりぬける。


「アイン様ぁ!」「また遊びに来てねぇ!」「次はもっともっとサービスするからなぁ!」


 獣人たち全員が、城壁の外へ出てきて、笑顔で手を振る。


「我らが獣人たちの英雄に、ばんざーい!」

「「「ばんざーーーーーーーーい!」」」


 ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 いつまでも鳴り止まない歓声と拍手を聞きながら、俺たちはレーシック領へ向けて、旅立つ。


「アイン、さん。くーちゃんの、お父さん……王様の、ゆーとーり、でしたね」


 隣に座るユーリが、ニコニコしながら言う。


「アイン、さんは、自覚無しで、偉業を達成するって♡」


『うむ、まったくじゃな。ほんと、あの国王は慧眼じゃなぁ』


 ……かくして、獣人国での騒動は、これにて終結したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「さすがね、アイン君。その高潔な精神に、心から敬意を表します。ありがとう……」の、精紳の文字が違います。
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